石丸:このサロンでは、人生で大切にしている“もの”、“こと”についてお伺いしていますが、今週はどんなお話を聞かせていただけますか?
宮川:今日は「馬」についてです。
石丸:馬ですか?
宮川:20歳ぐらいの時、舞台に出ていて、昼の部と夜の部の間に休憩時間があるでしょう。16時前ぐらいかな、ちょうど競馬のメインレースの時刻で、楽屋がすごく盛り上がってたんです。
石丸:はい。
宮川:先輩俳優さんたちの楽屋から興奮した声が聞こえてきて。“なんだろう?”と思って、ふっと顔を出したのが、すべての始まりですね。先輩に、「宮川くんもやってみろよ」と言われて。先輩に言われたら断るわけにいかないでしょ?(笑)
石丸:そうだね(笑)。
宮川:その時、1000円だけ参加したんだけど当たらなくて、僕にはビギナーズラックというものがまったくなかった。
それが悔しくて悔しくて、「今週もお願いします」とやっていくうちに泥沼(笑)。それから30年くらいですね。
石丸:レースの勝ち負けから、馬という存在に興味が絞られていったのは、いつ頃?
宮川:すぐに来ましたね。競馬の予想って、数字だったり馬の血統だったりと、いろんな切り口があるんだけど、僕は、最初に血統に惹かれたの。それで、調べていったら、ものすごく奥が深くて。
石丸:どんなところが?
宮川:サラブレッドの歴史はもう100年以上あって、研究の繰り返しでまだまだ答えが出ていない試行錯誤の世界なんですね。強い馬たちがお父さんになっていって、同じお父さんを持つ馬を掛け合わせることで強くしていくと。
石丸:より速い、より強い、より美しい、と。
宮川:美しいのは、あまり関係ないけど(笑)。より強く速い馬を、と100年以上研究を続けている……、一気に馬という存在にハマりました。
石丸:では、実際に馬を見たとか、触ったというのは?
宮川:20代の初めに先輩に連れて行ってもらった。目の前で見るレースの迫力は感動的でもあって。ものすごくいいレースを見ると、当たった外れたっていうのは、とても小さい出来事に思えてしまうんですよ。
石丸:馬と馬が競い合ってる姿に感じるものがあるんですね。
宮川:僕はスポーツだと思ってるから。ある時……、恥ずかしながら長く仕事をやってると山あり谷ありで。
石丸:それはみんなそうですよね。
宮川:本当にどん底の時。離婚して子供を僕が育てることになって、それなのに仕事が全然ないっていう時期があったの。人生に絶望するって感じだったんです。その時にふっと馬のことを思ったの。馬って、最初から最後まで速い馬が勝つって思われがちだけど、実は、どんな馬も最初から最後まで全力では走れない。
石丸:え、そうなんですか?
宮川:馬が全力で走れる距離は800メートルくらいと言われていて、じゃあ、全力の脚をどこで使うかというのはジョッキーの腕にもよるんだけど、だいたい最後に使うでしょう?
石丸:トラック競技だと第1から第4コーナーまであって、第4コーナーに入って、観客が“うわー!”となるじゃないですか? 馬もそういう感じなの?
宮川:馬も一緒。4コーナーを回ってからが勝負! だから、ラストスパートの前に、一呼吸入れるんですよ。ここで脚をいかに溜めるかっていう勝負になるの。
石丸:そのことと一朗太くんのさっきの人生と、どうリンクしてるのかな(笑)。
宮川:人生のどん底だった時に、“ちょっと待てよ。俺は今、人生の第3コーナーなんだ。勝負はこれからだ!”って思って。
“直線になったら必ず勝負の時が来る。だから、今は脚を溜めてるんだよ”って。ま、何の根拠もないんだけど(笑)
石丸:でもそれは、非常に前向きに自分の人生と向き合おうとしてるってことだよね。
宮川:そう考えると、ちょっと気持ちが楽になったの。今焦ることはない、脚を溜めようじゃないかって。
石丸:そして、第4コーナーを回ってるんだよね?(笑)
宮川:第4コーナーに差し掛かったあたりかな(笑)。
石丸:いやいや、何をおっしゃる(笑)。