2015年7月9日

7月9日 ふたば未来学園(3)

震災当時、およそ1万人の子供たちが学校に通っていた、福島県双葉郡。原発事故の影響で、現在地域が運営する学校に通う児童・生徒の数は、震災当時のおよそ1割程度に減少しました。

そんな双葉郡にこの春新設されたのが「ふたば未来学園」。県立の高等学校です。新入生は、男女あわせて152名。著名人による「応援団」や独自のカリキュラムにも注目が集まっています。

お話は「ふたば未来学園」の副校長、南郷市兵さんです。

◆動く授業・課題解決の能力をつけてほしい
カリキュラムの特徴は、とにかく「動く授業」をするということ。例えば、いまうちの生徒たちが取り組んでいるのは、5〜6人のチームに分かれて、地域のいろいろな団体のところにヒアリングに行き始めている。あるチームは町役場の復興の企画担当のところ、あるチームは復興NPOのところ、さらに商店の方や廃炉の作業を担当されている国の機関などに行っている。なにをやっているかというと、彼らがいま取り組んでいる復興の取り組みについて聞いて、これを夏までの間に演劇にしていく。20チームあるので、20の演劇ができあがる。平田オリザさんの指導で演劇をつくっているが、狙いは、うちの生徒たちは双葉郡の復興の課題を知っていると思いながら、実は深く知らないかもしれない。地域の人の復興の想いをわかっていない部分もあるかもしれない。そこを今一度見つめようということで、自分で話を聞いて、それを演劇という形で表現するというステップを、いまやっている。この春にやる演劇は、すごく難しい演劇。復興の希望のストーリーではなく、ある復興のテーマに対してAさんも、Bさんも、Cさんも真剣に良くしようと思っているけれども、立場の違いやすれ違いや難しさを、そのまま劇で演じるというもの。観た後にみんながうーんとうなってしまう演劇になると思う。それが、これからの社会で求められる、「誰もが正解がわからない難しい課題をそのまんまとらえる」という学びにつながる。そこからどういうふうに復興をすすめるかは、彼らの高校生たちの学びの結果、どういう選択を彼らがしていくか。
秋に海外の方が多くこの広野町にやってくる機会があるので、そのときに地域の方と海外の方に、この演劇を観てもらって、みんなで一緒にディスカッションをするという。この課題に対してどうしていったらいいんだろうねという議論をするということができれば、すごく意味のある場にできるので、そんな形でやっていこうかなと思っています。

  
海外への留学のチャンスも「ふたば未来学園」の特徴です。この夏には、ベラルーシ、タイ、ドイツに、それぞれ10人程が訪ねる予定。福島はいまどうなっているのか。自分の言葉で発信する機会になります。

また2年生になると、「再生可能エネルギーの研究」や「メディア・コミュニケーション」(風評風化に対して、どうメディアを使って発信していくのか)など専門的なプログラムが予定されています。

さらにこの学校のもう一つの特徴が、各界の著名人による「応援団」の存在です。

◆リミッターをはずす
わたしたちの学校には本当にありがたいことに、多くの一線の方々が、「ふたばの教育復興応援団」ということで名乗りを上げてくださっている。小泉進次郎復興大臣政務官が「リミッターをはずしたい」とよく話をしている。子供たちには未来の可能性を考えるときに、小さな発想でとらえてほしくない。こういう方々の声を聴き、背中を見ることで、常識にとらわれた、自分がいま想像できる範囲でものごとを発想するのではなく、それを超えた物事の発想をできるよう、刺激を与えてほしいなと思っています。



「ふたば未来学園」は、授業だけでなく部活もユニークです。「社会起業部」は「被災地の課題を高校生の目線で解決しよう!」という部活動。部員は20名ほど。地域の空き家の活用法を考える「空き家計画」では、店舗を出す、合宿所にする、町民の話し合いの場に利用するなどさまざまなアイディアが出されています。

2015年7月9日

7月8日 ふたば未来学園(2)


この春、福島県に新しく誕生した高校「ふたば未来学園」。
原発のある福島県双葉郡8町村の要望で、双葉郡広野町に設立されました。中高一貫校を目指してまずは高等部が新設され、この4月、男女合わせて152名が入学。「ふたば未来学園」の副校長に就任したのが、南郷市兵(なんごう・いっぺい)さん、36歳です。

◆震災で生きる動機が芽生えた東北の子どもたち
元々は文部科学省の職員で、震災が発生したその日から震災対応にあたっていた。振り返れば、高校時代に阪神淡路大震災のボランティアをやって、当時相当大きなショックを受けました。自分という存在と社会は無関係じゃないんだなと感じた、大きな転機でした。僕の心の中では、東北の子供たちはもっと大きな生きる動機が震災のときに芽生えたんじゃないかと思うので、それを伸ばすような学びをしたいなと、ずっと4年間取り組んできました。
原発の影響を受けた福島県双葉郡で子供たちの人数が減っているのをなんとかしたいとか、放射線の不安に対して除染を含めてしっかり対応していくとか、目の前の課題が山積している中で、ちょっとずつ「数十年先のことも考えませんか」と地元の教育関係者の方たちとお話をしてきたので、その延長で今回、ふたば未来学園の副校長として着任をしました。


震災後、双葉郡では「教育復興ビジョン推進協議会」を立ち上げて、これからの地域の教育について検討を重ねてきました。原発周辺地域の復興には30年、あるいは40年かかるとも言われています。そのときの町の課題はなにか。議論はそこからスタートしたといいます。

◆未来学園のカリキュラム…動く授業
震災前から「2050年の日本を試算したデータ」というのがあります。2050年といえば、まさに「ふたば未来学園」の一年生が50歳ぐらいになる年だが、日本全国の地域を見ても、人口が半分以下になってしまう地域が6割、全国の2割が無居住地域課すると予測され、さらに労働人口が4割減少すると言われている。地域の支えあいをどうするのか、地域の経済をどうするのか。いままでの社会と2050年とでは全く状況が変わるので、その中で東北の復興をやっていかなければいけない。そうすると、もとに戻す復興というよりも、いまだからこそ数十年先を見据えた全く新しいことをやらなきゃいけない。自然とそこから議論をスタートすることができました。
2050年先の社会がどうなるかは、データとしては出ているが、実際に描くことはできないですよね。ただ、明確に一つだけわかっていることは「不確実な社会だ」ということ。誰もが正解がわからない社会だということ。これは、教室で知っている人が知らない子供たちに正解を教えてあげるという教育ではなくて、目の前に誰もわからない難しい問題があっても、人と話をしながら挑戦をしてみる、そういった力のほうが必要になるのではないか。これは平たく言うと、知識だけでなく「課題解決力」とか「コミュニケーション力」ということになり、これまでも言われてきたことだが、それを心底東北の方々は痛感されたのだと思う。だからこそ、先を見据えた計画を始めることができた。そして、学校の設立を具体化していく中で、小中高の子供たちと話しているうちに、「動く授業」がいいのではないかという声が上がったんです。教室に縛られる授業ではなく、外にどんどん出て行って自ら動きながら学んでいく「動く授業」をやってほしいとうキーワードが子供たちの中から出てきたので、ふたば未来学園のカリキュラムはそうしたものを取り込んでつくっています。


「双葉郡教育復興ビジョン推進協議会」では、「双葉郡子供未来会議」も10回ほど行ったそうです。こちらは、地域の大人や子供が一緒になって、地域の教育や理想の学校について自由に意見を述べ合うというもの。「ふたば未来学園」のコンセプトやカリキュラムには、子供たちの声が直接反映されているというお話でした。
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パーソナリティ 鈴村健一

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