⚫心躍る瞬間「ショパン国際ピアノコンクールのファイナルでコンチェルトを弾いた時」
松下:今月お迎えするゲストは、ピアニストの反田恭平さんです。よろしくお願いいたします。
反田:お願いします。
松下:反田さんと言いますと、2021年のショパン国際ピアノコンクールで日本人最高位の第2位に入賞されています。第1週目の今日、お話いただくのはどんな瞬間でしょうか?
反田:私が“心躍る瞬間”は「ショパン国際ピアノコンクールのファイナルでコンチェルトを弾いた時」です。
松下:それでは時計の針をその瞬間に戻していきましょう。
私も、2021年のショパン国際ピアノコンクールのお話をすごく聞きたいです。
反田:本当ですか。
松下:コンクールには、どのようなお気持ちで出場を決められたんでしょうか?
反田:そうですね。相当悩みました。今だから言える話ですけれども、(ショパン国際ピアノコンクールは)元々2020年に開催される予定でしたが、(コロナ下でで)延期ということになって、(2021年の開催は)6年振りだったんです。元々開催される予定だった時期に海外オーケストラからのオファーをいただいて、“このオーケストラと(一緒に)弾いてみたいな”という気持ちがあったので、まず第一に、コンクールに出るか、そのオーケストラと共演するか…というところだったんです。
松下:そうだったんですね。
反田:長考させていただいて、“もしかすると、コンクールでうまくいけば、そのオーケストラとの共演が時期を変えてオファーがあるかもしれない”というところまで賭けて…と思ったら、ちょうど延期になってしまったんです。
それに2016年にデビューして、コンサートもある程度まわってきて、ファンの方々からも一定数応援いただくようになってきて、“もし仮に自分の100%の力を出せずに敗退してしまったら(ファンを)裏切ってしまうんじゃないか”という葛藤が一番大きかったですね。
松下:なるほど。
反田:本当に5年位悩んで、気付いたらビデオ審査を撮っていて、最後のクリックボタンを押すのに5分位悩んだんですが、押して、“ああ、出しちゃった”みたいな感じでした。
松下:そうだったんですね。
反田:僕のひとつの見方ですけれど、言ってしまえば、大きなコンクールというのは、学生だったりこれからデビューするという子が受けた方が、ある意味、プロとは違う精神面のラクさがあるかもしれない。
一方で、プロとして、それを生業として生きている身でわざわざコンクールに出る、という人も僕だけではなかったので、周りの(プロの)ピアニストが出場しているのを見て、“間違った選択ではなかったな”と。
松下:結果、出場されたわけですが、何が一番“出場して良かったな”という実感がありましたか?
反田:ひとつは、ファイナル(進出)を目指していたんですね。結果がついてくればもちろん嬉しいんですが、願って叶うものでもないですし、運の要素もあることなので、ファイナルに行ければ、自分的には合格ラインかなと。
やっぱり、オファーされて演奏するのではなく、自らエントリーして切り拓いて、あのコンクールという場所で弾きたかった。
小さい頃にビデオでドキュメンタリーを観て、僕が人生で初めて知ったコンクールがショパン国際ピアノコンクールだったんです。サッカーのワールドカップやオリンピックじゃないですけれど、(自分の中では)そういった“セレモニー”のような感じだったので、弾いている瞬間はあっという間でした。
松下:ショパン国際ピアノコンクールは、すごく期間が長いじゃないですか。ソロがあったり、最終的にはオーケストラと一緒に演奏したり。そこで反田さんらしさを出すためにいろんな工夫をされたと伺ったんですけれども。
反田:エントリーで弾くプログラムは念入りに考えましたね。僕がしたのは、直近3回でどんなアーティストがどの曲を弾いたのかということを徹底的に調べて、“1次予選でこの作品を弾くと合格率が高いのかな”と勝手に(考えて)そこから選んだりしました。
あと、ポイントだったのは、ショパン国際ピアノコンクールでは、課題曲と自由曲があるんです。ちょっとマイナーな作品を探して、僕は「ラルゴ」という作品を組み入れて。
松下:え? 知らない曲です。
反田:審査員も知らなかったですし、結局コンクールの委員会からメールが来て、「この作品ってこれですか?」みたいな(笑)。
松下:逆に聞かれたんですね。
反田:そうです。その曲を知ったきっかけは、僕がポーランドに留学した時に、ショパンの心臓が埋められている教会があるんですが、そこの近くに大理石で出来たベンチがあるんです。そのベンチには電源が繋がっていて、ボタンを押すと曲が流れてくるんですよ。曲はその地域にゆかりがあるショパンの作品なんですけれども、「ラルゴ」が流れてきたんですよね。
松下:そうなんですね。
反田:“なんだ、この素敵な曲は!?”と思ったんですが、聴いたことがないから、“本当にショパンの曲なのかな”と思って調べたら、楽譜があって。プログラムを決める時にも、1次・2次・3次とストーリー性を大事にしていて、3次予選では、コロナ禍ということもあったので、「生と死」というテーマを考えて、「葬送のソナタ」だったり、そこから「ラルゴ」を挟んで「英雄ポロネーズ」で復活とか、そういうストーリーを作ってドラマにしたことが審査員にすごく評価されて、それが嬉しかったですね。
松下:技術的なことはパーフェクトに近いレベルで競い合うわけじゃないですか。その中で、何か光るものを…。
反田:みんな(ずっと)ショパンを聴いているので、その中でハッとさせられる瞬間があればお客さんを味方につけられるので、そういったことがとても大事かなと。
⚫クロニクル・プレイリスト「ショパン作曲『ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11から第3楽章』 / ピアノ:反田恭平、指揮:アンドレイ・ボレイコ 管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団」
松下:この番組では、今日お話しした“心躍る瞬間”にまつわる思い出深い曲やその時代の印象深い1曲を“音楽の年代記”=「クロニクル・プレイリスト」としてお届けしています。今日はどんな曲でしょうか?
反田:せっかくお話させていただいたので、ショパン国際ピアノコンクールの当時のライブを。ファイナルで演奏した作品をお届けしたいなと思います。
ショパン作曲、ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11から第3楽章、私、反田恭平のピアノで、アンドレイ・ボレイコ指揮、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
ショパンのコンクールのファイナルでは、(ゲネプロが)当日の朝一だったんですよね。僕は2番目だったから、10時くらい。それで本番は夜の8時か9時くらいだったんです。(ゲネプロから)10時間くらい時間が開くんです。
松下:その間はどういう心境なんですか?
反田:僕は“ファイナルで弾きたい”という夢があったので、“楽しむしかない”。それだけだったので、ワクワクしていました。
あと、嬉しかったのは、1次・2次・3次までの演奏を踏まえて、クリスチャン・ツィメルマンや(ラファウ・)ブレハッチのような歴代優勝者をはじめ、いろんなピアニストから「このままいけば、(上位に)いけるよ」みたいなコメントをいただいて、背中を押してくれました。
松下:わぁ!
反田:友達もたくさん聴きに来てくれましたし、家族も。母親は(コンクールを)観るのが夢だったみたいなので。
みんなの顔を見ながら演奏をするというのは、すごく勇気づけられた瞬間でもありましたね。
松下:では、ファイナルの演奏というのは、ご自身もいろんな意味で納得がいくものでしたか?
反田:そうですね。あの時点では一番(納得)出来る演奏だったんじゃないかなと。
<反田さん衣装>
ジャケット、パンツ:UNFILO / アンフィーロ(オンワード樫山)03-5476-5811
ニット:HEUGN / ユーゲン(イデアス)03-6869-4279
<松下さん衣装>
ブラウス、スカート:L'EQUIPE / レキップ 03-6861-7698
イヤリング:ete / エテ 0120-10-6616
スタイリスト:大沼こずえ
ヘアメイク:山科美佳
ゲストが語る“心躍る瞬間”や“エピソード” その時に刻まれた思い出の1曲。 または、その時代の印象的な楽曲。
『ショパン作曲『ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11から第3楽章』』 ピアノ:反田恭平、指揮:アンドレイ・ボレイコ 管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団