石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
首藤:今日は「なるべくノーと言わない人生」についてです。
石丸:なるべくノーと言わない。ということは、ノーと言っていた人生があったということですか?
首藤:そうです。ノーだらけの人生です(笑)。
仕事でもそうですし、もともと人とコミュニケーションを取るのが得意なタイプではないので、お誘いを受けてもまず断っていました。
石丸:バレエ一筋でやっているからバレエ以外のことに対してノーと言っていたんですか?
首藤:そうですね。20代始めの頃にいろんな振付家の方と出会ってバレエ作品を作って。
それから色んなご縁があって新しいお芝居の仕事やテレビの仕事を20代始めの頃に頂いたんですけども、自分にはバレエしかないと思っていたし、他の表現をすることに自信もなかったですから、他の仕事に対してはノーと言っていました。
だけど、50歳も近くなってきて、最近はそういったものに自分からチャレンジするようになりました。
石丸さんとご一緒した「兵士の物語」もそうですね。
石丸: 松本市民芸術館の主催で2013年から3度ほどやってますが、最近は、去年でしたね。
首藤:20年前だったら断っていたと思います。セリフもあったりしたので。
石丸:セリフやパントマイムのようなものもありました。あの作品は面白い作り方でしたよね。
首藤:楽しかったです。なにより松本(長野県松本市)で稽古をして、本番をしてと。長期間松本にいれたことが楽しかったです。
石丸:さて、ノーと言わないようにしようと思ったきっかけは何だったんですか?
首藤:バレエカンパニーを辞めてフリーランスになったことも一つだと思うんですけど、他のジャンルの方と話をすることで違った人生を知れて、それが興味深かったんです。なので、やはり「人」なんだと思います。
出会った人によって自分の人生がまた再構築されていくような感じがしました。
バレエダンサーって本当にストイックな世界で。朝はレッスン、昼は稽古、夜は本番という感じでバタバタなんです。
社会を知らなくても生きていけるというか、疲れ切って外に出る時間もなかったので他の舞台や映画を観に行くこともできない生活なんです。
気がついたら人に興味がなくなっていて、色んな好奇心というものが失われているなと思ったので、子供のような好奇心を持っていなきゃいけないと思ったのが、カンパニーを離れたときでした。
石丸:扉がポンと開いた途端にいろんなものが見えてきますよね。そこからいろんな人たちと交流すること、ノーと言わない人生を始めたんですか?
首藤:そうですね。ノーと言っていた人生があったからこそ、今開いている扉が大きく横に広がっているのかなとも思います。