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考えよう、原子力発電によるゴミの最終処分

考えよう、原子力発電によるゴミの最終処分

原子力発電を行っている全ての国が直面しているゴミ「高レベル放射性廃棄物の最終処分」問題は、最も長期的で困難な社会課題の一つです。
この課題を未来の子ども達の負担として先送りしないように、今を生きる世代の責任として、解決に向けた具体的なアクションを起こさないといけません。
今回は、「考えよう、原子力発電によるゴミの最終処分」というテーマで学びました。
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(杉浦)
原子力発電のゴミって聞くと、「福島の?」とか思われるかたもいると思うんですが、今日、学んでいくのは、原発事故で発生した廃棄物や燃料デブリのことではありません。原子力発電を行っているすべての国が直面している、ゴミの問題です。

(村上)
「原子力発電のゴミ」って、具体的にはどういうものですか?

(杉浦)
僕も今日は佳菜子ちゃんと一緒に学んでいきたいと思ってますので、早速、講師のかたをお招きしましょう。経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 放射性廃棄物対策課長の、横手 広樹さんです。

(村上)
横手さん、「原子力発電のゴミ」って、よく聞くんですけど、具体的にはどういうものか教えてください。

(横手)
はい。正式には「高レベル放射性廃棄物」と言います。

(村上)
「高レベル 放射性 廃棄物」。

(横手)
はい。日本では、原子力発電で使い終えた燃料のうち95パーセント、これをリサイクルする方針ですが、残りの5パーセントは再利用できずに残ってしまいます。この再利用できずに残ってしまう液体をガラスに溶かし込んでできたガラス固化体、これを「高レベル放射性廃棄物」と言います。

(杉浦)
ガラス固化体になった「高レベル放射性廃棄物」ってすでにあるんですか?

(横手)
はい。形は直径約40センチ、高さ約1メートル30センチの円柱で、重さは約500キロになります。すでに国内に存在するガラス固化体は約2,500本ありまして、ただ、日本では過去50年以上にわたり原子力発電を利用していますので、各発電所などに貯蔵してある使用済燃料を全てリサイクル処理すると、合計約2万7,000本相当のガラス固化体がすでに日本にあるということになります。

(杉浦)
保管している間にも、ゴミは増え続けますしね。そうか。だから、今、最終処分の話が進んでいるんですね。

(横手)
はい。「高レベル放射性廃棄物」の処分方法は、原子力発電を始める前から、国際機関や世界各国で様々な方法が検討されてきました。例えば、「ロケットで宇宙に飛ばす」、「海の深いところに捨てる」、「南極の氷の下に埋める」などです。

(村上)
えっ! 海も南極も絶対にダメですよね。生き物たちに影響が出そうじゃないですか!

(横手)
もちろん、今は国際条約で、海洋投棄や南極での処分、これは禁止されていますが、50年以上前は、環境保全に対する考え方も今ほど進んでいなかったので、そのような検討が真面目になされたんです。また、宇宙での処分については、未だ技術的に課題があるので難しいという状況です。

(村上)
なるほど。結局、「高レベル放射性廃棄物」を処分することができないっていうことなんですか?

(横手)
いえ。実は、現時点で最も安全で実現可能な方法として国際社会から認められている処分方法があります。それが「地層処分」なんです。先ほどのガラス固化体を更に分厚い金属製容器や緩衝材で何重にも覆った上で、地表から300メートル以上深い安定した岩盤に埋める方法です。

(杉浦)
「地層処分」って、それ、安全なんですか?

(横手)
はい。地上で保管するより、人間の生活環境から隔離できますし、何より、地震、火山噴火、台風、津波、テロ、こういった影響を受けづらいと考えています。また、地下深い所は「酸素が少ないため、物が錆びにくくて変化しにくい」それから「地下水の流れが非常に遅い」という特徴がありまして、しっかり閉じ込めることができます。古代の遺跡から色付きのガラスの工芸品や鉄製の剣などが出土していますが、ガラスや地層が持つ、物を長期間安定的に閉じ込める機能、これを活用するのが地層処分です。地層処分は国際社会の共通認識となっていて、現在、原子力発電を利用している国々は「地層処分」、これを実現するために動いています。

(村上)
横手さん、日本も「地層処分」するんですか?

(横手)
はい、その予定で動き出しています。まず2000年に「最終処分法」という法律が成立しまして、処分地を選定する方法が決められました。選定プロセスは3段階でして、第一段階は「文献調査」、第二段階は「概要調査」、第三段階は「精密調査」です。このプロセスには20年程度かかると想定しておりまして、調査期間中、放射性廃棄物は一切持ち込まないこと、それぞれの調査の後には、必ず地域の意見を聴き、意見に反して先には進まないことなどが決められています。

(杉浦)
第一段階の文献調査というのは、すでにある論文やデータなどを集めて、地域の地層などを把握することだと思うんですけど、第二段階の概要調査ではどういったことが行われるんですか?

(横手)
概要調査は実際に現地に行って、地形を目視で確認したり、ボーリングといって直接、地面に穴を掘って地質がどうなっているのか調べたり、地上と空中から電波を飛ばして、その跳ね返りを受けて地形や地質を調査するなど最新の技術を駆使した調査を行う予定です。

(杉浦)
なるほど。では、第三段階の精密検査では、どのような調査が行われるんですか?

(横手)
精密検査は、実際に地下に坑道を掘って、そこに、調査施設を作り、地下水の湧き具合や、岩盤、地質が実際はどうなのかなどを確認します。

(杉浦)
そうした調査だけでも20年はかかると想定されているんですね。では、その調査をする地域はどのようにして決めていくんですか?

(横手)
市町村自ら応募していただくか、または、国から市町村へ申入れをして受諾していただくことで進めていきます。実は、すでに三つの村と町で文献調査が実施されています。応募いただいた北海道の寿都町、国からの申入れを受諾していただいた北海道の神恵内村と佐賀県の玄海町です。

(杉浦)
そっか、応募もできるんですね。佳菜子ちゃん、知ってた?

(村上)
知らなかったです。

(杉浦)
ここに、最終処分事業を担っている「NUMO(ニューモ)」っていう法人が行った1万人対象のアンケート結果があるんだけど、これを見ても、知らない人が半分以上もいて、若い人ほど知らない傾向があるみたい。

(横手)
そうですね。この最終処分事業は100年以上にわたる長期事業でありますから、将来の日本を支える若者たちに、まず知ってもらい、そして理解を深めていただきたいと思っています。

(村上)
ちなみに、文献調査はどのくらい進んでいるんですか?

(横手)
北海道の寿都町と神恵内村の文献調査はおよそ4年かけて今年の11月に報告書が公表されました。佐賀県の玄海町は現在進行中です。

(杉浦)
さきほど、この問題は原子力発電を行っている国が皆直面しているとおっしゃっていましたけど、他の国は今、どうしているんですか?

(横手)
はい。日本同様、文献調査段階なのがドイツ。第二段階の概要調査を行っているのがイギリス、スイス、カナダ。第三段階の精密調査を行っているのがロシア、中国。そして、最終処分地の選定が終わったのがフィンランド、スウェーデン、フランス。ちなみに、アメリカは最終処分地を選定しましたが、審査が中断していてまだ決まっていない状況です。スペイン、ベルギー、韓国においては、まだ調査を行っていません。

(村上)
処分地の選定が終わった国もあるんですね。

(横手)
はい。フィンランドやスウェーデンでは、20年から30年かけて処分地を選定しました。フィンランドは、すでに、最終処分場の建設を進めています。

(杉浦)
もう始まってるんですね。地層的にも問題がなく、住民の理解も得られたということですよね?

(横手)
はい。フィンランドはエウラヨキという南西部に位置する町が処分地に決定しました。町長の話によると、町と事業者間で活発でオープンな対話が続けられたことにより、信頼関係が構築され、その結果、町民の多くが最終処分を支持しているそうです。また、スウェーデンのエストハンマル市の前市長も、研究者や見学者が世界中から訪れ、ハイテク技術が集まる工業地域になるイメージが市民と共有できたとおっしゃっています。

(杉浦)
なるほど。ポイントは、やっぱり、「活発でオープンな対話」じゃないですかね?ゴミの問題って、身近にもあるよね。家庭のゴミを集めて置く集積所でさえ、自分の家の前には置いてほしくない、なんて話はよく聞きますよね。それが原子力発電のゴミの最終処分場となると、簡単には住民の理解を得られないだろうし。だからこそ、腹を割って話し合う、意見を言い合うことが大切なんですよね。

(横手)
はい、その通りです。文献調査が進められた北海道の寿都町・神恵内村でも様々な議論がありました。処分方法、処分地について、どんな意見でも構いませんので、いろんな意見交換がされることで、より最適な答えが見つかっていくと考えています。

(村上)
原子力発電のゴミの場合、そもそも、置ける場所が限られるわけですから、処分地に関しては、もっと多くのかたに知ってもらいたいと思いますよね?

(横手)
はい。地層処分に適した地域が、日本のどこにあるのか?調べてみないことには始まりません。そのため、調査の初期段階では、より多くの地域の方々に関心を持っていただきたいと思っています。

(杉浦)
今、調査が進んでいる、北海道や佐賀県の町や村の方々だけでなく、日本中のかたに、考えてもらいたい課題だということですね。

(横手)
はい。日本は、過去50年以上にわたり原子力発電を利用しています。これに伴ってすでに存在している「高レベル放射性廃棄物」の最終処分は、最も長期的で困難な社会課題の一つです。この課題を未来の子ども達の負担として先送りしないように、今を生きる世代の責任として、解決に向けた具体的なアクションを起こさないといけません。まずは、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分について、理解を深めていただければと思います。

(村上)
今日の話で特に私が注目したのは「高レベル放射性廃棄物の最終処分について知ろう」です。私も知らなかったですが、特に若いかたが知らなかったということで、もっとたくさんの人に知っていただくことから始めないといけないなと思いました。

(杉浦)
僕が特に注目したのは「今の世代でできることを考えよう」です。先送りせず、今できることは何か?を改めて考え直しながら、模索していくことは大事ですね。


「 関連リンク 」
NUMO(原子力発電環境整備機構)「地層処分について」
NUMO(原子力発電環境整備機構)「処分地選定のための調査」
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