石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”や“こと”についてお伺いしております。今日はどんなお話をお聞かせくださいますか。
松重:今日は「お金」についてでございます。
石丸:「お金」、ですか?
松重:お金、大事じゃないですか?
石丸:もちろん大事です…。
松重:ほら、大人がこう集まってね、最初っからお金の話をしようとすると、変な笑いが起きるんですよ。それが何でなのかよく分からないんだけど、多分、日本の社会とかが、そういうムードになっちゃってると思うんだけど…。お金、大事でしょ?
石丸:もちろん大事です。けど、先ず最初に「お金」と言う人は初めてです(笑)。
松重:僕ら一応、プロの俳優と呼ばれる立場に何年もいるわけじゃないですか。“お金を払ってでも観に行きたい”、“お金を払ってでも歌声を聴きたい”という人のために生きてるわけじゃないですか。その人たちからいただいたお金で、僕たちは美味しいものを食べたり洋服を買ったりする。それが1番最初のルールですよね。
だから、ギャラの話をしたいわけではなくて、“お金が大事で大切だ”ということは1番最初に言わなきゃいけないと思うんだけど。
石丸:人生で大切にしているもの、まさにその通りですね!
松重:こういう仕事をしていると生活が不安定じゃないですか。会社組織じゃないし、僕は大きい事務所に所属もしてないし、やっぱり人生…家族が増えたり、老後が気になったりという上で、お金を大事にしていないと立ち行かなくなるという不安と常に戦ってる。
石丸:確かにそうですね!
松重:あと、自分に何かがあった時に、何を残せるか? 生活費として、妻が1人になった時、子供が小さい時って考えますし…。あと、家の事情。例えば賃貸だったらずっと払い続けなければいけないけど、老後は貸してくれないこともありますもんね。
それに、収入がなくなった時のことも考えると「家」が欲しいなと思うけど、なかなか、こういう自由業をしていると(住宅ローンを)貸してくれるところがないんですよ。
石丸:私たちの仕事はね、そうですよね。
松重:こいう話はちゃんとした方がいいんですよ。ちょっと嫌な話かもしれませんけども…。
石丸:でも、現実を見るとそうですよね。
松重:銀行とか行かれたことあります?
石丸:銀行に行っても、そう簡単に貸してくれないんですよね。
松重:“そう簡単”どころじゃないですよ。今まで「お金を預けてください!」って言ってた人と別人じゃないかと思うくらい、能面みたいな顔になって。
石丸:審査があるんですもんね。その人がちゃんと返せるのかどうか。
松重:石丸さんみたいに芸大(東京藝大)を出て、歌もあるし、舞台もあるし、ファンもいっぱいいらっしゃいますし。
石丸:これらも元気だったらできますけど、体がちょっとでもダメになったらできなくなるので…。
松重:今、やっぱり普通のサラリーマンの方でも、会社が一生安泰だとも言えない時代になってるし、僕らの(若い)頃は「ここに就職すれば安心だ!」と言っていた企業も軒並みになくなっているし。
そういうことを考えていったら、自分のお金をシビアに守る。自分の財産を家という形に変えるとか保険だとか運用するだとかそういうのはちゃんとした方がいいと思って。
だから、40ぐらいの時にファイナンシャルプランナーの試験を受けて、俳優として売れなかったら、自由業専門のファイナンシャルプランナーとして日銭を稼ごうと考えていました。
石丸:そこまで考えてましたか!?
松重:はい。石丸さんは危機感はありますか?
石丸:いや〜、そこまでは…。
松重:この2年くらいで、舞台も危うくなったじゃないですか。
石丸:そうですね。そう考えますと、お金は我々について離れない、いつでも…死ぬまで、死んでも絡みついているんですね。
松重:はい。あえて言いたい「1番大切なもの」ですね。