2022年12月11日

小砂川チト
『家庭用安心坑夫』
(講談社)

物語のはじまりは日本橋三越。主人公の小波は、幼い頃実家に貼ったはずの「けろけろけろっぴ」のシールがデパートの柱に貼られているのを見つけます。それをきっかけに小波の前に現れはじめる「ツトム」。時にはテレビの中に映し出された「渋谷のスクランブル交差点」に。時には「ワクチンの大規模接種センター」に。その「ツトム」というのは、子供の頃、小波が母親から「あれがあなたのお父さんよ」と言い聞かされてきた存在。廃坑をテーマパークにした「マインランド尾去沢」に置かれたマネキン人形のことでした。滑稽なほど必死に何かを追い求める小波。心ではなく行為を書くことで、彼女が抱える愛情の欠落が伝わってきます。

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