2017年9月3日

永井龍男
『胡桃割りーある少年に』
 (中公文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

永井龍男の「胡桃割りーある少年に」は、昭和23年に発表された短篇小説。その4年後、はじめて中学2年の国語の教科書に掲載され、その後もよく登場するということで、新学期スタートに合わせて選んでみました。物語の語り手である「私」が友人と六大学野球を観戦している場面から始まる作品。戦争はすでに始まっていましたが、まだ六大学野球を楽しむことはできた時代。このあと「私」と友人は、球場の近くに住んでいる「絵かき」の友達の家に行き、奥さんの手料理と、食後に紅茶とくるみとブランデーを出してもらいます。実は「くるみ」は、「絵かき」にとって大切な思い出。心の中のページを開くように「絵かき」は静かに語り始めます。

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