2020年06月21日

川口松太郎『紅梅振袖』
(ちくま文庫『名短篇、さらにあり』)

今回取り上げた「紅梅振袖」は、昭和29年に1年間、「小説新潮」で連載された「人情馬鹿物語」という作品の第一話。江戸っ子気質がまだ生きていた大正時代の東京下町を舞台に、私利や損得を顧みず人間の情に生きた様々な「人情馬鹿」たちが描かれた短編集の中のひとつです。語り手の私は、川口松太郎本人と思われる人物。自分の師匠である講談師・悟道軒円玉の家では夜毎さまざまな人が集まり「与太倶楽部」と称して愚にもつかない雑談に夜を更かしていました。そこに訪れる友次郎。彼は振袖衣裳などに刺繍をほどこす職人。その友さんが想いを寄せる女性に、その想いが叶わないとわかっていても、一世一代の仕事に精魂傾けるというお話。昭和に生まれた名短編のひとつです。

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