2020年06月07日

ディケンズ『信号手』
(河出文庫『憑かれた鏡〜エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談〜』)

視点が揺らいでいて焦点が定まらない書き出し。読み進めていっても、2人の登場人物のどちらに疑いを持ったらいいのかわかりません。そんな不思議な小説ですが、実はディケンズ自身にも奇妙な出来事が起きていました。「信号手」を発表する1年前の1865年6月9日、彼が愛人と乗っていた列車が脱線し鉄橋から転落。10人が亡くなり40人が負傷しました。これはステープルハースト鉄道事故として知られていますが、運良くディケンズたちが乗った車両は助かったため、怪我を負わずに済みました。ところが不思議なことはこのあとに起こります。この事故から5年がたった1870年のちょうど同じ6月9日、彼は脳卒中のため亡くなっているのです。

...前に戻る