石丸:森田正光さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは4週にわたって、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりました。最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしていきたいと思います。森田さん、それは何でしょうか?
森田:「読書」です。若い時からずっと本を読み続けていて。
石丸:今は、どのくらいの頻度で読まれていますか。
森田:今はペースが落ちて週に1、2冊くらいですけど、その分、スマホとかで活字はいっぱい読んでますよ。
石丸:今は(本以外に)いろいろありますものね。本から何を得るんですか?
森田:“何を得る”というか、“面白いから読んでいる”という感じですかね。ただ、昔は小説とか芸術系をいろいろ読んでましたけど、最近はノンフィクションを主に読んでいます。ノンフィクションと言っても、科学、サイエンスですかね。
石丸:それは、お仕事と関わりがあるからですか?
森田:そうですね。あと、20年ぐらい前からビジネスのようなことにすごく興味を持つようになって。実はそのきっかけになった本があるんです。
石丸:どういう本ですか?
森田:「本多静六」という名前はご存知ですか?
石丸:ちょっと存じ上げません、ごめんなさい。
森田:たまたま別のことで本多静六っていう人を調べていて。明治神宮ってありますね。明治神宮というのは、実は自然の森ではなくて、人工に作った森なんですね。明治天皇がお亡くなりになった時に、「明治天皇を祀る神社が必要だ」と。そこで東京に神社を作ろうとなった時に、当時の大隈重信首相が、「明治神宮の杜も、伊勢神宮や日光東照宮のような荘厳な杉林したらどうだ」と提案したんです。それに一番反対したのが、本多静六という林学者だったんです。
石丸:林学者なんですね。
森田:植物学者の本多静六は、「この辺は陸蒸気、汽車がいっぱい走っているから、針葉樹は蒸気で駄目になってしまう」と。だから、日本中から広葉樹も含めていろんな木を総合的に集めて、日本の古来の森を作って“鎮守の杜”を作るのが目的だということで、明治神宮を設計したんです。
石丸:日本中の木が植えてあるわけなんですね。
森田:はい。あちこちから木を植えて。それで、今でも“明治神宮のこの一角は誰も入ったらいけない”というゾーンがあるんです。
石丸:そうなんですか!
森田:そこは自然に生え放題で、落ち葉すら持って行っちゃいけないんです。そういうゾーンがあることに感銘を受けて、“本多静六って何者だ?”って調べてみたんですね。そうしたら、本多静六の『私の財産告白』という本があったんです。その本を読んでから私もビジネスにちょっと興味を持ったんですが、本多静六はすごい大金持ちになるんですよ。で、それを全部、大学を定年退官する際に寄付しちゃうんです。
石丸:そうなんですね。どこに寄付されたんですか。
森田:公的な機関だったと思うんですが、そういうところに寄付しちゃうんですね。
石丸:どんなことをしてお金を儲けていったんですか?
森田:多分、土地と株式だと思います。だから、Wikipediaとかで見ると、“貯金や株式投資、公共事業などで巨万の富を得た”みたいに書いてありますけどもね。
ただ、私は、本でお金を儲けた後の話が書いてあるものを読んだんですね。本多静六は、「どうやったらお金が儲かるか」とみんなから聞かれるから、「それは4分の1天引き貯金だ」と言ってるんですね。「自分にお金が入ってきたら、とにかくその4分の1は最初から無いものとして置いておいて、残りの4分の3でなんとか生活をしなさい。その4分の1が一定程度にまとまったお金になったら、それで株式投資とかをして、その後に土地を買ったりしなさい」ということが書いてあるんですね。当時明治ですから、ものすごく早い(先見性)ですよね。
お金の増やし方はどうか分かりませんけども、いろんなことに対する考え方が素晴らしくて。
石丸:そこに惹かれた。
森田:単に“お金儲けをする”というよりも、“お金を儲けること自体が世の中の役に立っていく”という。実際に、大学を定年退官する際に全額寄付みたいな格好良いことをやるわけですよね。
石丸:そうですよね。
森田:尋常な人じゃないな、と思って。そもそも、明治神宮の森を作ること自体が、単純に“今がよければ良い”のではなくて、何世代にも渡って(良くなるように)。だから明治神宮は今も進化中で、確か200年とか250年とか、それぐらい経ったら完成形になるんですって。
明治神宮は大正時代に出来ていますから、100年位しか経っていない。
石丸:まだ、道半ばなんですね。(完成を)見てみたいですけど、見れませんね(笑)。
森田:(笑)。
石丸:“先を見る”ということは、すごく大事なことなんですね。
森田:だから、本多静六が明治神宮の森を作った時の考え方も、『私の財産告白』の財産とかビジネスについても、“目先のことでは無くもっと先を見る”という考え方がすごく好きで。
石丸:読書の趣味がたくさん人生に活かされているんですね。
森田:そうですね。