石丸:芳雄くんとは、いつ以来かな?
井上:ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ) までとんだ』を石丸さんが観に来てくれたのは1月。あれ以来ですよね。
石丸:約半年前ですね。
井上:もうそんなに! 今年は時の流れがよく分からないですね。
石丸:本当に。さて、僕らには共通の人生があって…。
井上:僕が石丸さんの後を追いかけている、というのが正しいと思います。
石丸:東京藝大からミュージカルでデビューし、と、芳雄君も同じ道ですよね。
井上:僕も石丸さんがいらした劇団四季に行きたいと思っていましたから。“石丸さんのようになるにはどうしたら良いのか”をリサーチした結果、やっぱり東京藝大に行くのが良いのではないかと!
石丸:ルーツはそこに!
井上:(『オペラ座の怪人』の)ラウル役でデビュー出来るのではないかと。それを僕は狙っていたんですよ。ちょっと(ラウル役には)そこには辿りつかなかったけど(笑)。
石丸:待ってたんですよ(笑)。
井上:これはご縁なんですけど、石丸さんが師事されていた先生の門下に、僕も入れて貰って。
石丸:そんな共通点がありながら、実は“舞台作品での共演”がないんですよね。いつか舞台作品でもガッツリ共演したいですね。
井上:誰かの思惑で共演が妨げられているんでしょうか(笑)。
石丸:近い将来ね。ところで、芳雄くんは、本日(6月6日)が俳優デビュー20周年だとか!
井上:(20年前の)今日が、東宝版のミュージカル『エリザベート』の初演で初日だったんです。一路真輝さんが主演されていて、僕はルドルフ役で初舞台でした。それがデビューになりますね。
石丸:その時のことを覚えてる!?
井上:そうですね。10歳の頃からの夢でしたから。“10年かけてやっと叶った”という日だったので覚えているつもりでいますけど、緊張もしていたと思うので、記憶があやふやな部分はありましたね。
石丸:デビューのその日はね。
井上:ロングランだったので、そこから3ヶ月間毎日演じるという緊張もありましたね。「人生が変わった日」ではありました。
石丸:まさに「運命の日」だったわけですが、そこからスタートして、20年を振り返ってみてどうですか?
井上:20年前の今日と同じ事を、今も思っていますね。“自分の人生、どうなるか分からない”と思い続けて20年。それは“良い意味で”の事が殆どなんですけど。こんな風に20年過ごせるとは思わなかったので、感謝するばかりです。
石丸:20年前にデビューした時は、“先の事はよく分からない”。今は違う意味で“先の事が見えない”。
井上:先なんて“元々見えないもの”だった事を思い出しました。
石丸:そうですね。
井上:だから、初舞台の時と気持ちは何も変わっていないのかも知れませんね。
石丸:何時も新鮮な気持ちでいるというのは大事な事ですよね。しかも緊張感を持って!
井上:“生き抜いていかなきゃ”と今でも思いますね。
石丸:さて、この番組では人生で大切にしている“もの”、“こと”、“場所”についてお伺いしていますが、今日はどんなお話を聞かせていただけますか?
井上:今日は僕の大好きな場所「ニューヨーク」についてです。
石丸:初めてニューヨークへ行ったのは?
井上:僕は中学2年生の頃に家族でアメリカに住んでいた時期があって、その時に家族でニューヨークへ行ったのが初めてです。その頃、僕はもうミュージカルが好きだったので「ニューヨークへ連れて行って欲しい!」と頼んでいて、親がその約束を果たしてくれたんです。その時が初めてでしたね。
石丸:それは何年くらいの話ですか?
井上:いまから25、6年前だから、1993年辺りだと思います。その時は王道を観ましたね。いちばん最初に『ミス・サイゴン』を観て、『クレイジー・フォー・ユー』、『オペラ座の怪人』、『キャッツ』も観たし。
石丸:グランドミュージカルがまだまだやっていた時代ですもんね。
井上:ただ、楽しみにしすぎて全く記憶にないです(笑)。
石丸:その時に初めてプロの舞台を観たんですか?
井上:いえ、小学生の時に、劇団四季の作品を日本で観ていました。本場アメリカで観たのは、その時が初めてでした。『キャッツ』とかを観たんですが、劇団四季の物と全然違うんですよ。劇団四季版の『キャッツ』に慣れすぎていて、“ここが違う!”という事ばかり気になったり、“あの人、踊りの手を抜いているな”とか(笑)。国民性もあるのか、良くも悪くも大味なところがあるので。
だから、本場のミュージカルが“凄いな!”と思う気持ちと、“劇団四季の作品が凄いな!”と思う気持ち、どちらもありましたね。
石丸:僕が初めてニューヨークへミュージカルを観に行った時は、“客席と舞台の距離が近いな!”と思いました。
井上:劇場がギュッと小さいですよね。
石丸:日本の劇場って、大きい会場に大きなセットをボンっと入れて演るでしょう。そういう所に慣れていたら、(海外では)壁が直ぐそこにあるような所で『オペラ座の怪人』を演っていたりする。これは衝撃でしたけどね。
井上:確かに! 『レ・ミゼラブル』か何かを観た時に、一番前の席だったんですよ。“殴られるんじゃないか”ってくらい、出演者の人の迫力が凄くて!
石丸:そうやってブロードウェイの作品を観て刺激を受けた芳雄さんですが、ニューヨークで必ず行く場所は他にありますか?
井上:……ただニューヨークへ行って、舞台を観てご飯を食べるだけなんですよね。コーディネーターが付いていたりすると、初日は「移動で疲れているでしょうからゆっくりしてください」と言ってくれるんですけど、僕は直ぐに観たいので(笑)。
石丸:分かる、分かる(笑)。
井上:だからニューヨークへ着いて、空港から街中までの車の中で、その時間に観られる演目があるか探します。今だとネットとかでチケットが買えるので、その場で買って、ホテルに荷物だけ置いて、劇場に直行します。
石丸:凄いね!
井上:でも大概寝ちゃいます(笑)。でも観ずにはいられない。たまに楽屋口で待ってみたりして。
石丸:誰かに会えました?
井上:『ヘイディーズタウン』の主演女優エバ・ ノブルザダさんが、余りにも素敵で! 楽屋口でも会いましたし、その時だけコネを使って楽屋に会いに行きました(笑)。
石丸:僕ら、(ファンと)何ら変わらないね(笑)。
井上:ウキウキしてドキドキして(笑)。
石丸:僕も(素晴らしい演技や作品に出会うと)押し掛けたりするんだけど(笑)。
井上:日本で劇場に行くと同業者として周りに気を遣いますけど、ブロードウェイでは、ほぼほぼないので。
石丸:ないですね。向こうのスター達は気さくですしね。
井上:びっくりするくらい気さくですよね。開演ギリギリまで普通に喋ってたりしますよね。こちらが“舞台始まるのに大丈夫かな?”と思うくらい!
石丸:ホットな話が聞けて面白いな。そこで得られたものは何かありました?
井上:ニューヨークへ何回か行って思うのは、物凄くエネルギーがあって魅力溢れる場所だし、皆が夢を持って集まってくる場所だと思うんです。
そこで運転手をされていた日本人の方に聞いたら、皆んな夢を持ってニューヨークへ来て働いているけれど、ずっと住み続ける人って実は殆どいないんですって。
石丸:そうなんだ?
井上:もちろん、家族を持ってずっと住み続ける方もいらっしゃるんだけど、ある程度歳をとったら日本へ帰りたいと思っている方も多いし、夢を持って来たけれど叶わず帰る方とかも。
ニューヨークはもの凄いエネルギーがある分、何というか、“切ない場所”でもあると言いますか…。
石丸:“切ない場所”。
井上:ずっといられないからこそ輝いているんじゃないかなって、行く度に思うんです。
石丸:確かに、ニューヨークは回転のスピードが早い! 物事のスピードもそうだし、人の頭の中のスピードもそう。
井上:人が歩くスピードも早い。
石丸:そういう意味では、長く居続ける場所ではないのかも知れないですね。
井上:“ニューヨークの光と影”ではないけれど、だからこそ人を惹きつけるのかも知れないですよね。