石丸:寺脇康文さん、今週もどうぞよろしくお願いいたします。このサロンでは人生で大切にしている“ひと”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
寺脇:今日は「岸谷五朗」についてです。
石丸:ジャーン! 先週もお話が出ましたよね。ひとつ先輩にあたる関係だったということですが。
寺脇:劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」ではひとつ先輩ですね。実際の年齢は(岸谷五朗さんが)3つ下です。絶対そう見えないですけどね。必ずあいつの方が上に見られますんで。
石丸:渋い感じでいらっしゃいますもんね。
寺脇:怖〜い感じで(笑)。
石丸:お2人が出会って、今で何年ぐらい経つんですか?
寺脇:俺は22歳で入団したんで、彼は20歳。そう考えると38年になりますか。
石丸:よく、コンビとかを組んでいる方達も、そのくらいになってくるとだんだん活動が別々になったりしますけど、お2人はずっとユニットという形で続けていらっしゃる。
寺脇:そうですね。劇団ではなく、演劇ユニット「地球ゴージャス」として活動しています。メンバーは俺と五朗、2人だけなので、芝居のたびに皆さんにお声掛けして、ゲストとして、客演という形で出ていただいています。
石丸:「地球ゴージャス」というのは、いつもこの2人で?
寺脇:そうです。2人ぼっち(笑)。
石丸:どうして名前を「地球ゴージャス」にされたんですか?
寺脇:阪神淡路大震災の年(1995)に立ち上げようとしてたんですね。まだ名前も決めてなくて、いざ「やろう」って時に地震が起きて。2人で“一番必要の無い仕事だな”って思って、打ちひしがれちゃったんですよ。人としては、ボランティアに行ったり手伝いはなんでも出来るけど、役者って考えた時に、今苦しんでらっしゃる方の前に行って「ちょっと芝居見てくださいよ」って、「それどころじゃねーよ」ってことじゃないですか。
石丸:そうでしたね。
寺脇:家を建てられる人は家を建てたり、料理が出来る人は料理を作ったりとか、仕事を人助けに使えるけど、「僕らって(必要)無いね。一番最後かな」みたいな話になってガッカリしたんですが、 「ちょっと待て」と。「衣食住が大体そろってきたその先には、絶対心の栄養が必要になってくる」って。戦場で瓦礫のビルの壁に映画が写されてて、それを、傷ついた兵士とかボロボロになった子供達が観て大喜びしてるっていう映像を見たことがあって、「あれだよ!」と。
だから僕らがやることは、日本と言わず、地球の人達の気持ちを豊かに、ゴージャスにするんだっていうことで「地球ゴージャス」というちょっとふざけた(名前に)。
石丸:でもおっしゃる通り、生き抜くために必要なものがそろったら、次に必要なのは…。
寺脇:人はやっぱり“心の豊かさ”というものが無いと。それが大事になる時期が来ると信じて、そういうネーミングにしました。
石丸:「地球」ってところが、すごくロマンがありますよね。
寺脇:「東京」でも良かったんですけど、“どうせなら大風呂敷広げようよ”ってことで。
石丸:カッコイイな。「地球ゴージャス」をお2人で始めた時には、関係性は、すでに先輩後輩ではなくなってたんですか?
寺脇:その関係は、SET(スーパー・エキセントリック・シアター)の時から、すぐになくなりました。俺は最初、先輩だから「岸谷さん」とか敬語を使ってたんですけど、「止めろよ、そういうの」ってなって。「俺らはそういうんじゃねえだろう」って。「分かった。じゃあ、五朗ちゃんで良い?」みたいな感じで、すぐにタメ口に。
石丸:そうなんですね。じゃあ、お互いにイーブンな感じの(関係)?
寺脇:本当にそうです。
石丸:お2人で「地球ゴージャス」を結成されて、2020年が結成25周年ということで。そこでいろんなことを企画されたりとか?
寺脇:そうですね。記念公演をやりました。
石丸:25(年)ってことは、結婚で言えば銀婚式にあたるような区切りですものね。改めて、その25年を振り返ってどう思われますか?
寺脇:月並みですけども、あっという間というか、言われて初めて気付く、みたいな感じです。とにかく僕らは芝居が好きで作ってるわけですけども、本当に1作1作、作っている感じなんですね。木に例えれば、「花が咲くところまでいきました。その木を伐採して土に戻そう」みたいな感じで。「さあ、次なる芝居はどんな花を咲かせてくれるのかな?」って、また木を育てる…っていうことを何回も繰り返しやってるだけなので、“年を重ねた”っていうイメージじゃないんですよね。だからいつも新鮮というか。0から100にして、また0にして。0から100にして、また0にして。でも、その0はどんどん良い土になっていってるっていうイメージですかね。
石丸:何か美味しいワインを作ってるみたいな感じですね。
寺脇:そうですね。
石丸:それで、気付けば25年。
寺脇:人から「何かやりますか?」って言われて、「だったらやろうか」みたいな感じでしたけどね。
石丸:素敵ですね。改めて岸谷五朗さんについてお伺いしたいと思います。
寺脇:何でも知ってますよ、私は。僕らに秘密はありませんから。
石丸:夫婦みたいじゃないですか(笑)。
寺脇:前世は夫婦ですから(笑)。
石丸:本当ですか! 彼の素顔はどういう感じですか?
寺脇:あのまま、というか、強いライオンのお父さんっていうかね。
石丸:じゃあ、役割的には岸谷さんがお父さん的で。
寺脇:そうですね。
石丸:寺脇さんはお母さんじゃなくて、(野球でいう)キャッチャーみたいな感じですか。
寺脇:そうですね。“女房役”っていう感じですね。例えば五朗ちゃんが、ブルドーザーに乗ってガーッと土を掘っていって「みんなこっちだ!」って、人を引っ張る力があるし、すごい人望もあるから人が付いていくんだけど、所々ブルドーザーで掘れていない所が残るから、そこを僕がスコップで「ここも掘れてないわ」ってやっていく、そんなイメージの2人ですね。
石丸:2人で1つみたいな形ですか。
寺脇:本当にそうです。
石丸:それはきっと、お互い気質が違うんでしょうけども。
寺脇:全然人間性が違いますからね。
石丸:それなのに、気が合う?
寺脇:好きなものとか良いと思うものの価値観が一緒なんです。なので性格も何もかも全然違うけど、そこが一緒だったらあとは何が違っていようが平気なんですよね。そんな奴と出会えたってのもすごく大きかったです。あいつが居なかったら舞台をずっとやってたかどうかも分からないですし。親友であり、家族であり、ライバルであり、夫であり(笑)。
石丸:金婚式まで添い遂げていただきたいと思いますけども(笑)。
寺脇:いつも2人で飲んで話すんです。僕らいまだに楽屋も一緒なんです。1人ずつにされると寂しくてしょうがなくて。
石丸:(1人ずつに)されちゃったら行き来しちゃうみたいな。
寺脇:行き来しますね。それで普段もよく飲むし。いつも一緒にいます。
石丸:仲良しですね!
寺脇:朝、LINEがポンッと入ってきて「寺ちゃん今日は?」ってビールの絵文字がついた(メッセージが)。
石丸:「飲みに行こうか?」と。
寺脇:で、「ああ、もちろんさ」っていって、昼飲みして。
石丸:良いですね。
寺脇:3軒ぐらい回って。もう歳ですから、早めに帰りますけど(笑)。
石丸:そこでは、どういう話題で喋るんですか。
寺脇:これが“よくぞそんなに話をしてるな”っていう位、いろんな話をするんです。前に大阪公演から東京に帰る新幹線で、グリーン車はすごいガラガラだったんですけど、俺と五朗ちゃんは隣同士で座ってて、後ろに風間俊介がいたんですよ。あいつは1人で座っていて、俺と五朗ちゃんはずっと喋っているわけですね。俊介は途中で1回寝たりして、パッと目を覚ますと、まだ喋ってるから“この人達はおかしい”と思ったらしいです(笑)。
石丸:話題に尽きないというか。
寺脇:なんでしょう…何か話題を探すことも必要ないっていうのかな。自然と次から次に。
石丸:面白いもんですね。
寺脇:だから、本当に何でしょう…“2人は一緒にいなきゃいけない”っていう感じです。
石丸:まさしくユニットですよね。
寺脇:そうですよね。
石丸:2人で、今後どういう活動をしていこうかという、プランとかビジョンとかはあるんですか?
寺脇:お互いの映像の仕事もやりながら、舞台というものを大事に、1作1作、作っていこうねっていう話はいつもしていて。
石丸:今はどのくらいのペースで舞台を?
寺脇:大体2〜3年に1回とかのペースですね。今年で27年目になるけど、作品としては16、7位しかやってないので。大掛かりなので、毎年は出来ないですね。なので、次はまた何年か空けてやるっていう。
石丸:コロナも収束したくらいでね。
寺脇:それは本当にお願いしたいです。何の不安もなく、マスクを外して。お客さんの顔も見たいし。
石丸:見たいですよね。
寺脇:ね。
石丸:カーテンコールの時に、みんながマスクしてるところを見ると“これ、早く取れないかな”って思いますよね。
寺脇:思いますよね。喜んでくれてる顔を見たいんですよ。
石丸:分かります。次はそうなった時に公演になれば。
寺脇:今は何の気兼ねもなく出来たら良いと思っています。
石丸:本当にそう思います。