石丸:橋本マナミさん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせいただけますか。
橋本:今日は、「初心を忘れないこと」についてです。
石丸:芸能界に入ることを決めた時の気持ちですか?
橋本:そうです。そこから下積みが17年くらいあるので…。
石丸:サラッと言われましたけど、17年は結構しんどいですね。
橋本:お金も無いし、仕事も無いし、やりたいことはあるけど、上手くいかないし。
石丸:デビューのきっかけが「第7回全日本国民的美少女コンテスト」と伺っています。これは自分で応募したのですか?
橋本:そうです。小学校6年生の時に、親に「芸能の仕事をしたい」と言ったら、大反対をされたんです。
山形ではそういう世界(芸能界)はすごく遠かったですし、私の性格を考えても「絶対に無理だろう」と。でも親に「これがやりたい」と伝えたのは初めてだったんです。
石丸:初めてにしても、すごく大胆なことを言いましたね。
橋本:そうなんですよ。溜まりに溜まったものが爆発しちゃったんでしょうね(笑)。
石丸:そうなんだ(笑)。でも、反対されても(コンテストを)受けられたということは、どういう経緯があったんですか。
橋本:このコンテストは、オスカープロモーションが開催している信頼出来るものですし、親は受かると思っていなかったので、「これでダメだったら諦めなさいよ」という話で、受けることになったんです。親としては“まさかの結果”ですよね。
石丸:その時、親御さんはどんな反応でしたか。
橋本:言葉も出ないような感じでした。父親はコンテストの途中で帰ったので、受かったことも知らないんです。
石丸:どうして帰られてしまったんですか?
橋本:歌唱審査とかを見ていて、“とても無理だろう”と。
石丸:いくつの時に(東京へ)出てこられたんですか。
橋本:高校2年生です。
石丸:単身で?
橋本:はい。1人暮らしでしたけど、ワクワクして仕方なかったです。夢があって、東京へ行かないと出来ないことが沢山あったので、その時は希望しかなかったです。
でも数年経った時に、仕事が全然上手くいかなくて。お芝居も難しいですし、グラビアをやっていて「笑って」と言われても…上手に“笑う”って、なかなか出来ないじゃないですか。
石丸:確かに。
橋本:今は出来るようになりましたけど、当時は何をすれば良いのか分からなくて。感性が豊かな子はすぐに出来るのかもしれないですけど、私は劣等生で出来なくて、事務所が良い仕事を与えてくださっても全然続かなくて。そうすると段々と仕事がなくなっていくので、その時が一番きつかったですね。
石丸:まだ高校生だったけど、仕事が無くなっていく現実は受け止めていたんですね。
橋本:堀越高校の芸能コースに通っているのに、皆勤賞なんですよね(笑)。みんな仕事で休んでいるのに。それも嫌で。
石丸:でも、ズル休みせずに学校に通っていた?
橋本:一応(笑)。
石丸:良いじゃないですか。ある意味、諦めずにチャンスを待ち続けられたというのは、芸能界を生きていくための大事なポイントだと思うんですよ。すぐに諦めない。それは、やはり東北人の粘りなんですかね。
橋本:それはあるかもしれないです。当時は何回も(山形に)帰ろうと思う瞬間はありましたし、東京はとても誘惑が多い街なので、辞めていく子も多い中、よく地道にやっていたなと思います。
石丸:お仕事がなかなか続かない中、どのようにしてモチベーションを保っていましたか。
橋本:私はお芝居が一番やりたかったんですが、でも全然出来なくて、NGを連発してしまって。 “上手くやりたい”という気持ちは強かったんですが、どうしたら良いのか分からなくて…。
石丸:今だからこそ言えるNGってありますか?
橋本:あるCMの撮影で、先輩に「古いんだよ」という言うシーンがあったんですけど、そのひと言がうまく言えなかったんです。それで非常階段のようなところで何時間も練習するんですけど、うまく言えないので、その撮影がすごく押してしまったことがありました。
石丸:それは監督が粘ったんでしょうね。
橋本:でも、ひと言がうまく言えないというのは、お芝居の難しいところですよね。
石丸:そうですよね。CMは限られた秒数の中で言葉が効果的に響いて欲しいから。
橋本:なので、監督さんがやられているワークショップに沢山出席していました。あとは、話すのも苦手だったので、フリートークが出来るカルチャースクールへ行っていました。カルチャースクールだとお値段もお手頃なので。その他にはエッセイ教室に行ったり。その教室にはおじいちゃん、おばあちゃんしか居ないので、何を書いても褒められるんですよ(笑)。
石丸:どんな状況であっても励みになるから、褒めてもらうことはすごく大事ですよ。
橋本:そうなんです!
石丸:学んで自分を高めながら次のチャンスを待っていたんですね。下積み期間というのは自分のベースを作る期間であった?
橋本:そうですね。19歳の時に、大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』の千姫役で出演させていただきました。台詞が無い役だったんですけど、リハーサルの時の皆さんの気迫とか、大河ドラマの独特の雰囲気に触れて、“またこの世界に台詞がある役で戻ってきたいな”と思いました。それで、自分で着付けが出来るように覚えたり、日舞のお稽古へ行ったりとか。
石丸:すごいじゃないですか。自分の得意なものをどんどん増やして、引き出しを増やしていったんですね。それは良い下積みですね。
橋本:“無駄かな”と思うこともあったんですけど、今思うと“無駄なことはひとつも無かったな”“やっていて良かったな”と思うことばかりですね。
石丸:下積みが長かった17年間とおっしゃっていましたけれど、女優を選んだ今をどう思いますか?
橋本:“この仕事に出会えて良かった”と思います。
石丸:そして、今後はどのようにしていきたいとか、具体的な夢とかはありますか? “こういう役をやってみたい”とか。
橋本:とにかく幅が広い女優になりたいなと思っています。
石丸:女優と言っても「舞台」か「映画やテレビ」という風に大きく2つに分かれると思いますが、橋本さんはどちらに興味がありますか。
橋本:私は舞台が好きなんですけど、舞台も映画もドラマもそれぞれお芝居のアプローチの仕方が違うと思うので、全然違う面白さがあると思います。
舞台は、みんなで稽古して作り上げてお客さんの反応を生でもらったり、毎日変わっていくんですけど、ドラマは、時間が無いので、「撮ってすぐ次!」みたいな流れの中で、自分が考えていったものが共演者の方と対峙した時に全く違う感情が生まれてきたりして、“何が来るのか分からない”というのが面白いですね。それはある程度、経験やテクニックがないと出来ないものだと思うんです。
私は今、アクティングコーチをつけているんですが、その方と一緒に、脚本の読み方とか、役をどうやって作っていくのかという話をする機会があるので、楽しいです。それで作ってきたものをどういう風に演じられるかという面白さもあります。
石丸:なるほど。
橋本:映画は時間がたっぷり取ってあるので、ドラマとは違うお芝居なので、面白いですね。それぞれ全部面白いなと。
石丸:それぞれの良さを楽しんでいらっしゃるんですね。今、橋本さんはどれも器用にやられると思いますが、舞台をやると意外な一面が見えるんじゃないかなと僕は思います。
橋本:舞台もやりたいんです。
石丸:今度一緒に出来ると良いですね。
橋本:是非ご一緒させていただきたいです。