石丸:黒木瞳さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、3週にわたって人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は、“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしていきます。黒木さん、それは何でしょうか?
黒木:「料理とタップダンス」です。
石丸:もちろんタカラジェンヌでいらっしゃったからダンスはお得意なんでしょうが、料理というのは、(宝塚の)現役時代は?
黒木:私、演劇部と声楽とピアノに明け暮れていましたので、母から料理は一切習っていないんですよね。そのまま宝塚に入りましたので。ある時、宝塚の街に美味しいカレー屋さんがあって、そのカレーを作りたいということで、知り合いの方のキッチンを借りて作ったんですよ。玉ねぎを切ったりして。
石丸:包丁を持ったことはありましたか。
黒木:包丁使いは上手いんですよ。それだけは出来るんです。ただ、料理はやったことがないし、興味もない。でも、その時はやったんです。そうしたら、次の日の舞台がすぐに失神しちゃう役で、手を顔にあてて倒れるシーンがあった時に、“ああ、手が玉ねぎ臭い”って思ったんです(笑)。
この夢の舞台に立っている時に、いきなり“玉ねぎ臭い”という現実が一瞬、“ウッ”と来たんですよ。
石丸:芝居が変わりそうなんですけど(笑)。
黒木:その時に、“私は宝塚(現役)時代に料理はやってはいけない”と心に誓ったんです。
石丸:なるほど(笑)。
黒木:そういうこともあって、料理に興味もないし、作る機会もあまりなかったし、教えてももらえなかったので、結婚する時に、夫に「私はお料理はしません!」と言ったら、「それでも結婚したい」と言われたので、「じゃあ、(料理は)しません」と結婚をしたのです。
石丸:そのまま、料理はしないままですか?
黒木:それがですね、まんまとハマりまして。“ハマった”んじゃなくて、夫にまんまと“はめられた”んですね。
石丸:はめられた?
黒木:夫に「作らなくて良いけど、ただ、僕の母が作るチキンカリーだけは作ってほしい」と。
石丸:なるほどね。
黒木:どうも、義母がロンドンで(作り方を)教わってきたチキンカリーがとにかく美味しい、と。
石丸:なるほど。
黒木:最初(チキンカリーを)食べた時に、本当に美味しかったんです。それで(作り方を)教えていただいて、自分でも作れるようになったんですけど、それが美味しかったんです。それではめられたんです。
石丸:(笑)。
黒木:“何、私、(料理を)作ったら美味しいじゃん”って(笑)。それから義母に、タンシチューだったり、アイリッシュハンバーグだったり、海外が長い方だったので、たくさん洋食を教えていただいて。それで、作ると美味しいんですよ。“私って何者?”って自画自賛で(笑)。
石丸:お腹が鳴りそうなんですけど(笑)。
黒木:やっぱり先生が良くて。義母が教えてくださったので。
石丸:じゃあ、どんどんレパートリーも増えて?
黒木:そうですね。その後、私の母の方からは和食を教えてもらって。だから、洋食と和食を教えてもらえてちょうど良かったんです。
石丸:まさに“まんまと”ですね。
黒木:はい。“はめられた”というか“自分で作ると美味しいな”ということが分かって。
石丸:じゃあ、お料理は、外で食べるよりはご自分で作って?
黒木:外食は少ないですね。
石丸:このコロナ禍はあまり外へ行けなかったし、腕を振るいまくり?
黒木:そうですけど、“やらなきゃいけない”となると、やりたくないじゃないですか。だから、ウーバーイーツや出前の時も多々ありました(笑)。
石丸:でも、(料理を)やると美味しいものが出来上がる。
黒木:あと、挑戦もします。ハワイで食べたテールスープが美味しいから、テールを買ってきて。臭みを取るのがそれは大変でした。
石丸:お肉は下処理がありますもんね。でも、完成された?
黒木:はい!
石丸:話は変わりますが、タップダンスについてお伺いしたいのですが。
黒木:私の性格に、タップダンスって“合う”んです。石丸さんもやっていらっしゃいますよね?
石丸:専門ではないですけど、かじるくらいでしたね。
黒木:私も宝塚の学校時代は授業でやっていましたけど、(宝塚を)辞めてから随分経った時に、あるミュージカルで「タップをやってみたら面白いかな」というアイデアが出て。すっかり忘れていたので一からタップを始めたんです。そうしたらハマりまして。タップって、ゆっくりやれば誰でも出来るんですよね。それを、タタタタッと速くやるように練習していくんです。
石丸:そうですね。皆さん、タップダンスというのは靴の底に金属の板が貼ってあるんですよ。
黒木:そう。爪先に「ボール」と、かかとに「ヒール」というのがね。ボールとヒールで音を出していく。
石丸:どちらかを“踏む”というか、(床に)当てて鳴らしていくことの連続なんですが、思ったより難しいんですよね。
黒木:でもね、“難しい”と思っていてタップをしない方も多いと思うんですけど、これをコツコツとやるんです。ゆっくり「タ、タ、タ、」から少しずつ速くなって「タタタタッ」という風に。そしてダメになったらまた元に戻って…と。このコツコツが私の性格に合うんです。
石丸:合うんですね。すぐ出来ちゃう人なのに。
黒木:全く出来ません。でもね、いつか出来るんですよ。
石丸:なるほどね。ちゃんと(練習を)積んでいけば、いつか出来る。
黒木:そうなんです。
石丸:これ(タップダンス)というのは、若くても歳を取っていても出来るものなんですか。
黒木:はい。使い方次第で、腰とか膝に負担があまりかからないので。もし筋肉痛があるとすれば、内転筋(内もも)くらいかな。結局、タップって、こう…「もも上げ」って分かります?
石丸:はい。いわゆる足を引き上げていく。
黒木:これが出来なくなると、階段の上り下りも出来ないじゃないですか。
石丸:そうですね。
黒木:そして、歩くのも歩幅が狭くなって転びやすくなりますよね。タップをやっていると、ちゃんと歩幅が出て転びにくくなって、階段も上がれるという。
石丸:筋肉がちゃんと作られるからかな。ももを上げないと(ステップを)踏めませんからね。
黒木:そうですね。あと、ヒールタップとかで、かかとだけを“ドン”とやるでしょ。あれって骨粗しょう症の予防にすごく良いんですよ
石丸:そうか! 「(骨粗しょう症予防に)かかと落としをやれ」とよく言いますけど、あれと同じ効果ですね。じゃあ、これは老化防止にもなる。
黒木:なります、なります(笑)。
石丸:タップダンス(の動画)をYouTubeに上げていらっしゃるんですよね。
黒木:そうなんです。
石丸:拝見しましたが、本当に分かりやすくて。
黒木:いえ、私はまだまだ中級の下くらいなんですよ。ものすごく素晴らしい先生方がいらっしゃるので。
石丸:でも、楽しいですよね。
黒木:やればやるほど少しずつ上手になっていくし、いろんな技術があるんですが、「ジャックナイフ」というステップがあるじゃないですが。私、この音を出すのに10年かかったんです。
石丸:そうなんですね!
黒木:先生が「絶対に出来るから」とおっしゃって。練習していると、「とにかく痩せるか筋肉をつけるかをしないと出来ない」と言われて、“うーん”とか思いながら(笑)。
石丸:もう痩せていらっしゃるのに。
黒木:それでも“いつか出来る”と信じて…10年でしたね。出来た時は先生にLINEをしました。「ジャックナイフの女より」って(笑)。
石丸:怖い(笑)。
黒木:だから、いつか出来るの。それがタップの良さ。
石丸:それが長く続けられる理由でもありますよね。上を目指せばいろんな技もありますけど、鳴らそうと思えば誰でも鳴りますし。
「楽しい」、これは僕も分かります。若さを保つためにシニアの方もぜひ挑戦して欲しいなと思います。若い子たちは、本当にタッタカタッタカと。
黒木:若い子たちはリズム感がありますからタップは早く始めた方が良いんですけど、どの年代の方も遅いことはありませんね。いきなり今、「クラシックバレエ」と言われても絶対出来ないと思うんです。でも、タップはいくつになっても始められる。
石丸:負担も少ないですしね。じゃあ、僕も始めるかな(笑)。こうやって楽しいお話をさせていただきましたけど、今後チャレンジしていきたいことがあれば教えてください。
黒木:ドラマと今回のラジオでしか石丸さんとご一緒していないので、いつか。
石丸:舞台でね。
黒木:夢です。
石丸:本当ですね。
黒木:そのためにちゃんと歌が歌えるようにレッスンしておきます。
石丸:何をおっしゃいますやら。でも、楽しいものをやりたいですね。
黒木:そうですね。
石丸:1か月に渡り、どうもありがとうございました。
黒木:ありがとうございました。