「僕らが優勝すれば、新聞に載って、避難している富岡町の人に勇気を与えられるかもしれない。富岡の人たちのためにもがんばります」
これは富岡高校サッカー部の、ある生徒に言われた言葉だ。
福島県立富岡高等学校。
この学校は、福島原発20キロ圏内に位置しているため震災後、富岡高校へは立ち入ることができなくなってしまった。ほとんどのサッカー部の生徒は寮で生活をしていたが、その寮にももちろん入ることができない。現在、富岡高校サッカー部の生徒は、別の学校に通い、そのほとんどが旅館で共同生活をしている。毎日、同じ教室で授業を受け、市営のグラウンドで練習をし、そして旅館で暮らしている。 |
そんな富岡高校サッカー部は、この夏、東北地域の強豪チームだけが集まる大会『プリンスリーグ東北』に参加していた。並々ならぬ思いでこの大会に臨む、富岡高校サッカー部を追った。 |
【取材1日目】
2011年8月27日(土)。
山形県鶴岡市・櫛引総合運動公園。ここで『プリンスリーグ東北』の第5節が行われる。これまでに4試合を終え、1位を走る富岡高校。この日の対戦相手は東北高校。この試合を含めて残り3試合。優勝するためには、いずれも落とせない。 |
|
強い日差しが照りつける中で行われた試合は、終始、富岡高校ペースで進み、2対0。富岡高校が勝利をおさめた。 |
|
【取材2日目】
2011年9月16日(金)。
9月に入ったとは思えない、うだるような暑さの中での練習。プリンスリーグの最終節を明日に控え、選手たちの練習にも熱が入る。 |
|
練習後、選手たちは一度学校に寄り、そのあと生活拠点である旅館に戻った。12帖の部屋に、3人〜4人で寝泊まりしている。もちろん旅館なので一般客も泊まっている。お風呂も共同。寮生活では感じ得ない様々なストレスがきっとあるに違いない。選手から直接感じることはなかったが、この環境に慣れることだけでも、大変なことだと感じた。 |
|
【取材3日目】
2011年9月17日(土)。
この日の天候は昨日とはうって変わって、雨。「プリンスリーグ東北」の最終節は岩手フットボールセンターで行われる。現在1位は富岡高校。勝ち点差1で2位と肉薄する盛岡商業高校が今日の対戦相手だ。盛岡商業は2007年に全国優勝をした名門校。この盛岡商業に勝てば、文句なく富岡高校は優勝を手にすることができる。 |
|
試合開始。
五分の熱戦。両チームともに、プレッシャーが激しく、思うようにボールをつなげない展開が続く。まさに拮抗した展開。そんな中、少ないながらも何度かチャンスを作り出す富岡高校。しかし、あと一歩のところで得点が奪えず、前半が終了した。
0対0。 |
|
監督からの指示が飛ぶ。残り時間、45分。勝利するには最低でも1点が必要だ。
後半。押し気味に試合を進めていた富岡高校にアクシデントが……。中盤の選手が2枚目のイエローカードで退場。10人での戦いを強いられてしまう。 |
|
そこから富岡高校の運動量はかえって増したように思う。1人減ってしまい劣勢になってもおかしくないが、拮抗した展開は変わらなかった。しかし、90分という長丁場。時間が選手の体力を徐々に奪っていく。そして最後の最後、立て続けに2失点してしまい、そのまま試合終了。富岡高校は、0対2で敗れてしまった。 |
|
ベンチへの挨拶後、次々と選手がグランドにへたり込んだ。感情を抑えきれず、下を向いて泣き始める。タオルを頭にかけ、背中を震わせる。 |
|
ゴールキーパーがグローブを投げ、座り込んで顔を覆った。選手たちの嗚咽が重なる。ベンチにようやく座ることができた選手は、両手で顔を覆ったまま顔を上げることができない。監督も控えの選手も、泣いている選手に誰も声をかけられずにいた。涙では拭えないほどのショックと悔しさが、富岡高校のベンチをいつまでも覆っていた。 |
|
皆、試合前日に思いを口にしてくれた。
「離れていった仲間のためにがんばりたい」
「今も、連絡を取っている。がんばれって言ってくれた」
「すごく大切な仲間です」 |
|
あの震災の日から生活が一変し、サッカー部の3年生のうち、4人が転校を余儀なくされた。サッカー部に入部予定だったある生徒の命が津波によって奪われてしまった。この大会の全ての試合で全員が喪章を付けて闘った。富岡町の人たち。そして、離れていってしまった仲間たちへの思いを背負って。
彼らは、自分たちのためだけじゃない。
彼らが心に描く全ての仲間のために。
|
|
共に闘うチームメイトのため。離れていってしまった、仲間のため。
そして富岡のため。
優勝だけが「勇気」と「笑顔」をもたらすものではない。その過程を、その思いを、人はちゃんと感じることができる。「この先どうなるか分からない」そんな不安に押し潰されそうになったあの日から、今日までの富岡高校サッカー部の道のりに、誰もが背中を押され、心から声援を送っていたことだろう。 |
|
そして何より。
富岡高校サッカー部はこれで終わりではない。
彼らの熱い思いは、次に、そしてこれからに、必ずつながる。
夢は、つながる。 |
|
|
|