石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
東儀:今日は型にはまらないことについてですね。
石丸:はい。
東儀:何かをやるについて“昔からこうでした”とか、決まり事があったり、予定通りの時間割を設けたりしないんです。講演会などでもある程度テーマがあったとしても、何を話すかっていうのを僕はあらかじめ台本とか作らないんですよ。
石丸:そうなんですか。
例えば、講演のステージに立ってパッと客席を見たときに、テーマによって年齢層とか男女比とか様々じゃないですか。そうすると台本を作ってきたのに、この年齢層じゃそぐわないと思うと、あたふたしますよね。
そういうことがあっても面白くないから、僕は台本を作らないでその場でパッとお客さんに合わせて、テーマとどう結びつけたらうまく話せるかなっていうのをその場で考えるんですよ。
石丸:それはとっさに思いつくんですね。
東儀:色々な経験をしているから、それらを思い起こすことで何かしらテーマにひっかかるものが出てくるんですよ。
雅楽をやっていることもすごくプラスになっていて、雅楽という音楽をやっていることで平安時代の貴族の美意識とか、あの時代の食べ物って何だろうとか、音楽の成り立ちっていうのは何だろうとか。どんどん自分の中で転がっていくんですよ。
そうやってるうちに、その日のテーマの何かと絶対に出会うものがあるんですね。その場で閃いたものは、聞いてる人にも一番リアルな僕の話として伝わりやすいんだと思います。
石丸:確かにそうですね! 聞いている側も非常に興味が湧いてきますよね。
東儀:コンサートにしても練習しないんですよ。リハーサルをとても嫌うんです。
石丸:並べる演目はなんとなく決まってるんですか?
東儀:決めなければいけないというんだったら、まあ仕方ないなって言って決めるんですけど、例えば一人のコンサートで、演奏家の相手がいない場合は自由度が効きますから、会場に行ってから「こういう会場だったら、あの曲をやろう」ってその場で決めることがほとんどですね。
石丸:よく、ジャズのミュージシャンたちが同じようなことをおっしゃっていますね。
自分をフリーにして、そのときにやりたいものを演奏すると。
東儀:そのときにやりたくもなるものが一番自然なんだと思うんですよ。
練習とかリハーサルをなるべくしないのは、本番にしか生まれない偶発性のようなものを期待しているからなんです。型にはまっていないからこそ自由にやろうとするから、一番いい物が出やすくなる。
どんな場所でもこれだけは絶対大丈夫っていう自信が闇雲にあるんですよ。僕の場合は闇雲とか保証のないっていう前置詞がついた上での自信があるんです。
でも、それが僕は一番大事だと思っていて。これだけ練習したからって思うと、人はそれをやろうとするんですよね。そうすると予定調和になってしまって、本番での新鮮さがまず自分から無くなっていく。それがもったいなくて。
おかしなことになりそうなときには、より良い方向に持っていく自信もあるっていう覚悟もあるんですよ。