石丸:黒木瞳さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますでしょうか。
黒木:今日は「ポエム」についてです。
石丸:ポエムというのは「詩」のことですよね。
黒木:そうですね。
石丸:黒木さんにとって、なぜ大事なんですか?
黒木:ずっと書き続けているということもあるんですけれど、読書が大好きで、小学校6年生の時に、小学校の図書館の本を全部読んじゃったんですよ。
石丸:え! すごい。
黒木:読むものが無くなった時に、ちょうど町の開発センターに図書館が出来たんですね。
それで行ってみたら、大人の方が読む本もあるわけですよ。そこに谷川俊太郎さんの『愛について』という詩があったんです。12歳って、まだ愛というものを知らないじゃないですか。それを読んだ時に、“大人の階段を上る”というか“禁断の扉を開ける”というか、そんなイメージがして、“愛ってすごいな”“谷川俊太郎さんってすごいな”と思って。それから谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』とかを読んでいたら、カフカ(の『変身』)じゃないですけど、今日、起きたら、老人になっていても、宇宙人になっていても良いんです。空想の世界というか、そんなものがすごくて、“自分も書いてみよう”ということで、12歳の時からずっと書き続けている、という感じです。
石丸:では、今まで、色んな詩を書きためていらっしゃる?
黒木:はい、宝塚を辞めてから第一詩集(『長袖の秋』)を出して、第二詩集(『夜の青空』)、第三詩集(『恋のちから 愛のススメ』)を出して、そこで止まっていたんです。なぜかというと、詩の言葉が自分の中から出てこなかったということと、エッセイを書く機会が多くて、詩を書く気持ちになれなかったんです。昨年、やっと“書いてみたい”という気持ちになって、それで昨年、第四詩集(『夢の水たまり』)を出したんです。
石丸:「書く気持ちになった」と仰いましたけど、どういう時に(詩が)浮かんでくるんですか。
黒木:10〜20代の時は言葉がどんどん溢れんばかりに出てくるので、それをダーッと書いていたんですよね。それで30(歳)で結婚した時に、ちょっと幸せだったんですね(笑)。
石丸:それまでは幸せじゃなかったみたいな(笑)。
黒木:そういうわけではないんですけど(笑)。何か書く必要が無くなったんですよ。
石丸:それは満たされちゃった?
黒木:詩を書くことで心のバランスを取っていたんでしょうね。夢と現実ということで。結婚してちょっと浮かれちゃったんでしょうかね(笑)。愛に。だから、少しネガティブな方が、詩って書けるんですよ。
石丸:なるほど。
黒木:詩を書くことでネガティブな気持ちを払拭して前向きな気持ちになる、というか。ですので、やっぱり幸せだったんでしょうね。それでちょっと遠ざかっていたんですけど、昨年“やっぱり詩はずっと続けていきたいな”と思って。
石丸:「ネガティブ」と仰いましたけど、何か(また書き始める)きっかけはあったんですか。満たされなくなった部分が自分の中で見つかったとか?
黒木:いえ。よく言われていたのは「書くことが無くなった時に書けるのがプロだ」ということだったので、何かネガティブなことがあったわけではなく、“書けなくなった時に、私に何が書けるんだろう”と思ったんです。
石丸:新たなチャレンジを自分に課したわけですね。じゃあ一生懸命、“何が湧いてくるんだろう”と待っている中で言葉が浮かんできた?
黒木:そんな感じでした。
石丸:泉にまた水がとうとうと湧き出してきたようなイメージを、黒木さんの言葉から受けました。あふれてきた“水”、ではなく“言葉”ですよね。連ねているうちに、新たな自分が見つかってきました?
黒木:やはり、“自分を励ます”というか…詩は制約が無いので何行でも良いですし、どんな感じでも良いんですけど、それによって“自分が前に歩ける”というか。これを読んでくださった方が何を感じて何を思われるか全く分からないんですけど、何か心の琴線に触れるフレーズがあるのではないかという気持ちで。私自身は…うまく言えないですけど。
石丸:自分の中で色んな想いが文字として浮かんできたものが、そこに連ねられていると。だから「これが今の黒木瞳です」ということなのかな?
黒木:そうですね。うまくまとめていただいてありがとうございます。
石丸:今の黒木さんを知るうえで一番大事なものかもしれないですし、一番素敵なものかもしれない。詩集と詩写真集がセットになった『夢の水たまり』。読みます!
黒木:ありがとうございます。
石丸:話は変わりますが、昨日(6月16日)より黒木さんがご出演されている映画『魔女の香水』が公開されています。桜井日奈子さん演じる正社員を夢見て働く派遣社員が、黒木さん演じる香水屋の店主と出会い、香りの力で成長を遂げ人生を切り拓いていくというストーリーです。
香水の香りをテーマに女性の成長を描く物語になっていますが。
黒木:この映画が出来る時に、「社会で生き辛い女性たちの背中を押してあげる、エールを差し上げる、そういう力になるような映画を作りたい」と伺っていて。脚本はオリジナルで、宮武(由衣)監督がお作りになったんですけれど。
石丸:最初、いっぱい香水の用語が出てきて、“香水ってこんなに種類があるんだ”とか“香りってこんなに力があったんだ”って。「言葉」プラス「香り」ですよね。
黒木:「この香りは不可能を可能にするのよ」とか、「この香りはピンチがチャンスになるのよ」とか、香りに神秘的なメッセージがあるんですよ。それがすごく素敵だなと思っています。
石丸:そうですね。黒木さんが演じる香水屋の店主は、劇中で「魔女さん」と呼ばれていますよね。「魔女さん」という名のごとくミステリアスな役どころだと思うんですけど、演じてみていかがでしたか。
黒木:石丸さんが今やってらっしゃる舞台、『ハリー・ポッター』も。
石丸:魔法使いです。
2人:(笑)。
黒木:近いものがありますよね。
石丸:ありますね。
黒木:ミステリアスを自分で演じるというのは出来ないことですので、やはりそれは、映像の魔術というか魔法で、そういう風に撮っていただくというしかないんですけれども。ただ、面白かったのは、魔女って「悪さをする」とか「魔女狩り」とか、黒歴史があるじゃないですか。だから色々調べてみたら、「黒魔女」と「白魔女」というのがあるんですって。
石丸:そうなんですってね。
黒木:さすが魔法使い!
石丸:僕は白魔法使いですから(笑)。
黒木:(笑)。“そうなんだ。「白魔女」っていうのがあるんだ”と思って、監督に「白猫を置いたらどうか」って提案したんです。
石丸:それでお店の前に可愛い猫がいつも座っているんですね。
黒木:そういうのでなんとなく深みが出るというか。
石丸:でも、色んな方に言葉を届けていくのが、それがもうひとつの魔法だと思うんですよね。
黒木:素敵。おっしゃる通りですね。
石丸:だからそれによって人生が変わっていくし、「エイッ!」とか、光線は出ませんけど(笑)。
黒木:空も飛べないけど(笑)。
石丸:人の言葉って、心に(魔法のような)変化が起こるじゃないですか。まさにそれがこの映画の中で起こっているんですよね。
黒木:香水というアイテムを通して言葉の力で人を元気づける、勇気づけるという。そういう意味では言葉って大事ですよね。
石丸:大事ですよね。「香水」という言葉が出ましたけど、この映画を機に、香水を自分でお作りになったりなさいました?
黒木:作ってはおりませんけど、私はずっと同じものなんですよ。
石丸:普段からずっと同じものをつけていらっしゃる?
黒木:ただ、劇中で(香水が)9つ出てきますけど、全部メッセージが込められていますので、“その日の気分で使い分けるというのもアリかな”と思っています。
石丸:男性のリスナーの方ももちろんいらっしゃいますから、体験してみてはいかがでしょうか。
黒木:はい!
石丸:映画『魔女の香水』には、(舞台『ハリー・ポッター』で共演している)宮尾俊太郎君が(出演している)。今、僕は(舞台『ハリー・ポッター』で)同じ魔法使いとして出ておりますけど、彼が映画に出ていることは一切聞いていなかったんです。リーフレットにはお名前があったんですけど、“まさかな、そんなわけないだろうな”と思って観はじめた途端に、俊太郎がバーン!と出てきて、フランス語を喋っているんですよ。彼はフランスへ行ってましたから。
黒木:(笑)。スペインから行って、ヨーロッパを周ってらしたから。
石丸:そして、黒木さんとの関係も。
黒木:そうなんですよ。
石丸:これはぜひ映画を観て。若かりし頃の素敵な2人も見どころですよ。
黒木:そうですね。『魔女の香水』と『ハリー・ポッター』と、両方観なきゃダメですね。
石丸:セットでね。映画『魔女の香水』は、東宝シネマズ日比谷ほか、全国で上演しております。
黒木:6月16日からです。
石丸:ぜひ皆さん、足を運んで、そしてあなたの香水も見つけてください。
黒木:よろしくお願いします。