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ON AIR BLOG / 2017.02.08 update
今日のテーマは、最近ニュースでもよく見かけます。
今、急激に進化を遂げている「ゲノム編集」について。
毎日新聞 専門編集委員 の青野由利さんに解説していただきました。
Q:今日は「ゲノム編集」。
先週、ゲノム編集の技術を開発した女性科学者のコンビが、
日本国際賞を受賞することが決まった?
A:そうなんです。
ゲノム編集の中でも「クリスパー・キャス」と呼ばれる手法を開発した女性コンビで、
ドイツで研究しているフランス人のエマニュエル・シャルパンティエ博士と、
アメリカのジェニファー・ダウドナ博士の2人です。
授賞式は4月ですが、先週、受賞者も来日して、記者会見をしました。
エレガントでスタイリッシュな女性コンビで、かっこよかったです。
Q:そもそも、どういう技術?
A:一言でいうと、遺伝子を自在に編集できる技術、とういことになります。
まず、「遺伝子組み換え技術」というのは、みなさん聞いたことがあると思います。
生命の設計図ともいわれる遺伝子を切り貼りする技術ですね。
元祖遺伝子組み換え技術が開発されたのは、1970年代。この技術が、
遺伝子組み換え作物作りや、インスリンなどの医薬品の大量生産、
病気のモデル動物作り、遺伝子治療などに結びつきました。
世界を大きく変える技術だったのは確かです。
Q:でも、それでは不十分だった?
A:はい。従来の遺伝子組み換えは、口で言うほど簡単ではなくて、
非常に手間暇がかかるうえ、ねらった遺伝子を、ねらった位置で、
思い通りに組み換えることは、至難の業だったんですね。
ところが、今回の受賞対象となった「クリスパー・キャス」と呼ばれる
ゲノム編集の技術は、従来の組み換えに比べて、「簡単で正確、効率がよく、安い」と
わかり、あっという間に世界の研究室で使われるように。
Q:どうやって、そんなすごい技術を開発?
A:かなり複雑な話なんですが、簡単にいうと、細菌がウイルスに感染すると、
そのウイルスの遺伝子の一部を自分の中に蓄えておいて、
また次に同じウイルスがやってきたら、それを見分けて、遺伝子を切断する、
という仕組みがあります。これをうまく利用したんです。
Q:何に使われている?
A:今は、もっぱら研究段階ですが、家畜や野菜の品種改良が、
以前よりずっと簡単にできるようですし、
がんやエイズの遺伝子治療も試みられています。
感染症を媒介する蚊を減らすという試みもあります。
そうした中で、みんなが心配していることがあります。
人間の受精卵にも、原理的には、この技術が使えることです。
つまり、人間の受精卵を遺伝子操作して、
のぞみ通りの赤ちゃんが作り出されるのではないか、という心配です。
Q:これまではできなかった?
A:可能性はゼロではなかったので、各国が規制してきましたが、
実際に受精卵を組み換えるのは至難の業でした。
でも、クリスパー・キャスを使えば、できてしまうと思われています。
実際、サルでは受精卵を操作して、遺伝子組み換えサルが誕生しています。
ということは、人間でもできるだろうなと。
Q:禁止されていないの?
A:国によって、規制はいろいろです。
日本は、以前に遺伝子治療の行政指針で、人の受精卵の改変を禁止しています。
また、内閣府の生命倫理専門調査会が、ゲノム編集で改変した
受精卵から人間を誕生させてはいけない、という報告をまとめています。
ただ、法律で禁止されているわけではありませんし、
基礎研究を禁止しているわけでもないので、今後は、
法規制も含めて検討する必要がありそうです。