【取材1日目】大会前日
9月1日。ちょうど日本列島を台風が直撃していた影響で、前日まで大会の開催が危ぶまれる中、石巻市へと入った。高校へ到着すると、校門には2つの高校名がかかげられていた。
「宮城県水産高校」、そして「石巻北高校」。 |
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本来ここは、石巻北高校。先の震災で校舎を失った宮城県水産高校は、石巻北高校の敷地内を間借りして仮校舎での授業を行っている。
練習場は野球グラウンド
宮城県水産高校・ラグビー部が練習を行っているのは野球グラウンドだった。しかも狭い外野部分のみ。これでは試合形式の練習は、とてもじゃないが、できない。 |
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感謝の気持ちをチカラに
降りしきる雨の中での練習。1時間の軽めのメニューを終えた生徒に話を聞く。彼らの口から最初に出て来た言葉。それは支援してくれた人に対する感謝の気持ちだった。
「全国の人達から貰ったスパイクや練習着のおかげでここまで頑張れたことを、試合を通して伝えたい」 |
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実はユニホーム、スパイク、ボール、全てが震災時に流されてしまった。ラグビーができる環境だけでなく、必要な道具まで奪われてしまった彼らは、震災後2ヶ月の間、全く練習が出来なかったという。最後は、全員で野球グラウンドに向かって整列。声を揃えて叫ぶ。
「ありがとうございました!!」
あの話を聞いたからだろうか。生徒の叫びが、全国の支援者へも向けられているように感じた。 |
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【取材2日目】大会当日
9月2日。この日の天候は台風の影響で実にめまぐるしかった。突然、打ち付けるような強い雨が降ったかと思うとピタリと止む。その繰り返し。 |
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『第91回全国高校ラグビー大会宮城県予選』に臨むため、バスで1時間かけて試合会場に入る宮城水産高校ラグビー部。3年生にとってこの大会が最後。負けたら、その時点で引退することになる。 |
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試合用ジャージー授与式
ロッカールームでのミーティング。監督が名前を呼びながら一人一人に試合用ジャージーを手渡していく。選手たちは監督とガッチリ握手。その度に「頑張れよ!」という声と拍手が起こる。そして監督はこういって選手を送り出した。 |
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「このジャージーに袖を通したら負けちゃいけない。そういう気持ちで行ってください」 |
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試合開始
荒れる天候の中、試合開始のホイッスル。攻め込みはするものの、雨でボールが滑り、思うようにパスが繋がらない。そして一瞬の隙を突かれ、カウンターから先制のトライを奪われてしまう。そして攻撃の糸口をつかめないまま前半終了。 |
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前半戦、0対5
ハーフタイム。「このままで終わっていいのか!?」監督から檄が飛ぶ。その言葉に鼓舞された選手たちは、エンジンを組んだ。
「みんな、このまま終わりたくないだろ!!??」
「いつも通りやろう!!!!」
「絶対勝てるから、楽しんでやろう!!!!!!」 |
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そして後半戦へ。攻め込むも、なかなか得点を奪えない。すると、またしても相手に得点を許してしまう。
徐々に点差が開いていく。残り時間はあとわずか。 |
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ただ、グランドの選手たちは、試合を諦めてはいない。
監督もベンチの選手たちも、グランド近くまで出て来て、声を上げている。
彼らは、最後まで一丸となって闘っている。
3年間、培ってきた技術、チームワーク。
そのすべてを。
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ゴールラインまで残り数メートル。左サイドのライン際、全員で必死にパスを繋ぐ。
そして試合終了直前。ついに、水産高校が意地のトライ。しかし……その直後、無情にも試合終了のホイッスルがグラウンドに鳴り響いた。 |
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選手は呆然と立ち尽くす。悔しがって泣いている選手もいる。よく見ると3年生よりも1、2年生の方が泣いていた。3年生がグランドに一列に並ぶ。そこへ、後輩一人一人が挨拶をしていく。泣きじゃくる後輩たちを3年生は、気丈な態度で時に抱きしめて最後のエールを送る。 |
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熱い挨拶を終えると、グラウンドには3年生だけが残った。輪になって全員が顔を見合わせると、3年生は声を上げて泣き始めた。 |
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今日で引退。このメンバーで3年間がんばってきた。もう共にボールを追いかけることはない。その涙と表情から伝わってくる様々な思い。
ただ、彼らの3年間は、とてもじゃないが想像できない。震災で練習道具が流され、校舎と練習場を失った。そして2ヶ月間のブランク。3年生たちの心は、いろんな気持ちで大きく揺れ動いただろう。 |
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「全国の人達から貰ったスパイクや練習着のおかげで、ここまで頑張れたことを試合を通して伝えたい」
その思いは、この試合を通じてきっと届いたはずだ。なぜなら、彼らのスパイクは、あのグラウンドですり減り、今日の芝を噛み、ホイッスルと同時に最後の役目を終えた。決して、途中で放り出されることなく、この試合の最後の最後まで、選手とともにピッチを駆け抜けた。それこそが「感謝」の思いにほかならないからだ。 |
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