石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
秦:今日はキャロル・キングのアルバム『タペストリー』についてです。
石丸:1971年にリリースされたヒットアルバムですが、なぜこのアルバムを大事にしているんですか?
秦:最初に聴いたのは中学生とか高校生ぐらいで、兄が聴いていて良いなと思って、それから繰り返し聴いていました。
ある日、いつも使ってる駅のホームで『タペストリー』を聴きながら電車を待っていたら、ちょうど夕暮れ時だったんですけど、そこから見える川面に夕日がキラキラと反射して、『タペストリー』を聴いていたことでより印象的だったし、すごく特別なものに見えたんです。
繰り返し聴いているアルバムだし、いつも見ていた景色なんですけど、それが合わさった時にすごく特別なものになるんだなと思った瞬間でした。
石丸:そういう出会いって、ふとしたタイミングでパッと訪れますよね。でも、普通は忘れてしまうじゃないですか。今でもしっかり覚えてるんですね。
秦:そうですね。その頃も音楽やっていたんですけど、“音楽ってこういう良さがあるんだ”と思えました。自分の知らなかった音楽の一面だったんですよね。
自分の日常を彩ってくれるものなんだというのを初めて感じた場面だったので、すごく印象的に残っています。
自分が作る音楽も誰かにとってそういう曲になるといいなという風に思ったきっかけでもあります。
石丸:そこから楽曲作りに対する変化でしょうか。
秦:急に変わったわけではないと思うんですけど、耳で聴く以外の、匂いだったり、視覚的な部分であったり、そこにないはずのものを、音楽を通して感じてもらえるような作品を作りたいなと思っています。
石丸:ご自身のアルバムを作られる中でも『タペストリー』を意識されたりしましたか?
秦:僕自身アコースティックなものや、それを主軸にしたバンドサウンドだったり、アレンジが好きなんですけど、それの原点にあるようなアルバムで。
ジェームス・テイラーもこのアルバムにアコギで参加していたりと、自分の好きなサウンド感の原点にあるようなアルバムです。
石丸:これはきっと揺らがないですね。
世界中のいろんな人の心にキャロル・キングは根付いていっていると思いますが、その魅力はどういうところにあると思いますか?
秦:ジェームス・テイラーとキャロル・キングが来日して、一緒に行ったライブを観に行ったことがあるんです。パシフィコ横浜でのライブでした。ジェームス・テイラーは、まるで自分の部屋のようにリラックスした中で歌を歌っていて。一方、キャロル・キングは小さい体なんですけど全身から歌声が出てるぐらいパワフルで、その人の生き様やスタイルが歌声にも出るんだなと思いましたね。
すごく対照的な二人だったので特にそう感じました。歌い続けて、その先にあるその人の歌声や表情みたいなものがすごく出ていて素敵だなと思いました。