対談 (w/写真家・映像作家 奥山由之)- 後編
サカナクション 2015.7.30 木曜日
今回は、写真家・映像作家の奥山由之先生をゲスト講師に迎えた対談の授業、後編です。前回はサカナクションと奥山先生のつながりについて、そして、山口先生から見た奥山先生の才能についてのお話でしたが、今回は映像作家としての奥山先生にも迫っていきます。
<対談の前編は[⇒コチラ]サカナLOCKS! 2015年7月23日の授業>
山口「よろしくお願いします。」
奥山「お願いします。」
山口「僕は、奥山君がシャッターを切ったものには、戦っているっていうか、自分と葛藤しているっていうか……それを感じるから、同じ種族だなって思うの。……意味分かる?(笑) 表現しているっていうか。」
奥山「分かります。」
山口「今だったらiPhoneでみんな写真撮れるわけじゃん。はいチーズ!でパシャッて撮って、Instagramにアップしました、Twitterにアップしました……とかさ。記録して、どんどん残せるわけじゃん。でも写真って果たしてそういうふうに、自分の日常を撮ってただiPhoneの中に貯めておくものじゃなくて。どんなものでも、ファッションもそうだし、表現っていう部分があるわけじゃん。自分のよくわからない頭の中にあるもやもやを、何か違った形でアウトプットしたいと。それが一体何か分からないけど、アウトプットし続けることで何か分かってくるんじゃないかっていうさ。表現したいっていう気持ちは、僕はそういうものだと思うんだけど。写真はその一部なものなのに、向かって行く先が、誰もが美しくかっこよくするためになんとか工夫するっていう方向の技術で。そうじゃないほうの技術っていうかさ、何かこう……目の前にあるものにシャッターを切ったときに、景色がそことは違うものだったり、何か違うものが含まれたり、隠喩されるとか……そういうものが写真にもあるっていうことが、僕は奥山君のこういう『MUSICA』の写真とか、ファッション中に写っている奥山君の写真とか、作品もそうだけど。そうじゃないとさ、話できないんだよ。自分は音楽の文脈でしか話せないから。例えばカメラマンの人と話してもさ、そういう感覚がないと「この画角いいですね。」とかそういうよく分からない話になっちゃう(笑)。もちろん素晴らしい写真を撮る人はいっぱいいるけど、奥山君はそれをすごく音楽的に感じたんだよね。だから、くるりやThe SALOVERSとか。あとはRADWIMPSのアー写(アーチスト写真)とかをやっているのはすごく分かるし、ミュージシャンに愛されるっていうのはそういうことなんじゃないかなって思うけどね。」
奥山「僕、その表現とかクリエイティブって、全ては “選択” だと思っていて。僕も一郎さんも、選択業の人だと思うんですよ。どの場所に行くか、どの人に会うか、どういう話をするか、何を選ぶか……とか。で、シャッターを押す瞬間も、選択じゃないですか。その場所に行くのも選択、どの人を撮るかも選択、最後に仕上がった写真からどれをプリントするかも選択っていう……そのすべてが選択、選択。もう、どっちかか、どこを選ぶかとか……そこの違いだけだと思うんですね。選択することに責任を持つ大切さっていうのがすごくあると思っていて。写真も、カメラマンの中にはバーッて撮って、連写でダーッて撮って、何千枚のものを(先方に)送って、後はそっちで選んでもらって大丈夫です。っていうやり方の人もいれば。僕の場合は、これを表紙にしたい、これを1ページ目にしたい、これを2ページ目にしたい、ってところまでレイアウトも組んで送るんですけど。そこまで……むしろ、そこをしなくて何をするんだって思っちゃうというか。(シャッターを)押す瞬間も当然選んでるけど、その後自分が選ばないと、自分が撮った写真なのに、誰が撮っても一緒になっちゃうような気がして。」
山口「うん。」
奥山「まぁ、あの……、言いたいことって、選択するってことは大切だし、大変だし、それはその人を決めますよね。仕事だけじゃなくても。」
山口「うん。そうだよね。」
山口「奥山君って、写真家だけじゃなく、映像作家もやっているんですよね。」
奥山「そうですね。たまに映像も。」
山口「来週、来週8月5日(水) にサカナクションのカップリング&リミックス集『懐かしい月は新しい月 〜Coupling & Remix works〜』がリリースになるわけですが、その中に収録されている、「スローモーション」っていう、「ルーキー」の中に入っていたカップリング曲ですね。そのミュージックビデオのディレクション、監督を奥山君がやってくれたということで。もともと新しいシングルの曲とかじゃなくて、あった曲なわけじゃん。カップリングとして既に発売されていて、ファンの中では知っている人もたくさんいる曲だから。それをミュージックビデオにするきっかけっていうのが……今は、新曲でミュージックビデオを見るわけじゃん。新しい曲として映像が入ってくるわけじゃん。音楽を先に知っていて、それに後から映像がついてくるっていうのを体験する人が少ないと思うんだよね。そういう機会はあんまりないじゃん。」
奥山「あー……確かに。」
山口「「スローモーション」っていう曲を知っているっていう人は、サカナクションのファンの中でも、コアなファンというか、一部の人だと思うんだけど、そういう人たちが見るミュージックビデオと、この曲を初めてミュージックビデオを見て聴く人じゃ、全然感覚が違うじゃん。それもね、実は結構知りたかったんだよね。映像が音楽にもたらすものって、今は一体どんな風になっているんだろうっていうのを試してみたくて、今回このミュージックビデオをやろうと思ったんだけど。(そのことを)奥山君は俺に言ったんだよ。」
奥山「……あ!話しました。」
山口「すごいなーと思って。」
奥山「曲を聴き込んでいる人もいれば、初めて聴く人もいて、聴き込んでいる人は聴き込んでいる人で多分すごい……僕もそうだったし、頭の中でイメージがあったりして。でも、初めて聴く人は、その人はその人で思うことがあってっていうのが、自分がまとめていいものなのかって。自分が、これだ、って言っちゃうというか、僕だけの感じでいっちゃっていいのかというのが不安で……みたいな話は、確かにしました。」
山口「どう?難しかった?」
奥山「あー……でも、僕は逆に、すごい「ルーキー」とか、4年〜5年前の(サカナクションへの)憧れとか、すごい人たちがいるなってものすごい聴いていて、あのときの匂いとか、リズムの感じとか……。当然時間が経っていく中で作っていくものが一郎さんの中やサカナクションの中で変わっていっていると思うんですけど。久々に「スローモーション」を聴いたときに、いざ自分が撮ろうっていうときに聴いて、すっごい戻ってくる匂いみたいなものがあるんですよ。あのとき聴いていた自分が思っていたこととか、あのときのリズム感とかが。自分にとってのサカナクションだなっていうふうに思って……。」
山口「ふふふ(笑)。」
奥山「きっと、あのときの自分が将来何年後かに「スローモーション」のPVを自分がやっているってなったら、すごい喜ぶだろうなって思って(笑)。」
山口「ははは!(笑) で、実際そのミュージックビデオは、どんな映像になりましたか?」
奥山「そうですね……。」
山口「あれは、全部8mmビデオで撮ったの?」
奥山「8mmカメラですね。」
山口「その、8mmカメラっていうのはどういうこと?デジタルカメラとはどう違うの?」
奥山「写真と同じで、写真のフィルムとデジタルの違いみたいに、光を焼き付けるネガっていうのをカメラに入れて、それで撮っていくのがフィルムの撮影で、その中でもすごく画質が低いというか……ちょっとザラザラ見えるのが8mmカメラで。」
山口「それを使おうと思ったのはなぜ?今回のミュージックビデオの企画として?」
奥山「まず、ちょっとこう……昔の、テレビっていうものをみんなが持ち始めた頃、深夜番組って今みたいに長くやっていないじゃないですか。砂嵐じゃないですか、深夜って。」
山口「うん、うん。」
奥山「その砂嵐の5分前くらいの、ものすごいマニアックな、誰が見ているんだろう?っていう番組が結構あって、しかも、昔はもっと挑戦的で、テレビっていうものがどういうものを表現していけばいいんだろうっていう時代が、僕はリアルタイムでは感じられていないんですけど、あったらしくて。」
山口「はいはい、あったね。分かる、分かる。」
奥山「科学の番組とか、見ているうちに怖くなってくる……マニアックすぎて、みたいな(笑)。そういうのが昔はあった、みたいなのを何かのドキュメンタリー番組で見ていて。なんとなく、久々に「スローモーション」を聴いたときに、何かよく分からないけど、パッて繋がって。何かをスローモーションにして見てみる、みたいな実験番組……深夜帯の、砂嵐になる直前の番組を作ろうっていうのがまずあって。だから、ちょっと古い……古いというか、古くも新しくも見える、いつの時代か分からなく見えるような。でも、なんとなくその時代を知っている人は、そのときにも感じるような映像にしたいっていうのがあって。何か、今の映像にはとにかくしたくなかったっていうのがあって、8mmカメラを回そう、みたいな。」
山口「なるほど。」
■サカナクション「スローモーション」(Director, Camera & Edit: Yoshiyuki Okuyama)
山口「「スローモーション」は奥山君に撮ってもらって、「years」は山田(智和)監督に。……でも、僕はもうね、多分、映像監督やらないね。」
奥山「え、本当ですか?」
山口「でもね、やってよかった。みんなのすごさが分かりましたね。映像監督ってやっぱりすごいんだなって。映像とかビジュアル。目で見て選択している人たち。やっぱり、音楽っていう文脈で選ぶのは難しいなって思うし。あと、ミュージシャンがやっているって時点で、一郎君がやっているからしょうがないよねとか、一郎君がやっているからなんかいいみたいな……そういうところもあるわけじゃん。アドバンテージが。」
奥山「うーん。」
山口「だから、そういうのも本当に嫌だなって思った。ちゃんと、厳しい目で面白いか面白くないか、誰も言ってくれないんだよね。」
奥山「あー……。でも、僕、完成品を見た時に、江島さんも一緒にスタジオにいらっしゃって、みんなで見て。一郎さんのを最後に見ようってなって、「ホーリーダンス」を見て、開口一番に江島さんが「これなんか、釣り具のCMでこういうの見たことあんな。」って言っていて(笑)。」
山口「ははは!(笑)」
奥山「でもなんか、それだけ好きなことを一郎さんはやったなって感じがバシっと出ていてすごいよかったなって。」
山口「そうそうそう。自分の曲だからね(笑)。自分の曲だから自分の好きなようにやっていいんだと思いますよ。」
■ サカナクション「ホーリーダンス」(Director: Ichiro Yamaguchi)
奥山「最後にひとつ……僕、嬉しかったことがあって。最初にミュージックビデオを作って欲しいってお願いがあったときに、「10年後くらいに一緒に見て、このときこんなことをやっていたんだねって、笑えるものを作ろうよ。まず、そのくらいの気持ちで一緒に作っていこうよ。」って(言われて)。そういうお願いのされ方をしたことがなくて。めちゃくちゃ感動しちゃったんですよ。」
山口「ふふふ(笑)。へー。」
奥山「だって、それってなんかすごい幸せなことじゃないですか。10年後とか、何年後か分からないけど、こんなことをやっていたんだねって話せるのって、それだけ楽しんでいたってことだし、そのときもきっと楽しめているってことだし。そのときも一緒に何かを共有できているってことで。いろんなことが含まれていて、いい意味での信頼といいくらいのプレッシャーもあって。本当に……ありがとうございます(笑)。なんか、しんみりしちゃうけど、嬉しかったんですよね、あの言葉が。」
山口「楽しまなきゃ損だよね。失敗しても成功しても、楽しんでいれば、残っていても許せるじゃん。苦しくて苦しくて失敗したら、もう、抹殺してくれ!って気持ちになるけどさ(笑)。遊びながら、楽しみながら、未来に残るものを作るっていうのがすごく重要だなって。「スローモーション」にも、10年後大笑いできるようなシーンがね。……あのドラム叩いているの僕だからね。」
奥山「……あ!そう。それ、言わないと。」
山口「それ言わないと。あのモンスターの中で、何か1メートルくらいのカツラがついていて……」
奥山「一瞬、チラッと映るんですよね。」
山口「そう、一瞬映るんだけど。チラッと映るくらいにしては、ちょっと過酷だったよ、あの衣装!だって、頭に1メートルくらいのヅラをかぶらされて、その上に帽子を乗せられたんだよね。」
奥山「もう……よく見ていただきたい(笑)。」
山口「これ、インスタにいずれアップするけど。あれね……しかもズレないようにヘアメイクの根本さんがぎゅうぎゅうのカツラをギュッと押し込むんですよ、頭に。」
奥山「くっくっく(笑)。」
山口「そしたら、経験したことがない……頭皮に血が行ってないことによる痺れが(笑)。」
奥山「それでドラムを叩くっていう……(笑)。」
山口「いや、もう、今まで結構大変な現場があったけど。「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」で人形が重いとか、「ルーキー」で何度も飛び降りるとか……。一番大変だったね、あれ!」
奥山「ははは!(笑)」
山口「ずっと痛くて苦しいっていう(笑)。最終的に一番大変だったけど。その映像も、10年後とかには大笑いですよ。」
奥山「そうですね(笑)。」
山口「あんなに大変な思いをさせて、なんでこれしか使わないんだ!っていうふうになるかもしれないしね。」
山口「ちょっと、いっぱいしゃべっちゃいましたけど、また別の機会にね。サシで普通に(笑)、話しましょう。」
奥山「是非。」
山口「でも、また遊びに来てくださいよ。フル君(古舘佑太郎)とも一緒にね。また、次に一緒に来る機会もたくさんあると思うので。その時には是非足を運んでください。ありがとうございました。」
奥山「ありがとうございました。」
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8月5日(水)リリースの『懐かしい月は新しい月 〜Coupling & Remix works〜』に向け、新たに公開されたサカナクションのミュージックビデオ……山田智和監督の作品「years」、奥山由之監督の「スローモーション」、そして、山口一郎先生が監督した「ホーリーダンス」の3作品。ミュージックビデオを観た感想を、ぜひ [ サカナLOCKS! 掲示板 ] に書き込んでください。
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