尾崎「はじめまして尾崎世界観です。よろしくお願いします。(小声)」
米津「よろしくお願いします。(小声)」
尾崎「緊張しますね。(小声)」
米津「(笑)」
尾崎「はじめて会って、こうやって向き合ってるんですけど伏し目がちになってしまいます。今日は米津くんに来てもらいました。」
米津「初めまして米津玄師です。」
尾崎「はじめて会ったんですけど。」
米津「会って5分くらいですよね。」
尾崎「でもあの印象通りだったかな。ここまで想像してた感じと近い人は初めてかもしれない。」
米津「そうですか、でも俺も想像通りです(笑)本物だ!って。」
尾崎「(笑)」
米津「映像も見させてもらって。」
尾崎「見てくれてるんですか?」
米津「『HE IS MINE』のライブ映像を最初に見て声がすげえなって思って。比類のない声っていうのはこういうことを言うんだって。俺が低くて通らないからうらやましかったです。」
尾崎「米津君は声が低いのにコンプレックスがあるの?」
米津「低いのは嫌ですね。自分の声を好きだと思った事ないですね。」
尾崎「俺はあんな声で歌いたいなって思ってたけどな。『うわー』って無理しないと届かなかったりするのに、ちゃんと見据えてるというか。ああやって落ち着いて何かを届けられた事がないから、いいな。って。でもないものねだりなんだろうな。」
米津「落ち着いてるつもりもないですしね。そうですね。こっちはいっぱいいっぱいですね(笑)もう周りの事を考える余裕もない状態です。」
尾崎「曲は、どういう気持ちで作ってるんですか?」
米津「本当に大変な曲は大変だし、すぐ出来る曲はすぐ出来るけど…今度出す曲(『アンビリーバーズ』)は本当に大変でした。自分の中でたくさんの制約をもうけて…ギターを使わないとか。そしたらめちゃくちゃ大変でしたね。」
尾崎「結構時間かかったの?」
米津「すんごいかかりましたね。」
尾崎「いつも作ってくうえで時間がかかりすぎると、もうだめなんじゃないかって思って辞めちゃうことが多くて。」
米津「逆かもしれないですね。時間がかからないと不安になるっていうか…もっと考えるべき所があるんじゃないかって。多分考えたいんだと思います。」
尾崎「(米津くんの曲を聴いていて)最近の曲の方が濃いっていうかメロディーも何回も攻撃してるなって感じがするんだけど…」
米津「昔は人に聞かせるって視線がなくて。それでずっとやってきたんですけど、それじゃダメなんだっていうのが最近になってようやく分かってきました。」
尾崎「ライブとかを始めた事も影響してるんですか?」
米津「ライブやったことは確実に影響してると思います。1stアルバムを作った時にもう何にもすることがなくなっちゃって。全部やっちゃったって、自分中が、からっぽになった感覚があって。じゃあこれからは人のために作ってみようかなって思いました。」
尾崎「人に聞かせるって言うのを意識して作ってた訳じゃない。って言うのはすごい新鮮で、俺は路上ライブをしてて、通り過ぎる人を目の前に『なんで聞いてくれないんだよ!』って思った感情が最初だったから米津君とは全然スタートが違うんだなって…。」
米津「そうですね。」
尾崎「その時はネットにアップしたりするのがゴールだったってこと?」
米津「小5からインターネットが繋がってて、その時にフラッシュアニメがすごい流行ってて。それに影響されてこういうのがやりたいなって思って音楽を始めました。でも、いま尾崎さんが路上ライブからやりはじめたっていうのを聞いて、目の前に人がいるのかいないのかが大きいと思うんですけど、路上ライブは人の目があるじゃないですか、インターネットを通したとコミュニケーションって言うのは、人はいるんですけど実際には目に見えないじゃないですか。だから果たして本当に聞かれてるんだろうか?って思うこともあって。だから人に対してなにかしてる、っていう感覚は少なかったかもしれないですね。」
尾崎「でもそこに対していいなとかうらやましいなって気持は救われるというか報われるというか。」
米津「昔はバンド組んでたんですけど、そうしたくてもなれなかった人だったから…。だからそれをやってきた人間はすげーなって思います。俺は人とやれるなら人と一緒にやった方がいいなって思いますね。」
尾崎「なにが人と一緒にやれないなって。思ったの?」
米津「100%俺の原因なんですけど、人との意思疎通がとんでもなくヘタクソで、自分が曲を作って、メンバーに持って行って。そこでのメンバーの反応がなんかよくわかんねーなって顔してたら、“わかんねーのか”って思ってとりさげてしまったり。」
尾崎「でも俺も曲聞かせる時はいまだにそうだね。向こうもずっと一緒にやってるし曲も何回も聞いてもらってるから、どういう反応しうよかなって思ってたりすると思うんですけど、『よくないよなーそうだよなー』って言ってたらベースのカオナシがキレて『よくないとは言ってなじゃないですか!』って。でもそれにたいして俺がキレて。」
米津「あー。俺、ソレが出来ないんですよ。完全にひいちゃって。意見をぶつけ合うみたいなのがまったく出来なくて…。」
尾崎「でも自分の音楽はすごい信じてるってこと?」
米津「提示した音楽は。音楽と自分以外になにも信用したくなかったんだと思います。今になって考えてみると。」
尾崎「難しいね、“こいつ腹立つな!”って思うのはなんでこの人わかってくれないんだよ!って腹立つから。そこを1人でやってくのはすごいことだと思うし。」
米津「子供の頃からなんにも信用したくないっていうのがすごく強い人間で、信じるって行為自体が嫌だったいうのがあって、なにも信用したくない。だからなにも信用しないためにはどうすればいいかって考えてて。誰かに対して100%悪意をむけてしまうと、自分の中でキャパシティーを占める存在になってしまうから、それが本当にいやだったんですね。」
尾崎「うん。」
米津「自分一人で解決したいって思ってたから。こいつ嫌なとこあるけど、こういう良いところあるんだなっていうのを1人1人に考えてくと0になるんですよね。その相手への気持ちが。」
尾崎「蓋をするみたいな感じだよね。」
米津「そうですね。でもそれを10年くらい続けてやってきたら、本当に死にかけたって言うか(笑)自分の中になんにもないから、なんにもできない状態だから。だから今はバランスをくずしててでも、何かにたいして猛烈に怒り狂ったり、逆に猛烈に信用してみたりをやらなきゃなって思ってます。」
尾崎「でもライブもして人の反応も返ってくるだろうし、楽しみだな。すごい曲も変わってきてるなって思ってるし…なんかえらそうだけど(笑)部屋感がなくなってきてる感じがして。そういう時に会えてよかったなって思います。ありがとうございます。」
米津「こちらこそです。ありがとうございます。」
…そして米津玄師先生が帰った踊り場から今日は
尾崎先生から生徒のみなさんに大切なおしらせがあります。
尾崎「今日は生徒の皆さんに大切なお知らせがあります。」
尾崎「来月9月29日の授業をもって、クリープLOCKS!は、一旦休講になります。」
尾崎「残念ですけど。うん。でも、なにがいいって映画50本がうやむやになるっていうのがいいですね(笑)うん。また踊り場で授業が出来たらいいなと思います。だって踊り場ですよ?こんなふわっとした場所で今まで続けてきて、生徒のみんなのおかげだなと思います。終わる事は残念ですけど、逆に今まで続いてきたことに感謝したいと思います。」
尾崎「でもまだあるから!一ヶ月。だからまた来週この踊り場で会いましょう。寂しいとか、悲しいとか、悔しいとか、めちゃくちゃみんなやってくれ。」