石丸:今週も宜しくよろしくお願いします。
舞の海:宜しくお願いします。
石丸:このサロンではゲストの皆さんに人生で大切にしている“もの”や“こと”をお伺いしておりますが、今日はどんなお話を聞かせくださいますか?
舞の海:今日は「山本夏彦さんの本」についてです。
石丸:山本夏彦さんと言えば、随筆家。あと編集者でもいらっしゃると伺いましたけれども、「山本夏彦さんの本」との出会いはいつだったんですか?
舞の海:出会いは、私の知り合いの新聞社のコラムニストの方が、山本さんを常に師と仰いでらっしゃったんです。その方のコラムによく山本さんが登場していたので、“どういう方なのかな?”と思い、本を買って読んでみたんです。
石丸:読んでみたら?
舞の海:これがもう毒がてんこ盛りで(笑)。
石丸:どういう毒ですか?
舞の海:うーん…難しいですね。耳触りの良い言葉はないんですよ。常に言葉に毒が纏っていて、“それを言ったらお終いでしょう”というような…。真面目な方が聞いていたら腹が立ってくると思います。ユーモアがあって、ある程度世間を分かってきたような人はニヤけると思います。
石丸:読み手によって評価が全然異なるタイプのものを書かれるいうことですね。
舞の海:でも、山本夏彦さんが残した言葉というのは色褪せないんですよね。今の時代にもピッタリ当てはまるような言葉も残しています。
石丸:例えば、どんな言葉でしょう?
舞の海:例えば、「春秋に義戦なし」とかですね。太古の昔から、どちらかが正義でどちらかが悪の戦いはない、お互いに正義はある、と。(山本夏彦著『毒言独語』より引用)それぞれが守るものがあって戦うわけじゃないですか。ということは、“正義はない”ってことですよね。
石丸:そうですね。そういうことなんですよね。
舞の海:あと面白いのは、「ひとたび出来てしまったものは出来ない昔にかえれない」(山本夏彦著『私の岩波物語』より引用)これももっともですよね。
携帯電話を一度手にしてしまうと、電話ボックスとかテレフォンカード、電報の時代に戻れないですよね。
石丸:戻れないですねぇ。
舞の海:進化することは悪いことではなく、それを認めながら、でも昔の良かった人との触れ合いも懐かしみながらバランスをとって生きて行かないといけないのかな、と。
石丸:それを思い出すのは、ツールが何も使えなくなる、停電した時だけですよね。
舞の海:そうです、そうです!
石丸:やっぱり文明が発達していくと、人間はそれに慣れてしまい、そちらに流れていってしまうものですよね。
舞の海:それは仕方がないですよね。悪いことではないと思います。そのおかげでスピード感が出てきたりと、非常に便利になったじゃないですか?
石丸:自分のやりたい事に時間が割けるようになってきましたよね。
山本夏彦さんの本はよくご覧になったりしているんですか?
舞の海:そうですね。“最近正義感ぶってないかなぁ?”とか。
石丸:ご自分が?
舞の海:はい。“耳触りが良い言葉で他人をその気にさせていないかな?”とか(笑)。
石丸:お考えになっている(笑)。でも相手はそれを望んでいるかもしれませんしね。その時その時ですよね。
舞の海:ですから、この本を読んでいると勉強にもなります。ただ夏彦さんの言葉にまでは達していない未熟さを考えてみたりとか、色んな事を考えさせられますね。
石丸:今度は舞の海さんご自身のご本についてお話を伺っていきたいと思います。『土俵の矛盾―大相撲混沌(カオス)の中の真実』。こちらの本の中でも山本夏彦さんの言葉に触れながら、話を進めていらっしゃいますよね。
舞の海:はい。引用した山本夏彦さんの言葉は、「汚職は国を滅ぼさないが、正義は国を滅ぼす」。大相撲界も、7、8年前に色んな問題とか不祥事とかがあって、相当叩かれたんですよ。
石丸:そうでしたね。
舞の海:テレビをつけると1日中叩かれて具合が悪くなりました。”何故ここまで叩かれるのかな?”と、もう一度大相撲を考え直そうと思って、この本を出させて頂きました。
石丸:何ででしょうね?
舞の海:大相撲というのは、非常に曖昧なんです。
石丸:どういうところが?
舞の海:矛盾してるんです。最近はプロスポーツのジャンルに(大相撲を)入れて皆さん観ているので、“勝った、負けた、八百長した、八百長していない”で怒るわけですよ。
(大相撲を)スポーツとして捉えたら、スポーツは公正公平さを求めますから。例えばボクシング、レスリング、は体重別で同じ条件じゃないですか? でも、相撲は同じ条件じゃないんですよ。自分の2倍3倍と戦わなければならない。
石丸:仰る通り! 特に舞の海さんの現役時代は、巨漢の力士がいっぱいいた時代でしたからね。
舞の海:(しかも力士には)例えば丁髷(ちょんまげ)とか、無駄な物が沢山くっついているんですよ。勝負決めるのに、丁髷を結わなくてもいいじゃないですか。無駄に考える人にとっては無駄なわけですよ。
石丸:(笑)。
舞の海:行司もああやって激しく動き回るのに、あんな装束着なくても良いじゃないですか? ジャージで良いじゃないですか?
石丸:そうですね(笑)。では「大相撲」とは何なんでしょうか?
舞の海:これは私も分からないんですよ。大雑把に言えば“伝統文化”と言われているし、伝統芸能的要素もありますし、神事としてもやってきました。そんな曖昧な中でも秩序を保ってやろうということで、明治時代あたりから武士道精神みたいなものを取り入れて、色んなものが入り混じってる世界なんですよ。だから一つの角度から見て“こうだ!”って決めつけることは出来ないんですよね。でもそれって、世の中と同じじゃないですか? 世の中も複雑で、あちらを立てればこちらが立たない、だから“世の中そのもの”だと思ったわけですよ。
石丸:“大相撲は世の中そのもの”だと。確かにね。
舞の海:だから何かあっても、そんなに目くじらを立てて重箱の角を突いてやらなくて良いじゃないか、と思うんですよ。
石丸:言っている人はご自分の基準で、ものを言ってますからね。
舞の海:特にテレビの影響は大きいですから。相撲界の不祥事もコロナ報道も共通してますよね。
色んな意見を同じくらい時間割いてやってくれれば良いですけど、1つの意見を全部の時間で報道されると、“それが正しい”と洗脳されていきますよね。だから、気をつけて観ないといけないんですよね。
石丸:それを観ながら聴きながら、“私はどう思う?”というのを何時も問いかけないといけないですよね。判断は自分ですもんね。
舞の海:あとは、常に“怪しい!”と思う、疑いの心が大事ですよね。
石丸:それは山本さんの言葉にも繋がってくるんですかね。
舞の海:その影響はあると思いますね。