心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。
春の昼と書いて「春昼」。俳句にも「春昼」という季語があって「明るく暖かい春の昼間」のイメージです。しかし今回取り上げた「春昼」は、泉鏡花らしい不思議であやしい小説。物語のはじまりは、まさに春ののどかな風景が描かれていますが、次第に得体の知れない物に連れていかれる感覚です。舞台は海辺の町「逗子」。主人公は、春の日差しの中、散策を楽しんでいます。そしてあることを伝えるため、畑仕事をしている老人に声をかけます。「溝の石垣の処を、ずるずるっと這ってね、一匹いたのさ ー 長いのが。」と話をする主人公。彼が見たのは蛇だったのです。
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