石丸:花總まりさん、これから4週にわたりどうぞよろしくお願いいたします。花ちゃん、お久しぶりです。
花總:お久しぶりです。
石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“こと”や“場所”についてお伺いしています。今日はどんなお話をお聞かせいただけますでしょうか。
花總:今日は、「宝塚歌劇団」についてです。
石丸:そもそも、宝塚歌劇団を目指したきっかけは?
花總:私が初めて(宝塚歌劇団を)観たのは中学2年生の時で遅かったんですけど、私の母は元々、SKD、松竹歌劇団だったんです。
石丸:そうですね。
花總:母は宝塚(歌劇団)がすごく好きで観に行っていたのですが、私は一緒に観に行ってないんです。母は(私に)宝塚に入って欲しかったみたいなんですが、「やだ、やだ」って反抗していたんです。私の周りにも宝塚歌劇団が好きな人がたくさんいて、中学生の頃には同好会まであったんですが、私自身はそんなに興味が無かったんですね。
石丸:それは意外ですね。
花總:私はバイオリンを5歳の時からやっていて、中学生になると、高校、大学と、だんだん先が見えてくるじゃないですか。
石丸:そうですね。
花總:“自分は何がしたいのかな”と思った時に、バイオリンをやっていたから“そうだ、バイオリンで音大を目指そうかな”と思って。
石丸:じゃあ、相当練習をしていたんじゃない?
花總:(音大を目指すために)相当な練習を始めるじゃないですか。そうしたら“あ、違う。私はそんなに1日に何時間もバイオリンの練習が出来ない”ということが初めて分かって。
石丸:好きだけど、猛練習が(出来ない)。
花總:1日に6時間とか、7時間とか。“そこまで好きじゃなかった”ということがやってみて分かったんです。そんな時に、同じ学校のひとつ上に、宝塚がすごく好きな先輩がいて、朝の電車の中で、「私、宝塚(音楽学校)を受けようと思っているから、宝塚まで願書を貰いに行くんだ」って。
石丸:兵庫県の宝塚までですか!
花總:そうなんです。何をどう思ったのか分からないんですけど、その時に、「私の分も貰って来て」って、ポロッと言っちゃったんです(笑)。それで、母に「喜ぶことを言ってあげようか? (宝塚音楽学校を)受けてみようかなと思って」と言って(笑)。
石丸:1回で受かるような場所じゃないのに、一発合格だったじゃないですか。これはすごいことですよね。聞くところによると、簡単には入れないらしいですよね。
花總:びっくりしました。
石丸:ところで、(宝塚歌劇団)は上に行くと、男役さんと娘役さんに分かれていくでしょう? 予科生の時には、そういうことは決まっているんですか。
花總:(宝塚音楽学校を)受験する時に、ほとんどの方がご自分で決められて受けに来ていますね。だから、受験の時には髪の毛が短い方もいらっしゃいますし。
石丸:男役を意識して。
花總:そうです。だから予科の時には分かれていますね。
石丸:男役さんって、歩き方から、踊りの形、日舞も全く違うじゃないですか。
花總:でも、日舞は全員、男舞と女舞の両方を習いましたね。(宝塚音楽学校では)まずは、基本的なバレエ、日舞、ジャズダンス、タップ、声楽、音楽通論、演劇…そういう科目でした。全員、基本的なことをひと通り学ぶところでしたね。
石丸:音楽学校を卒業されて歌劇団に入るわけですが、目指していたところへ入ってみてどうでしたか。
花總:1年目は大変なこともたくさんあって。
石丸:どんなことがありましたか。
花總:最下級生になるので、色々仕事がありました。
石丸:例えば?
花總:今は分からないですけれど、私の時代は「上級生宛てに来たファンレターを渡しに行く」とか。
石丸:直接ご本人に?
花總:歌劇団にいっぱい届くんですよ。それを仕分けして、上級生が入って来たら、みんな隅の方から走って行って「おはようございます。お手紙です」と言って(渡す)。
石丸:そうやって(上級生に)顔を覚えて貰えるよね。
花總:そうですね。あと、みんなそれぞれ好きな上級生がいるんです。だから「この方には私が持って行く!」というのがあって(笑)。
あとは、今だから言いますけれど、1組に80人位いるんです。だから、入りたての時は、お名前と顔が一致しない方もいるんです。
石丸:それはそうですよね。みなさん素顔ですよね。(舞台の)お化粧はしていないから。
花總:お稽古場に入ってきた時にお手紙を渡しに行くので、入って来ても誰なのか分からない時があったり、間違えて持って行っちゃって怒られたりとか。
石丸:それは、他ではなかなか聞かないしきたりのひとつだと思いますけどね。
花總:ドキドキでした。
石丸:それからいよいよ組配属になって、とんとん拍子に娘役トップになられました。就任してから何年間トップでいらしたんですか?
花總:12年と3か月です。
石丸:今のところ12年(娘役)トップをやられた方は(他には)いらっしゃらないですが、ご自身で「花總まりの娘役はこうだ!」というものはありましたか?
花總:そんな大それたものは無いですけれども、一番気をつけていたのは“常に新鮮でいなくてはいけない”“初々しさを持続させなくてはいけない”というのはありました。娘役という存在は、初々しさがあったり、落ち着いちゃいけないという意識があったので。
石丸:なるほど。新鮮さを保つために心がけたりしたこと、具体的な習慣があれば教えて貰えますか?
花總:例えば、大階段で歌う前に、スポットライトが当たるじゃないですか。
石丸:(公演の)一番最後にみなさんが降りて来る階段を「大階段」と言うんですよね。すごい段数があるんですよね。
花總:そうです。大階段じゃなくても、パフォーマンスをする時にスポットライトが当たるじゃないですか。いつでも、まるで初めてスポットライトが当たったかのような想いでいました。今思うと恥ずかしいですけど…。
石丸:それは大事ですよ。
花總:いつも“うわぁ!”みたいな。
石丸:その顔をお客様が観て、一緒になって“うわぁ!”と思うんですよね。
花總:あとは、髪型を工夫したりとか。
石丸:髪型?
花總:カツラを自分で考えて、美容院の方と相談しながら作ってもらったり。
石丸:カツラの形はオリジナルになるんですね。
花總:大体いつもオリジナルで、自分で考えて、決まった美容師さんに作って貰えるんです。飾り付けもしますけど、ワンパターンにならないように、守りに入らないように。
石丸:挑んでいくんですね。
花總:「これ、ちょっと恥ずかしいよ」というのもやっていく、みたいな。
石丸:ワクワクしますね。「次はどうしようとか」とか。
花總:そうですね。最後の方は大変でしたけど、そこに挑んでいく。
石丸:改めて、宝塚歌劇団はどういうところでしたか?
花總:振り返ると、突然、自分の中で“入ろう”と決めたところで、なのに今や“宝塚歌劇団に入っていなかったら、今の私は何をやっていたんだろう”と分からなくなるくらい、「これが自分の道」みたいになっていて。
そうなると、「一番基礎的なことを教えて貰えた場所」。
石丸:演劇人としても、人間としてもということですね。
花總:そうですね。上下関係も含めて様々なことを経験してきたところなので。
石丸:「花總まり」の第一章ですね。