2021年8月29日

三浦哲郎
『盆土産』
(中公文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

短編の名手と呼ばれる三浦哲郎さん。短編小説について、ご自身でも綴られています。「私は、気に入った書き出しさえ得られれば、あとの苦労はむしろ楽しみのうちだと思っている」。確かに「盆土産」の書き出しは印象的。このあとにどんなことが起こるのか。書き出しを読んで読者も自然と物語の世界に入っていくことができます。また「できれば鮎のような姿の作品が書きたい。無駄な装飾のない、簡潔で、すっきりとした作品」と三浦さんが書かれているように、まさに「盆土産」は一尾の鮎のような短編小説。15ページという短い作品ですが、ひとつひとつの言葉が深く、文字数を遥かに超えた物語を感じることができます。小説の奥深さを教えてくれる三浦文学。これからも名作を選んでご紹介していきたいと思います。

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