石丸:森田正光さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしておりますが、さあ、今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
森田:今日は「島バナナ」です。
石丸:僕も「島バナナ」は気になってるんですけど、まずは「島バナナ」とは何か教えていただけますか?
森田:奄美大島でも採れるんですが、沖縄県全体で採れる、実が小さいバナナのことを言うんです。
石丸:モンキーバナナとは違うんですね。
森田:違うんです。モンキーバナナよりちょっと大きくて、味はモンキーバナナと全く違います。島バナナというのは、日本の奄美大島から沖縄だけで広がっている「小笠原種」という種類なんです。フィリピン産とか○○産とかいっぱいありますけども、日本でスーパーに普通に並んでいるバナナはほとんど「キャベンディッシュ」という種類なんです。
石丸:台湾産とかありますもんね。
森田:あれはほとんど「キャベンディッシュ」という種類で、国や産地が違うだけで味は同じなので、“値段の割に味はあんまり変わらないじゃん”とか、私なんかは思ったりするんですね。
石丸:そのぐらい島バナナとは(味が)かけ離れているんですか。
森田:全く違う。
森田:食べたことはありませんか?
石丸:実は時々、沖縄へ行った時に島バナナを探すんですけど、一度も食べたことが無いです。食べたくてしょうがないんです。
森田:お願いします! どんなことがあっても手に入れて食べてください。
石丸:食べたいです! いつだったら食べられるんですか。
森田:これからの時期、夏がいいですね。年中採れるんですけども、一番美味しいのは3〜4月ぐらいから10〜11月ぐらいまでです。
石丸:なんで僕の前から、島バナナが消えているんでしょうか?
森田:はっきりしているのは、(島バナナは)40トンぐらいしか採れないんです。バナナ(の生産量)は世界中で1億トンとかそういう単位なんですよ。40トンって、1トンが1,000キロですから、40,000キロですよ。40,000キロということは、1人1キロ食べると4万人です。1キロってひと房くらいなので、3日間くらいですぐに食べちゃいます。つまり4万人の口にしか入らないんですよ。沖縄の人達は100万人以上いますよね。
石丸:そうですね。
森田:沖縄の人だって食べたことがない人がいっぱいますもん。そもそも島バナナというのは、昔、我々が小さい頃に近所に柿の木やみかんの木があった感じで、自宅に勝手に生えてくるんです。勝手に生えたやつを採って、自分のところで食べて余った分を“ちょっと市場にでも出すか”みたいな感じなんですよ。
石丸:じゃあ、(沖縄では)すごく日常にあるバナナなんですね。
森田:そう。ただ、ちゃんと植えて育てていないと採れないので、街の人たちはほとんど手にしたことがないですね。
石丸:そうなんですか。バナナ農家さんが食べちゃってる?
森田:食べちゃってるというか、農家が無いんです。バナナを生産してる専門の人がいないんです。
石丸:専門の人、ぜひ作ってくださいよ。
森田:今、作ろうとしているんです。
石丸:ええっ!
森田:沖縄で畑を借りてやっているんです。
石丸:本当ですか!
森田:こういう所でバンバン言うと…ばれちゃうので(笑)。
石丸:こっそりなんですね(笑)。そういう温暖な所では、島バナナはちゃんと元気に育つものなんですか。
森田:島バナナがいろんな所に出回らないのは、“3つの(3大)リスク”というのがあるんです。まず1つは「台風」なんです。一生懸命伸びても台風が来たら一発で終わりで、それでその年はダメなんですよ。
石丸:稲穂と似てますね。
森田:そうなんですよね。そして2つ目の理由が、病害虫。
石丸:他のバナナよりも付いちゃうんですか?
森田:そうですね。「ゾウムシ」とかそういう病害虫によって、なかなか健全なバナナが育たない。それで3番目は、ちょっとアレなんですけども…泥棒が多いんですよ。
石丸:持って行っちゃうんだ。あ
森田:そう。普通に生やしてあるので、まあ、悪気が…あるんだろうけれども、「良いのがなってるね」って言って、ぶらっと取っちゃったりする人がいて。そうするとなかなか育たなくて。今、普通のキャベンディッシュ(種)のバナナだと、1本20〜30円ですよね。
石丸:そうですね。ちょっと良いのだって100円もしないくらいですもんね。
森田:島バナナはかるく1本200〜300円しますからね。
石丸:1本!
森田:ひと房、1,000円位しますもん。
石丸:値段は僕もお店で見たんですよ。1,000円ぐらいの値札だけが残ってて、ものが無くて「売り切れ」って。“1,000円もするバナナはどんなんだろう” って。
森田:買わないといけないですよ、その時に。
石丸:そうなんですよ。そうなんですけど、もう売り切れてたんです。
森田:なるほど、そういうことか。
石丸:森田さん、今度実ったらコッソリお願いします。
森田:本当に考えますよ。そして、もうひとつ気を付けないといけないのが、島バナナが“知る人ぞ知る存在”になってきて、インチキも増えてるんです。
石丸:偽物ってことですか。
森田:沖縄で出てきたものをみんな「島バナナ」って言っているけど、我々が考えている島バナナは「小笠原種」という種類なんです。我々…というのは、今、十数人でチームを作っているんです。我々は小笠原種を本当の島バナナの一番美味しいものだと思っているんですね。ところが、三尺バナナとか、銀バナナとか、アップルバナナとか似たバナナがいっぱい出来て。
石丸:サイズも似ている?
森田:サイズはアップルバナナの方が大きかったりするんですけど。でも、それはそれで美味しいんですよ。美味しいんですけれども、三尺バナナとかは酸味がないんですね。
石丸:ということは、島バナナはちょっと酸っぱい?
森田:その酸っぱさこそが命だと思ってるんですね。
石丸:他の果物に例えると、どんな味なんですか。
森田:バナナにりんごの味を足したみたいな感じですかね。
石丸:ええ! バナナにりんご?
森田:それがまたね、1日1日、日によって味が変わっていくんですよ。
石丸:そうなんですか。
森田:追熟っていう風に言いますけども、吊るしておくと少しずつ熟していきますね。
石丸:黒い点がついたりとかして黒くなっていきますよね。
森田:そうなんです。その黒い点が出来た時が美味しいんですけども、そのあとに真っ黒になって、“こんなもの捨てるだろう”という段階でも美味いんです。
石丸:えっ! 中身は大丈夫なんですか。
森田:はい。全然オッケーです。あと、黒い点がシュガースポットですよね。シュガースポットが出る前も美味しいんです。
石丸:それは、さっき言われた酸味が強い感じ。じゃあ、真っ黒になった時はどんな味になるんですか。
森田:何とも言えない高級なデザートですかね。スプーンですくって食べるみたいな。
石丸:ということは、家で1房買って時々食べると味がどんどん変わっていくのを楽しめる、と。
森田:そうです。
石丸:贅沢な食べ物ですね。
森田:ただ、追熟がうまくいかないと“なんだこんなもの”ってなっちゃうんですよ。
石丸:ええ? どういうことですか。
森田:例えば、「絶対に18℃以下の温度にしない」とかね。絶対に冷蔵庫に入れるなってことですよ。
石丸:冷蔵庫はダメなんですか。
森田:絶対ダメです。
石丸:なぜですか?
森田:長持ちはするかもしれないけど、多分でんぷん質が糖に変わっていかないからだと思いますね。
石丸:昨日買ったバナナ、冷蔵庫入れちゃった(笑)。
森田:普通のバナナはキャベンディッシュ(種)ですから。バナナはお好きなんですか?
石丸:食べ過ぎないようにしてますけど、好きなんですよ。
森田:じゃあ、石丸さんはその島バナナを好きになったら、もう病みつきというか…。
石丸:これは沖縄通いが増えるかな(笑)。
森田:今はAmazonとかでも買えるんです。ただ、私もいっぱい試したんですけど、当たり外れが大きいんですよ。
石丸:そうなんですね。
森田:本当に美味しい島バナナと、“これ、他の種類が入ってるんじゃないの?”とか疑わしいものがあるんですよね。
石丸:では、沖縄に行ってお店で買ってその場で食べる、もしくは追熟させて食べる。
森田:というのが良いと思いますね。
石丸:楽しみですね。あと、島バナナを普及することが森田さんの夢だと伺いましたけども、どういうことなんでしょうか。
森田:島バナナって、そのままにしておくと、おそらく絶滅するんです。
石丸:絶滅危惧種ですか。
森田:どんどん作る人が少なくなってるし、台風なんかによってやられちゃったりするので、それを“次の世代まで残したい”というのがまず1つ。それから、島バナナは高いですから、島バナナ自体の良さが伝えられると、ある意味沖縄にお金が入ってきますよね。
石丸:そうですよね。
森田:我々は“安けりゃいい”っていう概念がずっとついてますけども、年齢を重ねていくうちに“安いものより価値のあるもの”という考えの方が自分には合ってきたんですね。
石丸:価値を高めて普及させる方法は、マンゴーとかがそうですものね。
森田:あれが1つのモデルだと思いますね。高くても美味しかったら買いますよね。
石丸:買いますね。
森田:実際にさくらんぼや桃も高くても買いますもんね。
石丸:メロンだってあんなに高い値段でも買う人がいるじゃないですか。
森田:ですよね。そういう感じで。
石丸:そこを目指すんですね。何年かのうちにキッチリ出来そうですか。
森田:どうなんでしょうね。まず、量が出来ませんものね。今やっているのは熱帯果樹の研究者と一緒に、今までは管理をせずに作っていたので“きちんと管理しようよ”というところ。それから“どういう風になったら病害虫を防げるのか”とかね。
石丸:虫がつきやすいというのが、ひとつのネックですよね。品種改良とかも今後していくんでしょうか?
森田:品種改良すると、それは島バナナでなくなるので。
石丸:ああ、そうか! それは簡単にいかないですね。
森田:手間取りますよね。
石丸:でも、出来た時の喜びは大きいし。
森田:生きてるうちに出来るかしら(笑)。
石丸:ぜひやってください。
森田:その時はお持ちします。
石丸:よろしくお願いいたします。