石丸:TAKAHIROさん、今週もどうぞよろしくお願いします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日ははどんなお話をお聞かせいただけますか。
TAKAHIRO:今日は「黒いノートブック」についてです。
石丸:今、私の目の前で掲げていらっしゃる黒いワニ革のノートブックですね。
TAKAHIRO:はい。
石丸:中にはノートブックが入ってますね。
TAKAHIRO:ちょっと新しいですが…(ノートをめくる)。
石丸:方眼(ノート)の中に色々な言葉が書き込まれています。これはどういうこと書いているんですか?
TAKAHIRO:これはいつも持っていて、多くは、コンサートの時の気付きを書いたり、あるいはオーディション番組やダンスのコンテストの審査の時(のこと)だったりに使用しています。
石丸:じゃあ、必ず横に置いているもので思ったことを書き記しているもの。
TAKAHIRO:はい。あと、自分の考えのメモもいっぱいあるので、テレビ出演したりする時もギリギリまで持っているノートブックです。
石丸:もう、“肌身離さず”に近いものですね。
TAKAHIRO:僕の本体がこのノートブックです。
石丸:本体! では、人には言わないけれど思った言葉がここ(ノートブック)にいっぱい散りばめられているということですね。…見たいですね(笑)。
TAKAHIRO:(笑)。
石丸:チラッと拝見したところは、ほとんど走り書きのような状態でバーッと言葉が並んでいるんですけども。
TAKAHIRO:そうなんです。あまりノートブックを見て書くことが無くて、目は人や景色を見ながら手だけを動かしているので、ノートブックは大きめなんです。
石丸:本当ですね。学校で子供たちが使っているノートのサイズより、もうちょっと大きいサイズですね。真っ黒になるまで書いているんじゃなくて、パッと見て一目瞭然に読み取れるような文字や行間で書いてありますね。
僕もミュージカルの世界にいまして、ノートブックにダメ出しなどをメモしていた経験があるんですけど、まさしく今持ってらっしゃるような状態のものを書いていました。
TAKAHIRO:同じ感じです。ここに行き着くんです。
石丸:行き着きますね。決して文はまっすぐ書いているわけではないんですけれども、斜めになったり、丸がついたり、そのひとつひとつにすごく深い意味がありそうですね。
TAKAHIRO:はい。「小4でダンス。好き。バレエもやっているのかな」とか、これはきっとオーディションの話だと思います。
石丸:きっと書き溜めたノートはいっぱいあると思うんですけども、自分のためにそれをもう1度めくってみることってありますか?
TAKAHIRO:時々あります。けれど、このノートブックは大体、その瞬間の出会いで終わっていきます。なんだろう…自分の目の前にたくさん流れ星が流れているような感覚なんです。
石丸:流れ星ね。
TAKAHIRO:流れ星は、目で見ていると流れて消えてしまう。でもパッと手で掴むようにノートにそのことを書くと、その流れ星が自分の中に入るような感覚があるんです。
石丸:だからこそ自分の手で書くということですか? 最近はみんなタブレットとかモバイルで、自分の手で(文字を)書かないことが増えてきましたけど、流れ星を掴むためには自分の文字で?
TAKAHIRO:書きたいタイプです。多分、“手を動かして自分でその文字を書いた”という感覚と記憶の感覚が2つのデータになって、それがマッチした時により具体的なイメージに繋がるんだと思うんです。
石丸:やっぱり“書く”って大事な意味がありますね。
TAKAHIRO:あります。自分の感情とかも文字に出ますから。
石丸:なるほど!
TAKAHIRO:オーディション番組で(ダンスを見て)すぐコメントする時に、手元(のノート)にすごく濃い字や太い字で書いている時は、“あ、この瞬間に心がすごく動いているぞ”とか、自分の感覚をちょっと客観視することも出来るんです。なので、“手で書く”ということは良いなと思っています。
石丸:心の鏡みたいな感じですね。この黒いノートブックを持つようになったのはいつ頃からですか?
TAKAHIRO:このノートブックは2015年に持ち始めました。タイのアーティストのジェームス・ジラユさんの撮影をした時に、タイのテレビ局のアメニティか何かで頂きました。
石丸:そのカバーですよね。
TAKAHIRO:はい。このノートブックを持ったきっかけはそれですが、その前から書いていました。舞台の振り付けを始めた頃からなので、2007年の世界陸上大阪大会の開会式の振り付けが1番初めだったと記憶しています。
石丸:やはりそれは“人の為に何かを記す”ということがきっかけですか。
TAKAHIRO:はい。それが自分に色々なことを教えてくれる、という。
石丸:ですね。流れ星がそこにいっぱい刻まれているんですね。
TAKAHIRO:そうなんです! 流れ星がいっぱいここに溜まっているんです。
石丸:素敵ですね。話は変わりますが、あのマドンナさんの目に留まったというのは、どこで目に留まったのか聞かれていますか?
TAKAHIRO:ニューヨークでダンスの舞台をやっていまして、その舞台の主演をしている時に、公演後に黒服の男性の方々が「あなたはマドンナと一緒に働きたいか」とスカウトに来まして。
石丸:単刀直入ですね。
TAKAHIRO:その日の朝に、僕のエージェントから「大きなコンサートの話に君を推薦したいと思っているんだけど」と言われていたので、同時に2つの大きいことが起こって、“これは本当に何かチャンスが来ているんだ!”と思いました。
石丸:やっぱり主役で舞台に立っているといろんな人の目に届きますからね。
TAKAHIRO:はい。それで次の日の朝、エージェントの方に(スカウトが来た話を)言ったら、「TAKAHIRO君、おめでとう! あなたはマドンナのコンサートのオーディションに出る権利を得ました!」と。
石丸:(エージェントの方と黒服の方は)繋がっていたわけですか?
TAKAHIRO:多分、マドンナサイドが「僕(TAKAHIRO )みたいな人をキャッチ出来るか」とニューヨークのいろんなエージェントに投げていたから、各エージェントが僕のところを目がけてスカウトに来てくれたのだと思います。
石丸:すごい!
TAKAHIRO:当時、こういうタイプの人間を探していたんだと思います。僕は“コンサートに出れるのかな”と思っていたら、「コンサートに出るためのオーディションに参加する権利を得た」と。
石丸:そうなんだ。まず、そこからなんですね。
TAKAHIRO:「ある程度選ばれた人じゃないとオーディションを受けられない」と。じゃあオーディションはどんな感じかと言ったら、映像が送られてきて、「この映像を1週間以内に覚えて自分で撮影して送ってください」という映像審査が1回目だったんです。
石丸:いわゆる踊っているものを自分で解釈して、その動きを自分で表現していくということですね。
TAKAHIRO:そうです。でも「Do not add your own flavor〜(あなたの個性を絶対にそこに入れてはいけません) 」と書いてあったんです。まず、作品の完全なコピーが出来るかを見られるんです。アポロシアターでは“いかに自分の個性を出すか”というチャレンジだったけれども、下積みを何年か経験して、いよいよ“個性を入れない”チャレンジをするというのが第1のオーディション。
それに受かった後、次の課題にも受かったら、ある日電話がかかってきて、「すぐにL.A.に飛んで来れるか?」と。
石丸:今、ニューヨークにいるのに。
TAKAHIRO:はい。「1週間の合宿審査」と言われた後に、「YES or NO?」とすぐに聞かれたんです。
石丸:うわあ。
TAKAHIRO:“これ、分かるぞ。映画で観たことがある。「NO」って言った瞬間にダメなやつだ!”と思って。
石丸:じゃあ、全てを止めて。
TAKAHIRO:止めて「YES」と言って、(L.A.へ)飛びました。
石丸:飛んだ世界はどんな世界でした?
TAKAHIRO:飛んだ先は、実際のスタッフや過去に参加したダンサーが居て、共同リハーサル生活をする、みたいな感じでした。振付師の人もいて、作品を本番さながらに作っていきました。
石丸:じゃあ、新たな振り付けがそこで作られて、それをみんなで身体に入れていくという作業が始まったんですね。
TAKAHIRO:はい。その中には、最終候補になったライバル達も一緒にいました。
石丸:マドンナさんのコンサートに出るオーディションは世界中に投げているわけですよね。実際にどのぐらいの人達が集まってきたんですか?
TAKAHIRO:かなり絞り込まれていて、10人いなかったと思います。そこでサインをして審査が始まりました。
石丸:そこからまだ絞り込むんですか? それとも“その人数でいきます”ということなんですか?
TAKAHIRO:最後に受かったのは2人でした。
石丸:ええ!
TAKAHIRO:最終日にみんなが集められて、「今回の合格者はこの子とTAKA」と言われました。
石丸:その時の気持ちはどうでした?
TAKAHIRO:“嬉しい”という感覚よりも、“ここから本当に大変なことが始まるんだ”という責任の重さと、“隣に(審査に落ちた)ライバル達がいるから「Yeah!」とは言えない。もしかしたら僕が落ちていたかもしれないのだから”とか、いろんな複雑な気持ちで、ただただ冷や汗をかいたのを覚えています。
石丸:その現場にはマドンナさんは立ち会っていたんですか?
TAKAHIRO:まだです。その後にマドンナが実際に入ってくる本当のリハーサルがあるので、ダンサーはそれまでにある程度作り込みました。そしていよいよ、「“M”が入ってきます」と。つまり、マドンナが。
石丸:「M」って呼ぶんだ。
TAKAHIRO:はい。で、スタッフが来て僕に言うんです。「TAKAもすごく頑張ってくれてThank you。でもここでMが『NO』って言ったらNOなの。ごめんね。そこは理解してね」と。
石丸:その時にどんな思いになりましたか。
TAKAHIRO:“もちろんそうだよね”と。
石丸:でもそんなこと言われると思ってなかったでしょ?
TAKAHIRO:思っていなかったです。「頑張ったね、じゃあ次」になるんじゃなくて、また「0(ゼロ)か1か」が決まっちゃうんだ、ただ、やるしかないぞと。
そしてMが来て言うんです。「Show me」と。だから見せなくちゃいけない。
石丸:いわゆる「初めまして」とか日常会話があったわけじゃなくて、「Show me」と。
TAKAHIRO:はい。すごくピリピリした空気の中で、練習していた曲をやりました。それで、終わった後に少し沈黙があって…。
石丸:嫌な沈黙だなあ(笑)。
TAKAHIRO:Mが考えているので。そこで「OK. You are my family」と言ってくれました。
石丸:やった!
TAKAHIRO:そこでマドンナは「You are my “dancer”」じゃなく、「You are my “family”」と言ってくれる人なんだと。そこで、本当に素敵なアーティストの人と働けるチャンスを目指して頑張っていたんだと分かって、「やった!」と思いました。