石丸:黒木瞳さん、これから4週にわたりどうぞよろしくお願いいたします。お久しぶりですよね。
黒木:お久しぶりです。石丸さんとご一緒したのは、WOWOWのドラマ(連続ドラマW『スケープゴート』)の時だったじゃないですか。
石丸:そうなんですよ。あれは2015年だったんですよ。
黒木:もうそんなになるんですか!
石丸:ついこの間みたいだったけれど…。
黒木:そう。その時、石丸さんが、「2人とも舞台出身なのに、舞台では会わないで映像で会った」とおっしゃったのがすごく印象的だったんですけれども、今度はラジオで(笑)。
石丸:いまだに(舞台で)会ってないですけれど(笑)。
黒木:全然舞台でご一緒出来なくて、本当に悲しいです。
石丸:本当ですよね。
このサロンでは、人生で大切にしている“こと”や“場所”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますでしょうか。
黒木:今日は「宝塚時代」についてです。
石丸:黒木さんと言えば、宝塚(歌劇団)の娘役。僕は観れていないんですけれども(笑)。
黒木:(笑)。
石丸:そもそも、宝塚を目指されたきっかけは?
黒木:中学時代は、映画をやりたくて女優になりたかったんですけど、福岡の田舎で生まれ育ったので、どうやったら女優になれるかが分からなかったんです。
それでまず、高校で演劇部に入ったんです。演劇って、映像と違ってステージじゃないですか。ということで、“舞台を観なきゃいけないんだ”と思って。そうしたら、ちょうど高校1年生の時に、福岡に宝塚の『ベルサイユのばら』の地方公演が来たんです。それで拝見したら、あの、夢のような世界。考えられます? 金髪の縦ロールですよ。
石丸:そうですよね。
黒木:輪っかのドレスですよ。そして女性の方が男(役)をやられるんですよ。アンドレとオスカルの全てに一目惚れしてしまいました。
石丸:じゃあ、“私はこれになる!”“ここに行く!”と?
黒木:いえ。だって“行けない”と思いましたもん。“あんな人達は霞を食べて生きていらっしゃるだろう”という夢の世界ですから、“私なんか足元にも及ばない”ということで、高校演劇を頑張っていたんですね。
石丸:3年間ですか。
黒木:はい。親に「公務員しか駄目」と言われていたので、音大へ行って音楽の先生になって、演劇部の顧問をやろう、なんて思っていたんです。
石丸:そういう制約があったんですね。
黒木:そうなんです。それでも、“一応、電話だけしてみよう”と思って、(宝塚)音楽学校に電話をして願書を送っていただいたんです。
石丸:なるほど。
黒木:そうしたら、宝塚(音楽学校)の入試要項に「18(歳)まで」って。
石丸:私も初めて聞いたんですが、宝塚(音楽学校)って、(受験出来るのが)限られた期間なんですよね。
黒木:15〜18歳までなんですよ。
石丸:その間にいつ受けても良いんですってね?
黒木:はい。4回受けても良いんです。
石丸:ということは、黒木さんの場合は後がない。
黒木:“高3で最後なんだ”と思って、もちろん大学の受験勉強もしながら、自分の夢の終止符に願書だけは出しておこうと。当時のボーイフレンドに受験料の1万円を借りまして(笑)、願書を出したんです。大学も決まり、宝塚の受験まで1週間あったので、そこで初めてクラシックバレエを習いに行ったんです。
石丸:え!
黒木:「え!」でしょ? 音大(志望)だったので、歌とかはやっていたんですけども、バレエというものをやったことが無かったので。
石丸:1週間で出来るものですか?
黒木:出来ません。でも、 “夢の終止符だ”と思っていたので、受験がすごく楽しかったんです。
石丸:そうなんですか。
黒木:合格出来ると思っていないじゃないですか。「宝塚の街にいる」「宝塚音楽学校にいる」ということが、楽しくて楽しくてしょうがないんです。
石丸:じゃあ、バレエが未経験でも、黒木さんの中の何かを見て、“この人を入れよう”ということがあったということですよね。
黒木:そうですね。ただ、自分で言うのもなんですけども、私、運動神経は良かったんですよ。
石丸:なるほど。
黒木:運動神経だけで動いていたんです。
石丸:すごい! ちゃんと様になっていたということですよね?
黒木:様になっていないんですよ。ただ、楽しくてしょうがないから、笑顔だけは満面の笑みで。その時の1年上の本科生が、安寿ミラさんだったんですね。安寿ミラさんがダンスの振り付けでお手伝いにいらしたんです。だから、安寿さんがいつも、「あの受験の時の私(黒木さん)のダンスだけは忘れられない」と。「あまりにもヘンテコで、ただカーッって笑っていたその笑顔が忘れられない」と、会うたびにおっしゃいます(笑)。
石丸:(笑)。でも、皆の脳裏に刻まれたということですよね。
黒木:楽しかったから。踊れるなんて思っていないから。
石丸:と、言いましてもちゃんと踊ったんですよね?
黒木:踊っていない。動いただけです(笑)。
石丸:(笑)。
黒木:宝塚(音楽学校)に入れてくださった先生方に本当に感謝しています。宝塚に入っていなかったら、今こうやって石丸さんとお話し出来ていませんから。
石丸:そんな、何をおっしゃいますやら。実は、花總まりさんが先月のゲストだったんです。宝塚(音楽学校)時代のお話もお聞きしましたが、「厳しかった」とおっしゃっていました。特に、“お掃除が…”という話が、僕には印象に残っているんですけど。
黒木:掃除は毎日、真矢みきちゃんと同じ担当の5番教室で、1時間15分。講堂掃除の方は1時間半とかいろいろあるんですけど、本当に毎日綺麗にするんです。お手洗いも寝そべれるくらい綺麗なんです。それでも、上級生の方に「まだホコリがあるわよ」と。
今思えば、全てのルール、敢えて“ルール”と言いますけれど、全て今に役に立っているんですよね。
石丸:そうなんですね。こうやって色んなお話を聞いてますと、宝塚音楽学校というのは、“人間を作る基礎を教えてくれるところ”ですね。
黒木:そうですね。10代の時ですから。
石丸:調べたところ、こんなスピードでトップになる娘役さんは今まで居なかったし、いまだに居ない。何年目でトップになられたんですか?
黒木:2年目なんですけれども、1年生の時に大地真央さんの相手役になった時に、真央さんが幕開きにお出になって歌を歌われる。そこに私がせり上がりで歌を歌って2人で踊って去っていくわけです。研一(研究科1年生)ですよ。それでショーでは真央さんと2人で銀橋を渡ったんです。
石丸:銀橋というのは、いわゆる「エプロン(ステージ)」ですよね。オーケストラボックスがあって…。
黒木:その前の橋があるんです。
石丸:お客様の目の前ですよね。そこは、普通、若い方は乗れないような。
黒木:初舞台のラインダンスの時は皆で銀橋を渡って去っていくんですけれども、研一(研究科1年生)でそんなことを。
石丸:研一とは?
黒木:1年生、“初舞台生”です。その頃は、宝塚のことには(まだあまり)詳しくないじゃないですか。だから、怖いもの知らずというか。
石丸:だから「そこに乗ってね」と言われたら、「はい」と言って一緒に乗るんですね。
黒木:そうなんですよ。自分に驚きました(笑)。
石丸:既にそこで「抜擢」なんですよね? その時、大地さんは(トップ)2番手だったとのことですが、後に大地さんがトップになられて。
黒木:トップのお披露目の前に、バウホールという舞台で。
石丸:少し小さめの舞台(小劇場)ですね。
黒木:はい。そこでタイトルロールの『シブーレット』という作品をオペレッタでやらせていただいて。その次にトップお披露目で(大地)真央さんの相手役になったという。
石丸:すごいですね。いろんなものを超越していって、誰もが達したことがないスピード感でトップの大地さんとお披露目に繋がったんですね。
皆さん、こんなスピードの人は他にいません。やはり実力があったということですね。
黒木:石丸さん、違うんです。本当に何にも出来なかったんです。真央さんからは「本当は10年かけて覚えていかなくてはいけないことを、あなたは今やらなくてはいけないから、その分努力をしなきゃいけない」ということだったり、「お客様はお金を払っていらっしゃるんだから、我々はプロなんだ。だから学生気分は駄目なんだ。プロ意識を持ちなさい」とか、「舞台人というのは華がなければいけない。品がなければいけない。存在感がなければいけない」と。
ただ、「どうやったら華があるような舞台人に見えるんですか」「どうやったら品というものを見せられるんですか」と伺った時に、「意識するのよ」と。“ああ、意識か”と思ったんです。
石丸:なるほど。
黒木:本当にいろんなことを教えていただきました。
石丸:でも、「太く」「濃く」そして「短く」。宝塚を卒業されますが…。
黒木:そうなんです。私、(在団期間が)4年半だったんですよ
石丸:他の方が“これから何かしよう”という時に、なぜ4年半でピリオドを打たれたんですか?
黒木:やはり、1年生の時から真央さんの相手役をさせていただいていましたので、真央さんがお辞めになると伺った時に“じゃあ、私も辞めよう”と思って。
石丸:真央さんから、その時に「(宝塚に)残りなさいよ」とか、そんな言葉は無かったですか。
黒木:最初におっしゃったのは、「辞めてどうするの」と。何にも考えて無かったので“辞めてどうしようかな。あ、そう言えば私、映画をやりたかったな。じゃあ、東京へ行かなきゃな”みたいな感じでした。
石丸:なるほど。最初に目指していたものに。
黒木:思い出したんです。それで、映画からデビューしようと思って。
石丸:その時はおいくつだったんですか。
黒木:24です。
石丸:まだ前途洋々というか。
黒木:でも当時は、「24歳は遅い」と言われていました。
石丸:ええ! でも、舞台で花も開いていますから。
黒木:いえいえ、宝塚は大好きなところなので、私はもう蕾のままで終わろうと。
石丸:蕾のままで…いや、もう、きっと開いてましたよ。
黒木:知らないくせに(笑)。
石丸:観てないけど(笑)。
2人:(笑)。