石丸:今週もよろしくお願いします。このサロンではゲストの皆さんに人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今日はどんなお話をお聞かせいただけますか?
Toshl(龍玄とし):今日は「羽生結弦さんとの出会い」についてです。
石丸:羽生結弦さんといえばフィギュアスケート、オリンピックの金メダリストですよね。出会いは何だったのでしょう?
Toshl(龍玄とし):出会いは、昨年の「ファンタジー・オン・アイス 2019」というアイスショーです。僕の作った楽曲で、羽生結弦さんがパファーマンスをしてくださり、僕が歌うというプログラムがありまして、全国を1ヶ月に渡ってツアーしました。
石丸:それまでは一度もお会いしたことはなかったのですか?
Toshl(龍玄とし):僕が出た紅白歌合戦の時に審査員でいらっしゃっていて、ご挨拶をさせて頂きました。それまでは接点は全くなかったんです。僕は今まで、色んな人に出会い、感動し、影響を受けてきました。羽生結弦さんからも大きな感動を頂くことができ、僕の人生にとって大切な出会いでした。
石丸:ふつうフィギュアスケートは、競技の時だと、録音された音源に合わせて演技をされますよね。でも今回のパフォーマンスは、生で歌ってるわけですから、選手の動きと音の関連が微妙に変わってきますよね?
Toshl(龍玄とし):そうですね。
石丸:僕はこの映像を拝見したんですけど、(動きと音の関連が)見事なんですよ。
Toshl(龍玄とし):ありがとうございます。それはもう羽生さんが凄いんです。
石丸:Toshl(龍玄とし)さんも凄いですよ!(映像を観て)“どうやったら(羽生さんのジャンプの)着地点と、(Toshlさんの)歌が爆発しているタイミングが合うんだろうか”と。僕は真っ先にそこに意識が向いてしまいました。
Toshl(龍玄とし):羽生さんのリハーサルの時に、初めて舞を拝見させて頂いたんですけども、“観たら感動してしまって歌えなくなるな”と思ったんです。だから、“観ているようで観ない”と、まず決めたんです。観たいけど(笑)。凄すぎるんです。
石丸:観ていないのに、クライマックスで盛り上がる感覚が、まるで一緒に滑っているかのようなんですよ! これって何なんでしょう?
Toshl(龍玄とし):羽生さんがコメントで「Toshl(龍玄とし)さんの中に入って自分は表現します」と仰ってくださったんですね。僕の人生観とか、経験してきた事とか、僕の著書とか、そういうものを深く感じ取ってくださって。“僕の曲も全部死ぬほど聴きまくった”と仰ってましたので、徹底的に聴いて完全に身体に入れて、その上で舞ってくださったんだと思います。
あるリハーサルの時に、一瞬、ギターのフレーズが遅れたんです。そしたら羽生さんが、「ちょっと今の遅いです」となるわけです。僕らミュージシャンは、“えっ、こんなことでも分かっちゃうの?”と。(羽生さんは)それぐらい繊細に音楽を追求されている。
僕は、パフォーマンスする時は、その時のライブ感、つまり、その時の気分とか雰囲気で歌っている事が多かったんですけど、“これは羽生さんに気持ち良く舞って頂けるように、寸分違わず、なるべく邪魔にならないように歌わないとダメなんじゃないかな”と思って、細心の注意を払って歌っていましたね。
石丸:そんな境地に至ったわけですね。Toshl(龍玄とし)さんも羽生さんの中に入って、一緒になった…みたいなことですか?
Toshl(龍玄とし):そこまでは中々出来ないと思いますけど、気持ち的には羽生さんと一体になって歌ったつもりでいました。
実は最初は、「CRYSTAL MEMORIES」も「マスカレイド」も、原曲よりキーを下げて臨もうと思っていたんです。長丁場だし、三日間連続だし、氷の上ということもあり、自分も安全に歌い易いように、また声が枯れないようにと思って、キーを下げていたんです。
でも、死ぬほど聴きまくってくれた羽生さんが、リハーサルで大汗をかいて真剣に取り組んでくださっている姿を見て、「なんでそんなに一生懸命やれるんですか?」って聞いたら、「自分は一生懸命やることしか能がないんで」と。
楽屋でも色々と2人で語りあったりしたものですから、自分も安全圏に入って身を守るようなことは失礼だなと思って、キーも元に戻させて貰って。羽生さんからも「ずっと聴いてきたので、元キーにしてくださって、本当にやり易いです」と言って頂いて。
石丸:そう仰ったんですか!
Toshl(龍玄とし):はい。人としての在り方とか生き様とか、そこへ向かうストイックな姿勢とか準備とか、アイススケート、フィギュアスケートの裏を初めて見ましたので。
アスリートの世界は“結果”なので、その為に、目に見えないところでどれだけの準備、努力をやってらっしゃるのかを、一部でしょうが少し拝見させて頂いて、自分の価値観がひっくり返るような衝撃を受けましたね。
石丸:Toshl(龍玄とし)さんはいつも本気だけれど、より本気にさせられてしまうという。ガチンコ勝負ですね。
Toshl(龍玄とし):とてもじゃないけど追いつかないので、自分もチャレンジをして挑んでいって、やっと一緒に作らせて頂く土俵に上がれるかなぁ、という感じでしたね。
石丸:実際に間近で飛んでいるところ、舞っているところをご覧になって、どんな音がするんですか?
Toshl(龍玄とし):“シュー、ピッ!”
石丸:それは、こちらに向かってきている時のエッジが氷に当たっている感じ?
Toshl(龍玄とし):そうです(笑)。凄い音がするんです。ジャンプが凄く高いので、その時に“フゥフゥーッ”みたいな、空気が振動する音がウワーッと来るんです。あんなに音がするって事を、テレビで観ていただけでは分からなかったです。
石丸:確かにね。競技とはいえ音楽がかかっていますから、そういう氷の音って(テレビを観ているだけでは)聞こえないですよね。
Toshl(龍玄とし):僕は、リンクとほぼ同じ場所にいましたので(音を感じることが出来た)。あとは、“スピード”ですよね。
石丸:どんな感じでした?
Toshl(龍玄とし):なんて言ったら良いのか……。本当の“ファンタジー”なんですよね。この世のものとは思えないようなスピード感と、美しさ。芸術的表現ですね。
石丸:凄い速度ですよね。
Toshl(龍玄とし):“身体、どうなってるの?”みたいな。それを間近で観たら、お互いアーティスト同士ではあるんですが、目が乙女になって(笑)。
石丸:惚れちゃいますか(笑)。
Toshl(龍玄とし):人としてもそうだし、アスリートとしても惚れちゃいます(笑)。本当にもう、凄かったです。
石丸:Toshl(龍玄とし)さんから見た羽生結弦さんって、どんな方ですか?
Toshl(龍玄とし):“圧倒的な人”です。色んな事を細やかに考えられていてこだわりがありますし、本当に人として尊敬出来る、深いお人柄を持っていらっしゃいますね。でも、お茶目なんですよ。
石丸:“お茶目”ですか?
Toshl(龍玄とし):お茶目なんです。そのギャップにやられちゃうんですよ。羽生さんは、“プーさん”がお好きじゃないですか。
石丸:そうですよね。よく“プーの嵐”って言いますよね(笑)。
Toshl(龍玄とし):“プーの嵐”(笑)。僕も喜んで頂けたら良いなと思って、内緒でプーさんのTシャツを着て、そこに夜な夜なクリスタルを貼ってプーさんを彩って、それをリハーサルの時にパーっと見せたんですよ。
石丸:どんな反応でしたか?(笑)
Toshl(龍玄とし):「えー、可愛い!」みたいな(笑)。羽生さんが「これどうなってるんですか?」って言って触ろうとしたら、ノリがちゃんとくっついてなくて、(貼ったクリスタルが)ポロポロと…。
石丸:散りましたか?(笑)
Toshl(龍玄とし):リンク上に(笑)。やばいじゃないですか! 2人して一生懸命拾ってました。
石丸:そうなんですか!
Toshl(龍玄とし):リハーサルの時も最後までリンクに残っていて、「何しているんだろうな?」って見ていたら、リンクのゴミを1人で拾っているんですよ。ゴミと言っても本当に小さいものなんですよ。ゴミを拾って1個1個片付けて、最後も深くお辞儀をして、リハーサルを終える。
石丸:道場と同じですよね。
Toshl(龍玄とし):本当に神聖な場所として、毎日欠かさずやってらっしゃったので、色々な素敵な場面を拝見させて頂きました。
石丸:僕らより半分くらいの年齢ですよね、でも、“人として完成している”というか、尊敬するところが沢山ありますね。
Toshl(龍玄とし):ツアーの最終日はお互い早く出なくてはいけなかったので、ご挨拶もきちんとは出来なかったのですけど、お手紙が置いてあって。中に書いてあることも、そういう(手紙を書いてくれるという)配慮も嬉しかったですね。“明日からまた頑張っていこう!”という思いや言葉を頂いて。
僕の方が全然、歳を取っているんですけど、(羽生さんは)凄かったですね。