石丸:大久保嘉人さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは3週にわたって、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしてまいりましたが、最終週は“時を重ねながら長く大切にしていること”についてお聞きしたいと思います。それは一体何でしょうか。
大久保:「家族との時間」ですね。
石丸:先週もご家族の話をしていただきました。男の子4人のお子さんがいらして、女性は奥様1人、男世帯ですよね。
大久保:そうですね(笑)。
石丸:現役の時は、かなり忙しいスケジュールだったと思いますが、ご家族との時間はどのように取られてました?
大久保:週に1回は休みがあったんです。試合の次の日は休みだったので、家族がみんな揃う時は旅行へ行ってました。ただ、みんなが揃う時があまりなかったので、その時は次男のサッカーを一緒に観に行って、帰りにご飯を食べに行ったりしていましたね。
石丸:あくまでも、“みんなで集う”という時間を作られていた。
大久保:そうですね。そういう時には“幸せだな”って感じますね。
石丸:(お子さんが)みんなサッカーをやっているとおっしゃっていましたけど、全員プロになれそうですか。
大久保:なって欲しいですけどね。
石丸:お父さんを見てきたから、みんな(プロへ)行くというのが目標だと思うんですよね。
大久保:だから子供達は、僕がサッカー選手だったので、変に“(自分も)サッカー選手になれる”と思ってるんです。
石丸:そうか。まず“なれる”というところからスタートしているんですね。
大久保:そうなんですよ。だから「パパもこうやって(サッカー選手に)なったけど、小さい時には苦しいこともあったし、努力もしてきた。お前らもちゃんと努力しないと、そんなに簡単になれないから」という風に言ってますね。
石丸:みんなそれぞれ通っている学校が違うと思いますが、どんなトレーニングをしていると思いますか? ご自身が高校の時に狸山を目指して走ったようなトレーニングを、彼らはやっていますか?
大久保:いや、今はしてないですよ。“組織的に戦う”という戦術が昔と比べて非常に進歩しているので、今の子供たちはその戦術に基づいて練習していますね。
石丸:そっちの練習をしているんですね。
大久保:だから“自分たちで考えてサッカーをする”ということが、あまりないかもしれないです。今は組織的(なサッカーに)になっているかもしれないけれども、でもその中で考えてプレーしないと、サッカー選手になったとしても長くはやっていけないので、「考える力は今のうちからつけなさい」と言っています。サッカーには正解というのが無いので、組織の中で自分の得意なところを出して他の人との違いを作らないと注目されないですから、そうなるためには考えなさいと言ってますね。
石丸:そうなんですね。家にサッカーの帝王学を教えてくれる人がいるなんて、なかなか無いですからね(笑)。子供達は身近にコーチがいて幸せですね。ぜひ頑張って欲しいですね。
大久保:本当に頑張って欲しいです。(プロになった姿を)見てみたいです。
石丸:本当ですね。さて、僕の手元に講談社より発売中の「俺は主夫。 職業、現役Jリーガー」という本があります。こちらは大久保さんが出された本ということですが、とっても楽しかった。一気に読みました。
大久保:ありがとうございます。
石丸:これはセレッソ大阪に昨年の1月に移籍が決まって、本当は単身赴任だったはずのところに三男の橙利君が一緒に来て、2人暮らしが始まった時の体験記が中心になっていますよね。橙利君はその時は何歳だったんですか?
大久保:9歳ですね。
石丸:9歳! 彼はどうして「お父さんと行く」って言ったんですか?
大久保:後々聞いたら、「お父さんと離れたくなかった」って言ったんですよ。
石丸:パパ大好きっ子なんですね。
大久保:それもそうなんですが、僕の予想ですけど、「パパと行けばゲームも出来る。YouTubeも観れる」。
石丸:いわゆる「ママの監視下から離れられる」っていうことですね(笑)。
大久保:そういうことなんですよ(笑)。多分そうじゃないかなと思って。
石丸:「天国に行ける」というような感覚ですか。
大久保:だから“賢いなあ”と思いましたけどね。
石丸:そうですね。でも、このことで1番苦しんだのは家事を全てやらなくちゃいけなくなった大久保さん自身だと、私は見受けたんですが。
大久保:そうなんです。
石丸:今まで(家事を)やったことは?
大久保:一切やったことが無かったんですよ。ご飯を作ることも無かったですし、洗濯も掃除も無いですし。“本当に大丈夫かな”って心配しました。
石丸:(笑)。それでも「来いよ」って言ってあげたのは、親の愛ですか?
大久保:本当に意思が固かったんですよ。「絶対行く」って言ってたんで。それなら、自分も中学校から親元を離れましたし、今回(父親の)自分はいるんですけども、“こういう経験は出来ないな”ということで、「良いよ」と、来させました。
石丸:プロのサッカー選手として全力で試合や練習をしていたらご自分のことで精一杯だと思うんですが、家に帰ってきて主夫が出来たんですか?
大久保:練習の良し悪しとかで、その日によって気分が違うじゃないですか。悪い時ってあまり動きたくないですけど、やらざるを得ないから。1回座ってしまえばやりたくなくなるから、面倒でも帰ってすぐそのままずっと動いて、家事を全部終わらせてからゆっくりしてましたね。
石丸:やることは全部(先に)やってしまって、その後を自分の時間にする、と。
大久保:だけどナイターの試合は夜7時からなので、(家に)帰ってくるのが11時ぐらいになるんです。試合に負けた時でもすぐ帰って、次の日までに子供のサッカーの練習着を乾かさないといけないので、洗濯をしていましたね。
石丸:それは大変ですね。あの、ピカチュウのお弁当の写真を撮って載せてらっしゃるんですけど、これを普通のお父さんは作れないと思いますよ。どうしてこのお弁当を作ろうと思ったんですか。
大久保:これはまず「弁当が要る」となって、妻に「どんな弁当を作ったらいいの?」「どんな弁当箱を買えばいいの?」と、そこから聞いたんです。そしたら「こういうのが面白いんじゃない」って、このピカチュウの写真を送ってきてくれて。“完璧に出来たら面白いかもしれない”と思ってやったんですよ。
石丸:これは凝ってますよ。お弁当箱は黄色いのでピカチュウ色ですよね。ソーセージにも顔が書いてあって…これは、子供は(お弁当箱を)開けたら嬉しいだろうなあ。
大久保:本当にこれは完璧で、寝起きの20分ぐらいで作ったんですけど。
石丸:すごいですね!
大久保:バランスも良くて、“こんなのが良く出来たな”って思いましたね。
石丸:すごいものを作りましたね。このお弁当作りが毎日続いてたんですよね?
大久保:いや、(いつもは)給食があったので(弁当作りはなかった)。この時は遠足だったんですよ。遠足は2回か3回あったんですけど、(ピカチュウの)お弁当を作った時は橙利はまだ寝ていたので、見せてなかったんです。だからお弁当を包んで「(お弁当)作ったよ。行ってらっしゃい」って。(橙利君は)みんなに「パパが作ってくれた」って自慢しようと思っていたらしいんですけど、食べようと開けた瞬間にぐちゃぐちゃになってたんで「恥ずかしくてすぐ食べた」って言ってましたね(笑)。
石丸:この(出来上がった時の)写真を撮って貼っておいたら良かったですね。
大久保:本当ですね。
石丸:奥様は、大久保さんが単身赴任されるまでは、男の子4人とお父さんの家事を(1人で)されていた? ひょっとして、何もしなかったお父さんですか?
大久保:はい、そうですね。
石丸:改めて、奥様についてどう思いますか?
大久保:一緒に住んでいた時は全然思わなかったんですけど、大阪で主夫をしたことによって、“毎日のご飯や洗濯の他に子供の学校のことまで1人で全員分やるってすごいな”って、尊敬しかなかったですね。僕は三男の橙利だけだったんですけど、それでも頭がなかなか回らなくて忘れることもある。それが4人全員となると“すごいな、僕には出来ない”って思いましたね。
石丸:奥様は偉大ですね。
大久保:偉大ですね。どこの家庭も多分そうなんだろうなと思うと、“奥さんって、主婦って大変なんだな”と思いますね。
石丸:これからも協力しようという想いはありますか?
大久保:そうですね。全部じゃないんですけど 何か気付いたことがあればスッとやってあげたいなと思いますね。昔、バスタオルは1回使ったらそのままポイって洗濯機へ入れてたんですけど、バスタオルって大きいからかさばるし、乾きにくいから1番面倒くさいじゃないですか。
だからこっちに帰ってきて、1回使っても(洗濯機へ入れずに)ちょっと干してもう1回使うとか、次に一緒に(お風呂に)入った子供達に「これ使え」とか。
石丸:びしょびしょになってなければ、ちょっと干せば乾きますしね。
大久保:そうなんですよ。そういうことを自然とするようになってましたね。
石丸:洗う人の気持ちが分かってきたんですね。
大久保:そうなんですよ。だから(妻に)「そんなことを出来るようになったんだ」って言われましたね。
石丸:それも嬉しいですね。
大久保:嬉しいです。
石丸:奥さんを助けてあげなから素敵な毎日を送って下さい。ということで、大久保嘉人さん、1か月に渡りどうもありがとうございました。
大久保:ありがとうございました。