2018年12月2日

久生十蘭
『雲の小径』
(ちくま文庫「名短篇、さらにあり」)

戦前、フランスで演劇を学び。帰国後、舞台の演出を手掛け、さらに推理小説、ユーモア小説、時代小説など様々な作品を発表した久生十蘭。今回、取り上げた「雲の小径」は昭和31年、彼が54歳の時の小説です。この作品を名短篇に選んだ北村薫さんと宮部みゆきさんは、「この頃は、飛行機に乗ることに、あの世に通じる感覚があったんじゃないか」と語っています。発表から62年たって、飛行機に乗ることが当たり前になった今読んでも、現実と非現実の間に連れて行ってくれるような作品。さらに小川洋子さんは「女性の情熱だけが濃密に立ち上がってくる一種の恋愛小説」と感じたそうです。とらえどころのない魅力を持つ久生十蘭。彼そのものが雲の中のような存在にも感じます。

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