石丸:花總まりさん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせいただけますか。
花總:今日は、大切にしている言葉「今を生きる」です。
石丸:なぜ、それを大切にしているんですか?
花總:よく、“あんなことをしなければ良かった”といつまでも引きずったり、“あれは大丈夫かな、どうしたら良いんだろう”と先のことを考えすぎて要らない心配をしたり、“今から悩まなくても良いのに”ということを悩んだり、心配になって頭が痛くなったり気分が沈んだり…ということがあるじゃないですか。
振り返っても先を見ても“う〜ん”となるんだったら、(過去や先のことは)考えずに、今!“今を一生懸命”“今を楽しく”と。
石丸:なるほど。これは、思い出すことではなくて、常に自分の中にあることですね。
花總:そういう努力をしています。やっぱり、どうしても考えちゃうんです。
石丸:そういう気質なんだけど、その一言(「今を生きる」)で振り払っている。
花總:そうなんです。
石丸:その言葉によって、自分の中でどんな変化がありましたか?
花總:ちょっと落ち込んだりした時に切り替えられる。立ち直れますね。
石丸:大事な言葉ですね。
花總:良い言葉です。
石丸:人生を重ねていくと、“悪いことを考えているより、楽しいことを考えている方が良い”ということに気付きますもんね。
花總:そう。どうしても心配性なんですよね。気にし過ぎというか。
石丸:そういう人は完璧主義者が多いと聞きますけど、成功率が高いんですよ。
花總:なぜですか?
石丸:ちゃんと気付いているから。だから良いことなんです。
花總:でも、プラス「悩みすぎる」。
石丸:良い方向から言うと、(普段から)とことん考えているから、いざという時には考えつくしているので、必ず成功する。思い悩むというのは、そういうこと。
花總:石丸さん、良いですよね。今まで一緒に舞台に立たせてもらっていて、(舞台で)何かあっても引きずらない。
石丸:舞台上で違うことを言っても、次に行っちゃうとかね(笑)。
花總:そう(笑)。
石丸:今を生きているから。
花總:私はすごく落ち込むんです。
石丸:僕だって落ち込みますよ(笑)。
花總:石丸さんといると、何かすごく心が穏やかになるんです。
石丸:本当ですか? 「まあ、いっか」というのも僕の大事な言葉なんですよ。「忘れようとする」というか、「次に行く」。
花總:そう! そんな感じ。
石丸:特に演劇は、(上演が)スタートしたら終わるまで自分が舵を切っていかなきゃいけないから、そこで止まっちゃうと、全て止まってしまうじゃないですか。その怖さも味わっているので、とにかく先に行く。
花總:やっぱり(経験が)ありますか。
石丸:ありますよ。舞台上で台詞が出てこなくて、(舞台が)止まっちゃったりとかね。若い頃からありましたけど、その恐怖との戦いがあるから、「先に行って恐怖から逃れる」というのが僕の生き方なんです。
花總:分かるような気がします。
石丸:でも、花ちゃんは失敗がないでしょうから。
花總:あります、あります。“歌詞を忘れたらどうしよう”とか、負の連鎖に陥る時があるんですよ。石丸さんに訊いたことがなかったかな…「なんでそんなに違う歌詞がすぐ出てくるの?」って(笑)。
石丸:(笑)。シチュエーションは分かっているから、その言葉が出てこなかった時は、その言葉と同じような意味の言葉、「類語」を。
花總:それに慣れていませんか?
石丸:類語を探すことに慣れている。「ちゃんと歌えよ」って感じなんですけど(笑)。
花總:それに慣れていないから、それをやろうとすると字余りになったり、字足らずになって失敗するんです。石丸さんは、違う言葉がいかにもその言葉だったかのように上手くはまって、誰も気付かない。
石丸:これはあんまり沢山やることじゃないんですけどね。失敗しても成功に持っていく術というのは、胸を張って教えます(笑)。
花總:それを持っていると強くありませんか? “何があっても大丈夫”みたいな。私はまだまだ修業が足りない。
石丸:いやいや、完璧にやっている人はそんな必要は無いですから。
花ちゃんとはいろんな作品でご一緒していますけど、最初に出会ったのがミュージカル「モンテ・クリスト伯」でした。あれは面白い舞台でしたね。作曲はフランク・ワイルドホーンで、彼のナンバーを僕は簡単には歌えなかったんですよ。
花總:え! そうですか?
石丸:馬力の必要な歌ばかりで…花ちゃんとデュエットもあったじゃないですか。宝塚歌劇団とは違う世界に入って、男性とも歌わなきゃいけないのはどうでしたか。
花總:そう、忘れもしない(笑)。私の恥ずかしい大失敗。
石丸:そんなことありました?
花總:石丸さんとの演技が、お稽古場から猪突猛進で。
石丸:恋人役だったんですよね。思い出しますね。キスシーンがあるんですよ。
花總:しかも4回。私、初めて男性の方と共演して、台本をいただいた時に“キスシーンがある。これはどうしたら良いんだろう”と思って。
石丸:宝塚時代はキスシーンがあった時はどうなさっていたんですか。
花總:キスしている風に。
石丸:宝塚(歌劇団)を出たタカラジェンヌの方は皆さんおっしゃいますけど、「本当に唇を合わせなきゃいけないんだ」と。
花總:まず稽古ですから、“お稽古場をどう乗り切ったら良いのか”と。しかも台本を読むと、全部私からだったんですよね。
石丸:そうですね。
花總:一番最初が「エドモーン!」と言って飛びつく、みたいな。“ここで躊躇したら絶対にいけない”と思って。
石丸:僕も俳優人生が長いですけども、稽古場で初めて(演技を)合わせる時に本当にキスしてくれたのは花ちゃんだけでした(笑)。
花總:(笑)。最初からしてましたよね、私。正直、びっくりしました?
石丸:びっくりはしない。“この人は役が出来ている”と思って。“これはたじろいではいけない”と思いました。
花總:何にもおっしゃいませんでしたもんね。
石丸:“次の現場へ行ったらどうするのかな”と思いました。
花總:確か公演中に、(共演者の)石川禅さんに「いやあ、あの時はびっくりしたよ。花ちゃん、普通は稽古場からしないんだよ」って言われて、「え!」って。
石丸:(笑)。
花總:公演が始まって、だいぶ経った時だったんじゃないかな。
石丸:彼は“もう言っても良いだろう”と思って言ったんでしょうね。
花總:本当に恥ずかしかったです。
石丸:これは宝塚歌劇団を出た人の“あるある”のひとつなんですけども。
花總:忘れられないです。
石丸:花ちゃんは僕のコンサートにも出てくださって、あと、花ちゃんのコンサートにも出させてもらいました。
花總:ありがとうございます。
石丸:なじんでいる人、特に花ちゃんと舞台上で歌うのは、僕にとっては幸せなんですよね。
花總:私も幸せです。
石丸:(花總さんは)声を寄り添わせてくれる人なんです。だから歌っていて心地が良い。
花總:ありがとうございます。
石丸:オーケストラの音が大きい時は負けじと一生懸命歌わないといけないんですが、静かな曲の時に声がピシャッと合うような感覚が好きでした。
花總:嬉しいです。
石丸:歌ったことが無いような歌にも挑戦してみたいので、その時は、またお願いします。
花總:お願いします。