石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
松尾:今日は「喜劇」についてです。
石丸:喜劇は演劇のジャンルの一つですが、どういう風に大切になさってるんですか?
松尾:自分の居場所として大切にしています。
よく、「松尾さんは作家も演出家も俳優もコラムもやっていますけど、どれに一番主軸を置いてるんですか?」ということを聞かれるんです。
それで、いつも返答に困るんですよ。どれをやっていても楽しいし、どれが自分の主軸なのかなと考えたときに、喜劇を作ることだと思ったんです。
喜劇に関わっている人間という意味で、喜劇人ということにしようと。
石丸:最近は喜劇人と呼ばれる方が少なくなったような気がします。
松尾:そうなんですよね。今は誰を持ってして喜劇人と言うんだろうとか、ちょっと考えるんです。僕らの子供の頃は、森繁久彌さんを筆頭に、三木のり平さんとか有島一郎さんとか。渥美清さんもお亡くなりになりましたけれど……。
お好きな喜劇人はいらっしゃいました?
石丸:ハナ肇さんとかクレイジーキャッツの皆さんはよくテレビで観ていましたね。
今のお笑いはドロッとしたものもあるんですけど、あの当時はそんなのがなくて乾いている笑いが多かったですよね。
松尾:都会っぽい感じもしましたね。
石丸:そうですね。自分たちの肌身に近い。そんな喜劇がいっぱいあった気がします。
松尾さんの目指している喜劇というのは、そこに比べて少し違う気もしているんですが……。
松尾:確かにね(笑)。ちょっと違うんですけど、喜劇人というポジションに憧れるんですよね。
自分は喜劇人だと言い切ってしまえるポジションというか。僕は子供の頃、欽ちゃんが大好きだったんですよ。
石丸:萩本欽一さんですね。
松尾:コント55号時代なんですけど、コント55号時代は観たことありますか?
石丸:あります。坂上二郎さんと二人で舞台狭しと走り回っていましたね。
松尾:走り回ったり二郎さんを蹴っ飛ばしたり、ああいう動きとかテンションとかが大好物だったんです。
芸人さんがバラエティとかでやっている笑いじゃなくて、動きで魅せる喜劇とか、映画とか舞台で観れる喜劇みたいなのが大好きでした。
ただ、今はあまりないじゃないですか。森繁久弥さんの社長シリーズや、フランキー堺さんの駅前シリーズとか。
喜劇専門の俳優さんは、今はあまりいないですけれど、僕はその位置にいたいなと思っています。
石丸:今の私たちは、松尾さんが生み出される映画や舞台から、こんな笑いがあったんだ、こんなに毒があるのに笑えるんだ、と知らされている気がします。
そういった意味では松尾さんは、まさしく現代の欽ちゃんですし、渥美清さんですね。