石丸:森田正光さん、これから5週にわたり、どうぞよろしくお願いします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしておりますが、さあ、今日はどんなお話をお聞かせ頂けますでしょうか。
森田:「散歩」です!
石丸:散歩! 今、コロナ禍で、散歩がブームじゃないですか。
森田:よくそう聞くんですけど、そういう散歩とは全然違うんです。私の散歩は、目的も何も無いんです。
石丸:特に“身体のため”とかいうわけでもなく。
森田:はい。ただ、歩数をカウントする時に必ず万歩計を使ってるんですけども、その万歩計で「何歩歩いたか」というのを、例えば“歴史”にしようとするんですよ。
石丸:歴史?
森田:歴史。今、西暦は2000年ぐらいありますよね。1500歩歩くとすると、1年1歩とカウントすると、1500年遡ったわけですから、西暦で言うと500年ぐらいですよね。538年が仏教伝来ですから、“おお、仏教伝来の頃まで来たのか”とかね(笑)。
石丸:そういう、歴史に乗っていくわけですね。
森田:そうなんですよ。僕は8000歩を自分の基準にしていて、8000歩を過ぎると“お、縄文(時代)まで行った”と思うんですよ(笑)。
石丸:(笑)。だから“どこを歩く(のが目的)”というわけじゃないんですね。“歩数”か。
森田:そうなんです。歩数が重要なんです。
石丸:今の万歩計は、スマホのアプリケーションとかで付けている人がいるじゃないですか。
森田:あれは邪道です(笑)。実は、この万歩計はもう6台目とか7代目ぐらいで、新しいものは買い求めるんですが、“今日の歩数が分かれば良い”という。でも、遡れば“(これまでに)何歩歩いたか”とか、合計が出るんですけれども。
石丸:今までのデータがありますものね。その万歩計というのは、必ずポケットに?
森田:必ず入れています。あんまり見ないんですけど、過去のデータを見ると、12000歩とか15000歩とか、20000歩ぐらいまで行った時もあって。
石丸:歩いてますね! どこの時代まで遡るんでしょうか(笑)。
森田:あと、年数だけじゃなくて、その1年を光の速さにすると、“アンドロメダ大星雲まで”とか、そういうことも言えるわけですよ。
石丸:ロマンがありますね! それはもう、これからもずっと持ち続けて行くということでですね。
森田:形を変えながら、持ち続けて行くと思いますね。
石丸:お散歩で、やっぱり“何となく辿り着いてしまう場所”というのはありますか?
森田:やっぱり植物の所ですかね。最近ですと、浜離宮に、青の「リュウゼツラン」という…。
石丸:100年に1回しか花が咲かないという?
森田:そうです。100年に1回はちょっと大袈裟なんですが、10年に1回ぐらいしか咲かないんですね。そのリュウゼツランを、たまたま浜離宮を歩いていたら見つけたんです。まさに今、咲き出しているんですよ!
石丸:今ですか!
森田:7月ぐらいから8月ぐらいまで咲くんです。最初は葉っぱだけなんですよね。今年の4月に行った時には“まだ全然咲かないな”思っていたら、もう(今は)4mぐらい伸びていたんです。
石丸:もう“木”ですね。
森田:本当にそんな感じで。1日10cmとか20cmとかの単位で伸びているみたいですね。
石丸:筍みたいですね。じゃあ、浜離宮に行けば見ることが出来る?
森田:はい。気が付かない人も多いと思うんですけれども、浜離宮の方に訊いていただければ行けると思います。石丸さんは、浜離宮へ行かれたことは?
石丸:劇団四季にいた頃、浜離宮の横に劇場がありまして、よく浜離宮の前は通っていました。
森田:私、『オペラ座の怪人』(ミュージカル)、観ましたよ!(笑)
石丸:ありがとうございます(笑)。でも、浜離宮の中には入ったことないんですよ。だから今回、これを機に行ってみます。
森田:是非、お願いします。本当に、この機を逃すと次は10年後ですから!
石丸:「散歩の良さ」について、森田さんからお言葉をいただけますか。
森田:一言で言うと、「思索の時間」ですかね。考えながら、ボーっとしながら(歩く)。“考えながら、考えていない”みたいな。例えば、「座禅」ってありますよね。「座禅をしている人は考えるな」とか言いますけど、実際には考えますよね。そういう雰囲気に近いんじゃないでしょうか。
石丸:じゃあ、いろんなことを頭の中に巡らせながら、目的を“これ”と決めずに、パッと浮かぶことを楽しみながら(歩く)。
森田:そうなんです。(散歩で)目的を決めること自体が、私は邪道だと思っています(笑)。“あの辺まで行くか”というアバウトな感覚はあるんですけれども、“何々をする為に”というのはないですね。
石丸:さて、森田さんは『散歩が楽しくなる 空の手帳』(東京書籍)という本を発表されています。私も手に入れました。
森田:ありがとうございます。
石丸:写真も綺麗だし、知りたかったことがいっぱい書いてあってワクワクします。こちらは「空」「雲」「お天気」にまつわる雑学と、そして写真。それがギューっと1冊の本になっているものなんですけれども、先ほどお散歩の話もしましたが、やっぱり歩きながら思わず空を見たりとかはなさいますか。
森田:それはしょっちゅうですね。仕事なので、変な言い方ですが、“向こうから入って来る”んです。空の方から「この雲を見て」とか「この太陽を見て」みたいな。
石丸:そうですか。
森田:だから、「今日はどういう雲が出ていたか」とか言われたら、すぐにわかりますよ。例えば今日、曇りだったとします。その“曇り”は、皆さんには普通の“曇り”じゃないですか。でも我々は、「これは層積雲という雲の中に高積雲が一部混じってるね」とか、そういうことがわかるんですよ(笑)。
石丸:うわ!
森田:面白いでしょ。それを一緒に空を見ている人に言うと「この人、本当にプロなんだ!」って思われたりして(笑)。
石丸:(笑)。「層積雲」とか「高積雲」というのはこの本の中に書いてあるんですけれども、どういう雲なんですか?
森田:フランスパンってありますよね。フランスパンの長いのをいくつか並べたようなのが「層積雲」ですね。「高積雲」というのは、「羊雲」とか「鯖雲」とか言われたりしますね。
石丸:「層積雲」より小さい感じなんですか?
森田:そうですね。それで、「羊雲」とか「鯖雲」って日本語だと思うじゃないですか。でもあれは英語なんです。明治時代にどんどん“雲の形”というか“雲の見方”が(海外から)入って来て、例えば「sheep cloud」と言うと「sheepは“羊”だから、“羊雲”だ」とか、「mackerel sky」だと「mackerelは“鯖”だから、じゃあ“鯖雲”にしようか」とか。日本語だと我々は普通に思っているけれども、実は元々は英語だった、というものはいっぱいあるんですよ。
石丸:そうなんですね。
森田:「台風」もそうです。我々は台風と言っていますが、元々は「typhoon(タイフーン)」なんですよね。
石丸:何語なんですか?
森田:英語です。でも、(一説では)その前はギリシャ語ですよね。ギリシャ神話に「typhon(テュフォン)」という、ヤマタノオロチみたいに首がいっぱいある怪物がいたんです。その「typhon」が変化していって「typhoon」 になっていったと。だから、“自然界のヤマタノオロチ”が台風の言語の意味だったんですね。それを日本語に訳したのが、中央気象台長だった岡田武松という方です。
石丸:もう、日本語だとばかり思い込んでいましたね。
ここで1つお聞きしたいのですが、「雲」って本当にいろんな雲があると思うんですけど、僕は「積乱雲」が大好きなんです。森田さんはお好きな雲はありますか。
森田:同じです。僕も積乱雲が大好きで。でも「積乱雲」と言うと、災害を起こすような雨を降らすじゃないですか。だからちょっと言いにくいんですけども…今日は言っちゃおうかな(笑)。
石丸:言ってください(笑)。
森田:積乱雲が大好きです!(笑)
石丸:やった、同じです!(笑) 積乱雲ってどんどん変化するじゃないですか。その先のことは置いておいて、雲の変化が一番見えるところに、僕はそそられるんですよね。
森田:ですよね。見ているだけでどんどん成長していきますからね。あと、“仁王立ち”みたいな感じも良いですよね。「向かって来い!」みたいな。
石丸:あれは相当長く伸びているんですか?
森田:発達したもので15000mぐらいですね。
石丸:そんなになるんですか。あれは下から上がってくものなんですか?
森田:そうです。実は、積乱雲の底は平らになっています。平らというのはどういうことかと言うと、下から目に見えない水蒸気がいっぱい湧いてきて、目に見えませんけれども、ある高さのところに来ると、冷やされて雲が出来るんです。そこから目に見えるようになるんです。
だから、積乱雲の底、平面の位置が地上から高い所なのか低い所なのかによって、その積乱雲の成長の度合いというか、大きさ、強さが分かるんです。
石丸:そういう仕組みなんですね。
森田:下の方から(水蒸気が)どんどん湧いてきて、上の方の高い所、15000mぐらいまで(雲が)伸びると、バンバン雷が鳴るようになるんですね。
石丸:強い雲になるんですね。