みなさん、はじめまして。カメラマンをしている古溪 (こけい) といいます。2000年からずっとBUMP OF CHICKENのライヴ写真を撮らせてもらってます。今回はフッキーに変わって、今年最後の夏フェスとなったRUSH BALLのレポートを書かせてもらえることになりました。よろしくお願いします。
――9月2日、その前日までは秋の気配を感じるほどに肌寒くすらあったのですが、この日は天気もよく暑い一日でした。夏はまだまだ終わっていないんだということを改めて告げているかのような日射しでした。
RUSH BALLの歴史の中で、5回もの参加を誇るほどの常連組のひとつだったBOC、2年ぶりの参加です。
夕方に楽屋入りしたメンバーは、これまでのフッキーのフェス・レポートにあったいつもの様子と同じように、軽く食事をして、顔馴染みのバンドと談笑し、ステージに向けてのセッティングや準備を始めました。4人それぞれがそれぞれの方法でウォーミングアップを始め、楽屋の中にはストイックな雰囲気がだんだんと満ちてきます。出演時間が近づき、楽屋内の空気が静かに緊張と熱を帯びて来た頃に、写真を撮るのをやめてそっと楽屋を後にしました。
そして開演時間。ステージに向かうメンバーの顔には普段よりも少しだけ緊張した表情が浮かんでいたように思います。オープニングSEのThe Whoが流れる中、いつもと同じように円陣を組み気合いを込める4人。この姿もこれまでに何度も目にしてきましたが、見てるこちら側にも気持ちの高ぶりが伝わる姿です。この日もやはり、その姿を撮りながら、緊張感と震えが身体中に走りました。
地鳴りのような歓声の中に登場した4人。タオルをかざすチャマ、フィールドを見渡し腕を突き上げるヒロ、ギターを高く掲げる藤くん、ドラムスティックを突き上げながら吠える升くん。ライヴのスタートを告げる光景です。今回はシルエット・ライティングではなかったのでメンバーの表情がはっきりと見え、更なる緊張感と期待感が膨らみました。
1曲目は『乗車権』。硬質なギターを支えるのは、不安と焦燥と葛藤と…そんな感覚を覚える複雑なリズム。一瞬にして空気を変えるオープニングです。
ヘヴィなテーマを吐き出すように叫んだ歌と待ちわびたバンドのライヴと出会えた喜びと興奮…様々な感情が交錯し、戸惑いも含んだような空気の中を明るく照らすように鳴らされたのは、夜空に向かって高く昇っていくような伸びやかなギターのフレーズ。そう、2曲目は、BOC自身の気持ちのみならず、1年以上も待ちわびたオーディエンスの気持ちをも代弁した曲、『涙のふるさと』でした。
拳を握りしめ、オーディエンスに向かって語りかけるように唄うチャマが浮かべた笑顔。"会いに来たよ" という力強いリフレインを叫ぶ藤くん。それに負けないほどの会場の歌声。様々な捉え方の出来る深みのある曲ですが、帰るべき場所に帰って来た、祝福の歌としてこの日は鳴り響いていました。
短いMCを挟んで、ソウルフルな節回しで始まったのはBOC流のブルース『真っ赤な空を見ただろうか』。ロックンロールのグルーヴを持った間奏のブレイクに思わず身体を揺らしそうになりながら、会場のすぐそばの海に沈んでいったこの日の夕焼けもとても綺麗だったことを思い出しました。
続く曲は『ギルド』。
この曲を聴くと、必ず自問自答させられます。
――「夢はなんだ?」「仕事はなんだ?」「日常は?」「それが好きか?」「与えられたものか?」「望んだものか?」「選んだものか?」「なぜそれをしてるんだ?」「させられてはいないか?」「やりたいことをしてるのか?」「やりたいことってなんだ?」――「生きてるか?」
この曲が演奏されるといつも、聞き惚れ、歌詞を口ずさみ、少しだけ涙を目に溜めて、お客さんたちの泣いているような笑っているような顔を眺め、自問自答し、そして我に返ってもう一度レンズをステージに向けて、自分のしていることに幸せと誇りを感じながら、シャッターを押しています。
ヒロが丁寧になぞっていたストラトキャスターの優しいアルペジオの音色が、この日は少しだけ余計に沁みました。
「今年の夏は久しぶりにライヴやって、いろんなフェスに出て来たんですけど…お客さんからすげえパワーをもらってきました。この場を借りてお礼を言いたいと思います」
「僕ら出番がいつも最後の方で会場着くのが遅めだったんで、観たかったバンドさんとかも観れなかったことがあって残念だったんですけど…ステージに立つとお客さんがもの凄いいい顔をしてて、"ああ、すげえいいライヴだったんだろうな" ってわかったりして…そういう夏フェスを各地でやってきました。…なんつーか、フェスって素晴らしいなと思います。スタッフのみなさんに感謝したいと思います。…今日はDragon Ash観て帰ります (笑)。すげえ楽しみにしてたんで」
藤くんがこんなに続けて喋るのは珍しいことかもな…とふと思いました。凄くいい顔をしていたRUSH BALLのお客さんたちがそうさせたのかも知れません。
そんな感謝の言葉に続いて演奏されたのは、『天体観測』でした。
もう何度も聴いてきたはずのイントロのギターリフに、でもやっぱりまた今回も興奮し心を躍らせながら、同時に身が引き締まる感覚も覚えます。拳を天に向かって突き上げ高く飛び跳ねるチャマ。今にも駆け出していきそうな性急なビートをタイトに刻む升くん。星空を突き抜けていきそうなリフを紡ぐヒロ。目を見開いて力強くメロディを唄う藤くん。撮りどころが多い曲です。
「お客さん、カッコいいです、ほんとに」
「ほんっとに大阪楽しいです。ありがとう!」
そして…最後の曲であることを告げる「聴いてください…supernova!」というタイトルコール。
柔らかいアコギのストロークは身体の中を流れる血液、静かな四つ打ちのバスドラムは心臓の鼓動。フィールドを埋め尽くしていた無数の手や腕の揺れは呼吸のよう。これは、いま、ここに、存在している、という歌。それを確かめる歌。
この曲の風景を、いろんなフェスでいろんな場所から撮影してきました。今回は客席のブロック間に滑り込んで、お客さん越しにステージ全景を撮影してみました。やっぱり、凄い。壮絶なくらい美しい光景。会場全体がひとつの生命体のようでした。
ブレイクで藤くんが問いかけました。――「聞こえてる?!」
――もちろん! そう心の中で返した人は決して少なくなかったと思います。
ライヴでは歌詞をアドリブで変えて唄うことが多い藤くん、この日はこんなラインを叫びました。
"本当に欲しいのは君と作る今なんだ。今日なんだ!"
その言葉に一段と沸き上がり、コーラスで更に一体化していく会場。お客さんと同じように手をかざし、モニターを外し耳に手を当てて、会場中の歌声を全身で浴びようとするメンバー。エンディングに向かって高揚していく感覚。熱を帯びていくギター・ストローク。そして…ダダダダン! ――胸の高まりをそのまま音に込めたような升くんの力強いスネアドラムのフィナーレ。
ペットボトルを投げ、名残惜しそうな表情を浮かべてメンバーはステージを後にしました。この日、何度も何度も繰り返されていた「ありがとう」というメロディと言葉で、BOCの今年の夏は終わりました。
慌ててバックステージに走るとそこには、珍しく肩を組んで、これ以上ない笑顔を見せながらステージから下りてくる4人の姿がありました。底抜けに明るいその表情が、なによりも雄弁にこの日のライヴの充実と、いくつものフェスをやり遂げた達成感を語っていたと思います。
『supernova』の前にはこんな言葉がありました。
「フェスのスタッフのみなさんと、お客さん、みんなに感謝の気持ちを込めて歌います」
BOCの4人は、この夏のフェス・ツアーの最後を締めるこの会場で、BOCに関わってくれた人たち――RUSH BALLのみならず、参加した6つのフェスを運営していたスタッフ、ステージを作ってくれたスタッフ、そしてもちろん、BOCを観に聴きに来てくれたお客さんたち――そんな人たちみんなに感謝の気持ちを込めて、彼らにしか出来ない彼らなりのやり方で、その気持ちを表現していたステージを見せていたと思います。
"あぁ 僕はいつも 精いっぱい 歌を唄うよ"
残念ながらこの日の実際のセットリストにはなかったけれど、ステージの間を通じて鳴っていた曲がもう1曲、あったように感じました。
『天体観測』の前にはこんなMCもありました。
「あと2曲しかないんですけど…ワンマン1日分のつもりでやります」
この言葉、過去にイベントなどに出たときにも耳にした言葉です。
それがたとえフェスであろうとイベントであろうと、どんな場所であろうと短い時間しか演らないときであろうと、いつも変わらない気持ちで歌を唄う――このレポの中にもフッキーのレポの中にも、何度も「いつも」という言葉が出てきます。そう、BOCというバンドは、昔からずっと、いつもと同じことをいつもと同じように誠実にやろうとしてきたバンドだと思います。それと同時に、いつも新しい特別な何かを見せてくれるバンドでもあります。
この夏は、だから僕はいつも、精いっぱい、写真を撮り続けました。その何かが写真の中に写り込んでいるといいなと願いながら。
Dragon Ashのステージを舞台袖で身体を揺らし楽しんでいる4人の姿を見ながら、帰路につきました。
とてもいい夏でした。
Report: 古渓一道
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