石丸:水谷豊さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”をお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
水谷:今日はですね、「共演者との出会い」についてです。
石丸:今日は、映画『太陽とボレロ』のキャストについてお伺いしようと思います。結構、個性的な俳優さんが集まりましたね。
水谷:そうですね。集まりましたね(笑)。
石丸:主演は檀れいさん。檀れいさんは映画初主演だったそうです。
水谷:僕も知らなかったです。
石丸:僕も(檀れいさんは)色々とやってらっしゃると思っていたんです。檀さんと水谷さんは、痛快エンタメ時代劇テレビ朝日系ドラマ『無用庵隠居修行』で何作も共演されています。ドラマの時は“俳優と俳優”としての関係でしたけども、今回は“監督と役者”という関係になりました。檀さんはいかがでしたか?
水谷:いやあ、良かったですね。脚本を書いている時はまだキャストは決まっていないわけですから、僕は自分の想像のキャストで書くわけですね。だから自分の勝手なイメージで作っていくわけですけれども、あるシーンだけ、檀れいさんの顔が出てきたシーンがあるんですよ。それでいざキャスティングに入った時に、こちらがオファーしても、受けてくれるかどうかはまだ分からないですよね。俳優側にも断る権利がありますからね。
石丸:そうですね。
水谷:オファーしたから必ず出てくれるってことではないですから、オファーした後に「OK」という返事が来た時は、これは嬉しい(笑)。それは、もちろん石丸さんもそうですよ。
石丸:そうですか! ありがとうございます。
水谷:断る権利はあったんですよ(笑)。
石丸:(笑)。でも僕も、水谷豊さん監督・檀れいさん主演というのは伺っていて、“それはぜひ参加させていただきたい!”と思いました。先ほど仰っていました、「あるシーンで檀れいさんのことが思い浮かんだ」というのは、具体的にはどのシーンになりますか?
水谷:ホテルでちょっと大変なことがあって、早朝の公園で檀れいさんが横たわっているシーンがありましたよね。あのシーン。
石丸:そうなんですね。
水谷:そうなんですよ。そこまでは架空の女性だったんですよ。だけど、その後(のシーンで)また檀れいさん(が思い浮かぶわけ)でもないんですね。また自分の架空の人物をおいていくんですね。
石丸:面白いですね。
水谷:面白いんですよ。
石丸:でも、(脚本を)書いている途中にパッと浮かんだのが檀れいさんだった、ということですね。
そこのシーンももちろんですけども、シチュエーション的にも、“檀れいさんなら納得”っていうシーンがいっぱいあるんですよ。
水谷:そうですか。
石丸:僕は“(全てのシーンで)檀れいさんを思い浮かべて書かれたのかな”って思いこんでいたんですけど、違ったんですね。
水谷:実はそうなんです。
石丸:これは意外でした。私は今回、オーケストラの楽団員ではない役を頂戴しました。実は、心の中で”僕も楽器を弾ける役を演りたかったなぁ”って思っていたんですが、結果、サックスを吹かせていただくことが叶いました。ありがとうございます。
水谷:最初、脚本を書いた時には、そのシーンはなかったんですよね。でも、石丸さんがサックスを…。
石丸:やっていた過去がありまして。
水谷:それを聞いて、石丸さんに「映画でサックス吹いてくれる?」って聞いたら…。
石丸:「どこへでも駆けつけます!」というようなことを申し上げました。
水谷:それで僕は願ったり叶ったりで、すぐにあのシーンだけ(脚本を)書き直したんですよ。
石丸:ありがとうございます。
水谷:本当はなかったシーンなんですけども、そしたら何とも素晴らしいシーンになって。いやあ、あんなに上手いとは(笑)。
石丸:ありがとうございます(笑)。
水谷:素晴らしいサックスでしたよ。惚れ惚れしました。今回、石丸さんが演じた鶴間という役は、サックスを吹くところともう1シーン、男っぽい、格好良いところがあるんですけど、それ以外は“本当に面白い人”というイメージがあったんですよ。
石丸:なんか、人間っぽい。僕も最初は“二枚目で”と思っていたんですけど、よくよく(脚本を)読むと“違うかもしれない”と思って、色々な面を出すかもしれないなと思いながら現場に行きました。
水谷:檀れいさんもそうで、普段見ていると、とてもチャーミングなところがあるじゃないですか。
石丸:ありますね。
水谷:ユーモアもあるし、ああいうところを作品の中で出してくれたらなという思いがあるんですね。
石丸:そういう意味では、水谷さんが監督として各俳優の色々な面を知っていてキャストし、そしてメガホンを取ったんだなということが感じられる映画になっていると思います。
水谷:そうですか。
石丸:檀れいさんや私以外にも、すごい仲間たちがいるじゃないですか。その話も伺いたいと思います。
映画『太陽とボレロ』には、すごいバイプレイヤー達が集まりましたが、(脚本を)書かれながら、“この役はこの人に”というのが浮かんだ人はいますか?
なぜかと言うと、今回の映画は、みんな楽器を演奏しなくてはいけないじゃないですか。実際に集まって(キャストの皆さんに)お話を伺ったら、どうやら皆さん、初めて楽器に向きあうということで。どうして“この楽器の演奏者はこの人”というキャスティングをしたのかを伺いたいと思いました。
水谷:(脚本を)書いている時に、(オーケストラの話なので)、当然バイオリンは出てくる。トランペットが…フルートが…と楽器が出てくるわけですね。
その脚本にあわせていざキャスティングが始まるっていう時に、“あっ、この人だ!”ってなっていくんですね(笑)。例えば、コントラバスとホルンとファゴットの、あの仲の良い3人ですが、揃うだけで面白くないですか?
石丸:ファゴットの高瀬哲朗さん、ホルンの田中要次さん、そしてコントラバスの六平直政さん。この3名が…。
水谷:ちょっとした共通点がありますよね。これは狙いでしたね(笑)。
石丸:狙いでしたか(笑)。全く(楽器演奏の)経験がない方もいらっしゃったと思うんですけども、皆さん、楽器を仕込むというか(演奏する演技については)、どの位かけて準備をされたんですか?
水谷:コロナで撮影が1年延びたじゃないですか。1年まるっきり全部練習にあてたわけではないんですけれども、早めにレッスンすることが出来たというのは、みんなにとって良かったのではないかと思います。
石丸:プロの演奏者の方が、マンツーマンで。
水谷:マンツーマンで、みんなにそれぞれの楽器を教えてくれましたよね。僕は一切、吹き替えの体は取らない気持ちだったんですよ。
石丸:そうですよね。ご本人が演奏されてましたよね。
水谷:だから全部本人に演ってもらいました。
石丸:それがすごかった。現場で皆さんが演奏している音を聴いた時に、“これは皆さん真剣にやってらしゃるな”と思いました。1番衝撃を受けたのは、チェロを弾いておられた、原田龍二さん。僕も昔チェロを弾いていたんですけれども、フォーム、そして音、もうアマチュアの域じゃないんですよ。すごく努力されたと思うんですけど、“チェリスト”なんですよ。
水谷:そうですか。良かったです。
石丸:そういった意味では、皆さん俳優としてとことん楽器と向きあったんだなと思いました。
水谷:そうですね。そうじゃないと、ああはなれないですよね。みんな良くやってくれたなと思いますね。
石丸:この映画では、我々が他の役を演じている時の顔とは違う一面が見れますね。
水谷:ああいうキャラクターを見せていくと、“コンサートはああいうメンバーが集まってやるから、まあそんなもんだろうな”とイメージを想像しちゃうじゃないですか。ところが、今回の弥生交響楽団は、アマチュア交響楽団なんですけど、素晴らしい演奏をするでしょ。
石丸:素晴らしいですよね。
水谷:あのキャラクターと演奏のギャップを作りたかった。
石丸:そこですね。
水谷:今回はそういうことがやりたかったですね。
石丸:水谷さんにとって、この映画をやって何か“出会い”はありましたか? 例えば「新たな一面を知った」とか。
水谷:僕は一応、脚本を書く側の人間ですから、そのキャラクターをイメージして(脚本を)書くんですが、実際にキャストが決まると、“そのキャストの中にどういうものがあるのか”というところを、まずは見るんですね。これはオートマチックなんですけれども。それが見つかると、それを(映画の中で)出して欲しいわけですね。
だから、キャラクターというのは一応書きますけれども、“キャストそのもの”が、やはりそこに反映されてくる。
芝居をしている時の方が、僕はその人が分かるんです。芝居をしていなくて普段会って話をしている時って、“その人がどんな人か”というのは、分かるようで意外と分からないんですよ。でも、芝居をすると“どういう人か”がすぐ分かる。その人の感性を出しているから。どう脚本を読んでいるか、つまり“感性”。それで芝居をすると、今度はそこに“表現力”というものが必要となってくるんですけど、それも分かる。だから、芝居をしている時の方が、その人が分かる。
石丸:分かるんですね。それは面白いものですね。
水谷:面白いんです。そういう意味で、今回は意外な出会いの連続でした。普段、一緒に仕事をしていない方達もいたので、芝居をしたことによって“あっ、そういう人なんだ!”って。これが楽しい時間。
石丸:監督って良い仕事ですね(笑)。
水谷・石丸:(笑)。