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ON AIR BLOG / 2019.06.05 update
今日は、このコーナーのサイエンスニュース担当、
毎日新聞専門編集委員青野由利さんに解説していただきました!
「液体のりが白血病治療の研究に役立つ?」
という目からウロコな発見について。
Q:具体的にはどういった発見なんでしょうか?
A:こちらは東京大学医科学研究所の山崎 聡さんを中心とした
研究チームの成果で、
「液体のりが白血病の治療に役立つ」これをもうちょっと専門的にいうと
「液体のりの成分を使って、白血病治療にも役立つと考えられる
造血幹細胞と呼ばれる細胞を、
大量に安定して増やすことに成功した」という話なんです。
Q:「造血幹細胞」ってなんですか?
A:血液の細胞にはいろいろな種類があります。
白血球の仲間、赤血球、血小板。
これらは、骨髄にある「造血幹細胞」から作られるんです。
つまり、すべての血液細胞のおおもとになるのが、造血幹細胞。
ちなみにこれは、赤ちゃんを生んだお母さんをつなぐ、へその緒に含まれる
胎児の血、臍帯血にもふくまれています。
Q:臍帯血はすでに、白血病の治療に役立てられているんですよね?
A:はい、白血病の患者さんに「骨髄移植」や「臍帯血移植」をする場合があるんです。
これは、健康な人の造血幹細胞を患者さんに移植することによって、
健康な血液細胞を患者さんの体内で作ってもらおうという治療。
でも、骨髄や臍帯血のドナーは限られるので、
造血幹細胞を、試験管の中で、大量に、効率よく、
安全に増やす方法が課題となってきたんです。
従来は、造血幹細胞の培養には、
血中に含まれるアルブミンというたんぱく質が必要とされてきたんですが
アルブミンは、「造血幹細胞を変化させてしまう効果」がありました。
更に値段も高い。
Q:ハードルの高い治療だったんですね。そこで発見したのが、「液体のり」?
A:そう!研究チームは、アルブミンの代わりになる物質を探していて、
「液体のり」にたどりついたと。
液体のりの主成分であるポリビニルアルコール(PVA)に、
造血幹細胞を変化させずに、大量に増やす効果があることがわかり、
これが人間の細胞に応用できれば、提供者からごくわずかな造血幹細胞をもらって、
これを大量に増やすことで、複数の患者さんに移植できるようになるのではないかと
期待してます。
Q: これは実際に使われるようになるんでしょうか?
A:現在マウスの実験のみですが行われていて、
人間の細胞にも応用可能と考えられています。
防腐剤が入っているので、十分に希釈して実験してみたら
それでもちゃんと、細胞が増殖したそうです。
――いまオフィスのデスクに「液体のり」がある人もいるんじゃないでしょうか?
誰にでも手に取れるものが、人の命を救うかもしれない。
そんな希望の光を見つけてくれた東京大学医科学研究所の山崎さんの研究チーム!
だれでも白血病の治療を受けられる時はくるのでしょうか。
期待したいですね。