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ON AIR BLOG / 2020.07.01 update
今日は「七夕を前に宇宙についてのお話」。
宇宙戦争が現実の話に!?毎日新聞 編集編成局 次長兼写真・映像報道センター長、 齊藤信宏さんにリモートで解説していただきました。
Q:七夕を前にして、きょうのテーマは「宇宙」です。なんかロマンチックですが、どんな話ですか?
A:七夕はロマンチックですが、残念ながら、きょうのお話はあまりロマンチックではありません。宇宙を舞台にした軍事力拡大競争が激しくなっているという物騒な話です。これまでも、映画やテレビではスターウォーズシリーズや、古くはウルトラマンシリーズの地球防衛軍など宇宙戦争が描かれてきましたが、いよいよ現実の話になりつつあるということです。アメリカ、フランス、日本の3カ国で宇宙軍や作戦部隊が相次いで発足しています。
Q:地球の平和を守るための軍隊ということですか?
A:それならいいのですが、ここで想定されている「敵」はダースベーダーやバルタン星人のような宇宙人ではありません。最近、宇宙への進出が著しい中国やロシアを仮想敵にした軍隊なんです。
Q:そもそも宇宙って軍事的にそんなに重要なんでしょうか?あまり身近には感じられないのですが。
A:実は非常に重要になりつつあるんです。今や60以上の国が人工衛星を宇宙で運用していて、衛星の数は今年3月末の時点で2300基にのぼります。カーナビからスマホの位置情報、天気予報からATMまで、私たちの周りには人工衛星に支えられたインフラが山ほどあるんです。
Q:確かにスマホにGPSはつきものですよね。でも軍事分野となるとどんなことが考えられるのですか?
A:軍事分野も我々のスマホと同じなんです。海に潜っている潜水艦は、GPSがないと正確な位置を知ることができませんし、精密誘導弾や弾道ミサイルなど敵を攻撃する武器にもGPS機能が欠かせないというのが現代の軍事力なんです。となると、GPS機能をつかさどる人工衛星さえ撃ち落としてしまえば、アメリカといえども軍事力は大きなダメージを受けます。アメリカ軍の高官は「有事の際には人工衛星が敵にとっておいしい標的になる」と警戒を強めています。特に中国は21世紀に入ってから急速に宇宙開発に資金を投入するようになっていて、2018年にはアメリカを抜いて年間のロケット打ち上げ回数が世界一になりました。
Q:すごい技術革新ですね。宇宙空間でどんなことが起きているんですか?
A:例えば、宇宙空間で人工衛星を攻撃する「キラー衛星」というものがあります。すでに1980年代からアメリカが「スターウォーズ計画」と名付けた宇宙空間での攻撃プランを練っていましたが、ここにきて、中国やロシアもキラー衛星の開発に熱心に取り組んでいます。中国はすでに10年以上前に地上から発射したミサイルで自国の人工衛星を撃ち落とす実験に成功しています。また、ロボットアームを装着した人工衛星の実験も繰り返していて、アメリカの専門家は「相手国の人工衛星をつかんで壊すこともできる」と分析しています。
Q:なんだか怖い話ですね。日本もそんな宇宙戦争のような事態に備えなければならないのでしょうか。
A:日本はすでにかなり高度な軍事技術を持っていると言われています。例えば「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」に着陸した際、小惑星の物質を採取するため発射した弾丸がありましたが、同じ弾丸を別の国の人工衛星に向かって撃てば、衛星を破壊できるかもしれません。実際にロシアは日本が「はやぶさ2」で使ったものと同じような弾丸を人工衛星から撃ち出す実験を始めています。
Q:私たちの知らないところで、大変なことが進行しているようにも思うのですが、この流れはとめられないのでしょうか?
A:今のところ止められそうにありません。中国やロシアの動きに危機感を強めたアメリカは昨年12月、宇宙軍を創設しました。日本も今年5月、航空自衛隊に宇宙監視を任務とする「宇宙作戦隊」を設置しています。宇宙に進出する各国が、なんらかの平和協定を結ばない限り、軍拡競争はエスカレートしていく恐れがあります。