石丸:3週にわたって、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしてきましたが、 最終週は “時を重ねながら、長く大切にしていきたいこと”についてお聞きします。それは、何でしょうか?
伊東:「対話しながら自分の思考を進化させていく」ということです。
石丸:これは、誰と誰の対話でしょうか?
伊東:いろんな対話がありますね。建築は1人では出来ませんから、スタッフ、クライアント、公共建築の場合は役所の方とも対話をします。最近は「住民参加」ということが盛んに言われていまして、住民の方達とも話し合いながらつくっています。我々も楽しいし、刺激を受けるケースはよくあります。
石丸:見る人、使う人達の意見はとても大事になってきますよね。
伊東:そうですね。そうやって、“自分達も参加して一緒につくったんだ”と思ってくださると、その後オープンしてからも、とても良い感じに使ってくださるんです。
石丸:「対話が実った」ということですね。
伊東:そうですね。
石丸:伊東さんの事務所には、色々な方達がスタッフとして所属していらっしゃいますよね。それぞれが 色々な意見をお持ちだと思いますが、そういう方達の意見に対して、伊東さんはどのような接し方をされていますか?
伊東:場合によっては、若い新人がとても面白いアイディアを出してくるケースがあります。そうしたら、「そのアイディア、良いな」と僕は平気で言えるんです。
石丸:それは素晴らしいですね。
伊東:もともと、僕1人の能力は大したことがないと思っています。よほどの天才でもない限り、1人の能力 は知れているんです。だから、若いスタッフでも、何かヒントになるようなものを貰うと、そこから僕が “それならこういうこともあるじゃないか”と思いつくわけですね。
石丸:刺激を受けますよね。
伊東:ですから、みんながそうやって繰り返していると、自分が思いもかけなかったものに変わっていくわけです。「クリエイティブ」というものはそういうことではないかと思うんです。
石丸:伊東さんの活動の中に「子ども建築塾」というものがあります。これはどういう活動なんですか?
伊東:小学校4年生から6年生ぐらいの子供を毎年20人募集して、1年を通して、前期は“家”について、後期 は“街”についてというテーマで、絵を描いてもらったり、模型を作ってもらいます。そして、前期と後期それぞれにプレゼンテーションをしてもらうんです。
石丸:小学生って、面白い発想をする子が多いのではないですか?
伊東:なかなか奔放ですね。この年代(小学校高学年)を選んだのは、ある程度、論理的にも考えられるし、かつ、まだ自分の奔放なイメージを描ける年頃なんです。それで、建築学科の学生さんにティーチングアシスタントになってもらって、ほとんどマンツーマンで1年間活動するわけです。そうすると、学生さんの方が教わることが多いぐらい(笑)、色も綺麗で素晴らしいスケッチを描く子がいますね。
石丸:そうなんですか。子供だからこそ出来ることですよね。
伊東:そうですね。(子ども建築塾を通して子供の)社会性も段々と成熟してくるし、僕にとっては非常に楽しい時間です。
石丸:この活動を始めて何年ぐらいになりますか?
伊東:震災の後からですので、7、8年になります。
石丸:そうすると、例えばこの子供達がそろそろ大学生になって…。
伊東:大学生になって、ティーチングアシスタントとして入ってくるような子がそろそろ出て来るかもしれ ません。
石丸:すごい! この子達は日本の宝になると思います。そういう意味で、今後の社会において“建築が担う役割”というのはどこにあると思われますか?
伊東:今の日本はなかなか将来に対する夢を持てない時代になってきていて、現実のことを考えるのに精一 杯という人達が多いですよね。そうではなくて、“こんな未来の都市があるんだよ、こんな建築があるんだよ”ということを考えて欲しいなと思うんです。
僕は、「人間は動物である」ことはすごく大事だと思っていて、そういう“本能”を持ち続けられるような建築をつくりたいと思っていますし、そういった建築が世の中にたくさんあって欲しいなと思っています。
東京などは高層のビルが増えてきていますが、そうすると自然から離れていってしまうんですよね。
石丸:地面から遠くなりますね。
伊東:そうなんです。地面から離れていってしまうと思うので、高層ビルとは違うような、地面にくっついた建築をつくりたいなと思っています。