石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしているのですが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
佐藤:今日は「変テコなコレクション」についてです。
石丸:「変テコなコレクション」ですか(笑)。例えば、どんな物ですか?
佐藤:いくつか写真を持ってきたんですけど。
石丸:ああ、可愛らしいものが……でも、ちょっと変ですね(笑)。
佐藤:アンティーク屋さんが好きなんです。仕事や遊びで海外へ行くと、色々な街外れや裏通りに変テコりんなアンティーク屋さんがあるんですよ。「こんな物、誰も買わないだろう!」という物がゴロゴロしていて、“アンティーク屋さん”と言うか“古道具屋”に近いですね。
石丸:持ってきて頂いたお写真の中でビックリするのが、この「歯の模型」。
佐藤:ああ(笑)。
石丸:これ、臼歯の模型ですよね。臼歯を半分にして中の髄の部分が見えるようになっている。
佐藤:これはパリのある通りに医学の為の模型を売っているお店があったんですね。この奥歯の断面が見えてる模型があって。これ、実際は60センチ位ある巨大な模型なんです。
石丸:実際の歯の大きさの模型ではなくて、そんなに大きいんですね! 不気味だなぁ(笑)。
佐藤:そのお店の不気味具合たるや、とんでもなくて! 店の前で全身凍ってしまったんです。でも、“これはなんだ!”と思ったら絶対に入りたくなる人間なので。店の中には、巨大な手の血管の模型とか目玉のデカい模型とかがあって、それがまた全部分解出来るんですよ。
石丸:そうなんですか!
佐藤:真っ二つにして断面がどうなっているか見られるんです。この子(歯の模型)もそうなんですが、部品をバラバラに取り出せるんですね。
石丸:面白い!
佐藤:結局これは“見せる為のアート”ではないんだけど、自分にとっては凄いオブジェだと思って。
石丸:飾ってみると、少しお洒落な感じに見えますよね。
佐藤:ですよね。で、面白い! 現在はコンピューターグラフィックスが進化したので(模型は)必要のない物になってしまって、もう売ってないんですよ。
石丸:ああ、そうか。時代がそうなってしまったんですね。
佐藤:このお店は、もう潰れてしまったんですけど、私はギリギリ(閉店前に)このお店に行って、両手に山ほど買って飛行機で持って帰ってきました。
石丸:何か言われませんでしたか?(笑)。
佐藤:なんかちょっと怪しい感じだったとは思いますけど(笑)。感動しちゃってね。この時に買っておいて良かったですよ。もうCGがあれば要らないですもん。これ、手作りなんですよ。
石丸:芸術作品じゃないですか。
佐藤:私にとっては芸術作品。でも普通の人にとっては要らない物ですよね(笑)。
石丸:そうかもしれない! 変テコな物ですよね(笑)。他の写真は、これは……瓶の蓋?
佐藤:これは「碍子(がいし)」という物で、電柱の上の方に付いていて電線を留めたり巻いたりするパーツですね。
石丸:ガラス製のネジのように見えますね。
佐藤:実は色んなデザインがあって、アンティーク屋で売ってたんですよ。
石丸:この先っぽだけを?
佐藤:先っぽだけを!
石丸:大きさはどのくらいなんですか?
佐藤:高さ10センチとか12センチ、そのくらいの大きさですね。でもガラスの塊なんで凄く重いですけどね。
石丸:やはりガラスなんですね。電気が通らないように。
佐藤:写真の物はアメリカ製なんですけど、碍子ってとてもユニークで色々な形があって凄く面白くて。私は瞬間的に“ペーパーウェイトに使おう!”と思いました。
石丸:凄い発想ですね。
佐藤:形の意味が分からないから変じゃないですか?
石丸:写真だけだと、これが何だか検討もつかないですよね。確かにペーパーウェイトに使えますね。
佐藤:書類の上にドンっと置いておいたら飛ばないだろうなって、買った時は思っちゃって。
石丸:次は台座にアロハって書いてある写真ですが、これは人形ですよね。
これは一体?(笑)
佐藤:「フラドール」と言われてますけど、100体以上持ってます。実は腰蓑の中にバネが付いてまして、体が揺れるようになっているんですね。これは昔の物なんですけど、当時は車のダッシュボードにこれをくっ付けて。
石丸:ああ! そうすると車が動いている間は人形も動いていますよね。
佐藤:ビヨヨヨーンって。そういうお土産(笑)。1940年代から50年代に作られた物なんですけど、Made in Japanなんですよ。
石丸:本当ですか?
佐藤:本当に! 裏に古い「Made in Japan」のシールが残っているやつがあるんです。アメリカが日本に作らせてたというかね。ハッキリしたことは分からないんですけど、徳島の方で作っている人達がいたらしいんです。顔が凄く面白くて!筆で描くじゃないですか? 目の表情って人形は大事ですよね。
石丸:目が命ですもんね。
佐藤:これは想像なんですけど、内職の人達が流れ作業で目だけ描いていたと思うんですよ。疲れてくると目の表情がもの凄く怖くなったりするんですよ(笑)。
佐藤・石丸:(笑)。
佐藤:“何でこんな可愛い人形の目が睨んでるんだ”みたいな(笑)。そこが面白くて。
石丸:手作業だからこそ表情に違いがあって、上目使いな人形もいますね(笑)。
佐藤:可愛くて可愛くて、ある時からハマっちゃって。アンティーク屋さんに置いてあると「これいくらですか?」って。
石丸:フラドールを(笑)。
佐藤:100体以上も(笑)。
石丸:佐藤さんの中で、“こういうこだわりがあるからこれを選ぶ”という基準があれば教えてください。
佐藤:そういう“基準”は全くなくて。アンティーク屋さんに行くと思いがけない物に出会うんですね。フラドールは何となく好きになってしまって次々と買っていったんですけど、それ以外にも電柱の碍子とか、色々な物に突然出会うわけですよ。
そうした見たことのない物が置いてあると、“何だこれ?” “変だな?”と思いながらも惹かれてしまう。「何が自分を惹きつけたのか」を知りたくて買ってくるわけ。最初は分からないんだけど、可愛いと思う。しばらく自分の近くに置いておいて、何となく時々目をやると、“あっなるほど! この下手さが良いんだ”とか、そういうのが見えてくるんですよ。
クオリティの高い物を提供するのがデザインの仕事なんだけども、自分が可愛いと思う物のクオリティが低かったりする矛盾。
石丸:確かに矛盾ですね。
佐藤:“この矛盾は何なんだ?” “それはどういうことなんだ?”という事を考えるのが好きなんですよ(笑)。
石丸:そういう物に影響を受けて、作品に投影していくことってあるんですか?
佐藤:あると思いますね。色とか質感とか、“これだと巧すぎるな”とか“ちょっとダサい方が良い”とか。そういう物ってあるじゃないですか。日常生活で洗練されていて非の打ち所がない、そんな物、疲れますよ。
石丸:確かにそうかも知れませんね。趣味の収集によって“色んな物を見る”ことが仕事に結びついているんですね。
佐藤:こういう色々な、“変テコな物だけど惹かれる物”を自分なりに分析したりしながら、実は“普通”という基準を常に確認しているんだと思いますね。一般の人にとって“普通”にあたる部分がどの辺なのか、いつも探っている。例えば、「牛乳」なんて特別な物であってほしくないじゃないですか。
石丸:そうですね。
佐藤:(特別ではなく)“普通”で良いわけです。牛乳に毎日「俺を見ろ!俺を見ろ!」と言われたらうるさくてしょうがないです。そういった普通の感覚を、こういった(変テコりんな)物から学んでいるんだと思いますね。
石丸:だからこそやめられない趣味だということですね。