2021年4月11日

石井遊佳
『百年泥』
(新潮文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

2017年に「新潮新人賞」、その翌年に第158回「芥川賞」を受賞した小説「百年泥」。著者の石井遊佳さんは、東京大学大学院で「インド哲学仏教学」を専攻。ネパールやインドで日本語教師もされています。その時の経験がもとになった作品ですが、発想の飛躍が、読者を想像できない場所へ連れて行ってくれるのです。物語の舞台は、南インドの都市チェンナイ。ここは百年に一度の大洪水に見舞われ、水が引いた泥の中から、まるで百年という時間が攪拌されたように様々なものが姿を現します。ウイスキーのボトル、人魚のミイラ、大阪万博の記念コイン。そのひとつひとつが過去の記憶とつながっていきます。

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