石丸:黒木瞳さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“場所”をお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますでしょうか。
黒木:今日は、「ふるさと」についてです。
石丸:先週も少しお話が出ていましたけど、(出身は)福岡県ですよね。
黒木:八女市というところです。ちょっと熊本県寄りで、南の方ですね。
石丸:なるほど。僕は「八女」と聞くと、お茶を連想するんですけれども。
黒木:ご存じですか!
石丸:僕は八女茶しか知らないんですけれども、(八女市は)どういう町ですか? 特産品とか。
黒木:八女茶もありますし、葡萄や蜜柑や「あまおう」という苺などの果物もあります。
石丸:じゃあ、農産物が沢山採れる。
黒木:水は綺麗で空気は澄んでいて、山に囲まれた盆地で育ちました。
石丸:黒木さんの芸名は(出身地の)黒木町(くろぎまち)からとっているんですか。
黒木:そうなんです。宝塚(音楽学校)の本科生の夏休みに、「芸名を付けてくる」という宿題があるんです。色んな付け方があって良いと思うんです。姓名判断とか、どなたかに付けていただくとか、自分の好きなものとか、画数とか。
それで“どうしようかな”と思っていた時…鳳蘭さんと遥くららさんが『白夜わが愛』という五木寛之先生の原作の舞台をやってらした頃だったんですが、ちょうど私は五木寛之先生の高校の後輩にあたるんです。
石丸:そうなんですね。
黒木:そのご縁で(宝塚)劇団の方が、「五木先生に(芸名を)付けていただくようにお願いしておくね」とおっしゃったんですよ。でも“まさか付けていただけるなんて”と思っていたんです。だから、(八女市には)「黒木の大藤」という樹齢600年の天然記念物の藤棚があるんですけど、 “「黒木藤子」にしようかな”とか(考えていた)。だから、もしかしたら「藤子」ちゃんだったかもしれないんですよ(笑)。
石丸:(笑)。でも、「○子」という方はあまりいらっしゃらないですよね。宝塚の方は昔からキラキラネームが多いじゃないですか。
黒木:そうなんです。昔は百人一首から(取って)「天津乙女」さんとか。百人一首も出つくしちゃって、それでキラキラネームだったり、いろんな名前が流行ってきたんですけれど。
石丸:そうだったんですね。
黒木:そうしていたら、夏休みに五木先生の奥様から電話がありまして、「黒木瞳というのはどうでしょう」と言われて、“あ、「黒木」は一緒だ”と思って。それで「“ひとみ”はひらがなでも漢字でも良いですよ」と仰っていただいて。
たまたま私の父の姉にあたる人が、3歳くらいに病気で亡くなっているんですね。その人が「瞳」さんだったんです。これも縁だなと思って。
石丸:本当ですね。
黒木:それで同じ漢字の「瞳」を。ですから、これも何かのめぐりあわせかなと。
石丸:では、お父さまもお姉さまが戻っていらっしゃったような、傍にいらっしゃるような気持ちになったかもしれませんね。
黒木:そうですね。だから「瞳」という名前はすごく大切に思っています。
石丸:そうだったんですね。僕も、(黒木瞳さんの芸名のルーツを)いろいろと考えて想像していたんですが、(名付け親は)五木寛之先生なんですね。
八女市の話に戻りますけれども、高校まで暮らしていたということだと、ご近所の方達も、宝塚(歌劇団)の娘役になった黒木さんのことをみんなで応援したりとか、何かあったんですか?
黒木:(宝塚歌劇団へ)行った当初は、周りの人達は宝塚のことをよく知らない人達ばかりなので。
石丸:そんな中で、黒木さんは宝塚歌劇団を知っていたんですね。
黒木:ですけど、(今は八女市へ)戻ってくると、同級生や町の人達が応援してくださっていて、本当に心強いというか、ふるさとって心の支えですね。
すごく分かりやすいんですけど、トンネルを抜けるとうちの町なんです。ある時そこに「黒木です ひとみが見てます そのマナー」という標語がかかっていて、“これ、私じゃん”と思って(笑)。無許可で。その後に、お役所の方が「よろしいですか」って(笑)。
石丸:遅い(笑)。
黒木:事後承諾にいらっしゃいましたけど。
石丸:町のスターですからね。
黒木:いえいえ、スターじゃないですけれど、そうやって皆さんが応援してくださっている温かい心が拠りどころです。
石丸:素敵な町ですね。今度訪ねてみたいと思います。その標語はまだかかっていますでしょうか。
黒木:あるんです!
石丸:本当に!
黒木:トンネルを過ぎたら右側にありますから。
石丸:リスナーの皆さん、行ってみましょう。そして黒木さんは昨年、ふるさとの福岡県八女市黒木町を舞台にした短編映画『線香花火』の監督をされていらっしゃいます。
黒木:ちょうど、私の技術スタッフや演出部に「コロナでちょっと暇にしているから何か撮って」と言われて。
石丸:すごい(笑)。
黒木:“じゃあ、せっかくなら私の生まれ育ったふるさとを舞台にして何かを作ろう”と思って、そこから題材を「線香花火」に決めて。線香花火って、今はほとんど輸入品らしいんですが、福岡県みやま市に伝統を守っていらっしゃるところがあって。
石丸:線香花火を作っているということですか。
黒木:そうです。もちろん線香花火だけではなくて、いろんな花火も作っていらっしゃいます。そこへ話を伺ったら、線香花火というのは、最初は“蕾”、それが「命」。次が“牡丹”、それが「若者」。そして“松葉”は「人生の栄光ある時」。
石丸:チッチッと。
黒木:バーッとなっている時です。最後は“散り菊”と言って散っていく。人生になぞらえているという話を伺って、“線香花火を映画に出来ないかな”と思って下書きを書いて、そこから始まったという映画です。
石丸:自分のふるさとへ仕事として行かれて、どうでしたか。
黒木:映像に残したということで、改めて“ここで生まれ育って、この町と町の人達が私を育ててくれたんだな”と思って、“映像に残して良かったな”と。
石丸:自分の好きだった場所も映像に収めたりされました?
黒木:全部好きなんですけど、私の泳いだ川とかね。
石丸:川で泳いでいましたか!
黒木:そうなんです。当時、プールが無かったんです。だから私、川でしか泳げないんですよ。
石丸:すごい! アウトドア派ですね。
黒木:石丸さんは?
石丸:プールでしか泳げません(笑)。川は泳ぐところなんだ。
黒木:あと、川は足がつかないから飛び込むんです。深い深い、(水が)緑色をした、河童が出てきそうな川なんですよ。
石丸:やんちゃだったんですね。そういう川の映像も観れるんですね。
黒木:そうですね。
石丸:改めて観てみたいです。
黒木:ありがとうございます。
石丸:そんな黒木さんですが、来週の6月13日から15日に紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演される朗読劇『ルビンの壺が割れた』の脚本を書かれて、もちろん出演もされます。ご存じの方もいらっしゃると思いますけれど、朗読劇というのは、テキストを読んで、それをお客様が想像しながら耳で感じる劇、に近いかな?
黒木:今回は、ただ読むだけではなくて、ゆるかわふうさんというアーティストがいらっしゃるんですけど、世界初の「光彫り」という技術を持っていらっしゃるんです。その方に壺を彫ってもらって、後ろから光をあてるんです。「ルビンの壺(1915年頃にデンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した多義図形のひとつ)」というのは、見方によっては壺にも見えるし、人の顔にも見えるんです。
石丸:外側の壺のふちの部分が人に見えるんですよね。
黒木:それを、照明をあてて、どちらにでも見えるようにという工夫をしたりとか、ラッキィ池田さんにちょっと手伝ってもらって、素敵にステージングをしていただいたりとか。そういうところでも楽しんでいただこうという。
石丸:じゃあ、耳だけではなく、目でも。
黒木:楽しんでいただこうかな、と。
石丸:これは楽しそう! これは何人で読むんですか。
黒木:男と女、あと案内役の語り部1人の、3人で。
石丸:先ほど黒木さんが脚本家デビューをされたと言いましたけれど、作家の宿野かほるさんの長編小説(『ルビンの壺が割れた』(新潮文庫刊))が原作となっています。
黒木:この作品は口コミだけで広がって20万部売れたという小説なんですけれど、ちょっと衝撃的な作品なんです。
石丸:どのあたりがですか。
黒木:ルビンの壺って、見方によっては壺にも見えるし人の顔にも見える。だから、人って何を見るか、どこを見るかによって気持ちが変わってくるじゃないですか。そういったようなお話なんです。
原作をお読みになっている方もいらっしゃると思いますけど、お読みになっていない方は、ぜひ読まないで朗読劇を聴いていただいて、その後に原作を読まれると倍楽しいと思います。
石丸:6月13日から15日です。今の話を聞いて“私も体験してみたい。観てみたい”と思われた方は行かれてください。
黒木:ぜひお願いします。