2023年1月29日 | |||
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日常の会話からも伝わってくる悠子と夫の心のすれ違い。そのためなのか夫と離れて悠子がひとり房総半島で療養をはじめると、心にも躰にも変化が出てきます。1日毎に体力も充ち、生きている実感も持てるようになってくる悠子。そこへ弟夫婦と甥の武が訪ねてきます。明後日にはやってくるという夫の梶井にひとりで会いたくない悠子は、幼い武にこう言います。「お泊りしてゆかない?蟹、捕ってあげるわ」その言葉の奥にある複雑な感情がリアルに伝わってきます。この小説で、1963年(昭和38年)に芥川賞を受賞した河野多恵子さん。当時、選考委員だった井上靖氏は「心理の陰影をよく描いている」と高く評価しました。 |