2015年10月26日
10月26日 東北方言オノマトペ用例集
今朝は、東北の「言葉」をめぐる、ちょっと興味深い取り組みをご紹介します。
東北各地にそれぞれ存在する「お国言葉・方言」。
この番組では各地を取材する中で、それぞれの地元の方の豊かな方言に出会ってきました。時には共通語には存在しない表現に「???」となることも多いのですが、実は東日本大震災の直後、これが笑い事では済まない状況がありました。そして、これをきっかけに、方言を研究する人たちの間で、ある取り組みが始まったんです。方言研究者の竹田晃子さんに伺いました。
◆非常事態で「方言が通じない」
震災が起こった時に、地元で方言をずっと研究している人たち、我々が方言を教えてもらいに出かけて教えてくれた一般のたくさんの方々が被害にあわれていて、何かできないかと思った。そんな中、弘前学院大学の今村かほる先生が、「医療現場では方言が通じなくて困っている(※参考 今村かほる方言研究チーム)」ということを言っていた。医師の方言が分からない場合もあるし、患者・看護師の方言が分からない場合もあるという。いろんな場合があるので、それらをつなぐ役割を我々研究者はするべきじゃないか、ということをおっしゃっていた。それで何かするべきではないかと思った。調べるとこれは医療現場だけの話ではない。例えば、愛知県のヘリコプターが被災地へ救援に来てみたら、「どこかでヘリコプターが落ちた」という情報があった。そこで仲間のヘリコプターを探して延々とヘリコプターの捜索活動をしたが実はそれは仙台市の方言で、「降りる」のことを「落ちる」と言うということがわかった。汽車から落ちる、というのは降りるという意味。他にも、有名なテレビ局が地元でインタビューをして、地元の方言に共通語の字幕を付けたがそれが明らかに間違っていた。「水がなくて困っていた」という字幕が付いていたが、それは「困っている」という意味。窮状を訴えているのに、過去形の字幕が出たことで、それをみた人は、もう終わったんだな、良かったんだねと思ってしまう。そういう事態が散見されて、なにかしなければという思いもあって、今まで方言のオノマトペを集めていたが、そこに体の調子を表すものもあったので、医療現場向けに私が集めていたオノマトペから体に関わる表現を集めて資料を作り、配布できないかと始めたのが、この本「東北方言オノマトペ用例集」ができた。
というわけで方言研究者の竹田さんが、国立国語研究所の研究者だった当時、2012年に作成したのが「東北方言オノマトペ用例集」。
![](/cms/thumbnails/4d/4d3737c06c795a9f6ed6405e63e500a0.jpg)
オノマトペ・・・いわゆる擬音語・擬態語。鈴虫が「りんりん鳴く」とか、背中が「むずむずする」といった表現のこと。
震災直後、全国から被災地に集まった医療チームが、方言で混乱したことを踏まえ、特に、医者と患者のやりとりで必要な、105のオノマトペを集めた本です。表紙はお医者さんがおばあさんを診察している絵柄となっているのですが、これについて伺いました。
◆患者の「表現」がが分からない
この表紙はお医者さんが患者さんに、どうしたのと聞くと患者が「喉がぜらぜら」と答えている。ぜらぜら、は共通語には存在しないオノマトペ。この表紙のおばあちゃんは「喉に痰がからまって気持ちが悪い」「呼吸がしにくい」と説明するのだと思う。こういう共通語にないオノマトペで説明することが方言の中にはたくさんある。のちのちに伺った話だが、お医者さんが「患者さんが背中がざらっとする」と診察を受けに来た」というので、背中を触ったがなんともないので、全然ざらざらしていませんよと説明して帰ってもらったが、その後、患者さんが熱を出してまた来院した。どうやら「ざらっとする」は土地の方言で悪寒がするという意味らしい。患者さんは大事には至らなかったが、「もしそれが分かっていれば」とその医者はおっしゃっていた。
この用例集、すでに東北各地 およそ2000以上の医療・介護・福祉関係の機関に配布され、役立てられています。
国立国語研究所のウェブサイトでは、この用例集のpdfをダウンロードできます。
また現在は、アップルのiPad用のアプリも配信されています。
明日も東北方言オノマトペ用例集」についてお伝えします。
東北各地にそれぞれ存在する「お国言葉・方言」。
この番組では各地を取材する中で、それぞれの地元の方の豊かな方言に出会ってきました。時には共通語には存在しない表現に「???」となることも多いのですが、実は東日本大震災の直後、これが笑い事では済まない状況がありました。そして、これをきっかけに、方言を研究する人たちの間で、ある取り組みが始まったんです。方言研究者の竹田晃子さんに伺いました。
◆非常事態で「方言が通じない」
震災が起こった時に、地元で方言をずっと研究している人たち、我々が方言を教えてもらいに出かけて教えてくれた一般のたくさんの方々が被害にあわれていて、何かできないかと思った。そんな中、弘前学院大学の今村かほる先生が、「医療現場では方言が通じなくて困っている(※参考 今村かほる方言研究チーム)」ということを言っていた。医師の方言が分からない場合もあるし、患者・看護師の方言が分からない場合もあるという。いろんな場合があるので、それらをつなぐ役割を我々研究者はするべきじゃないか、ということをおっしゃっていた。それで何かするべきではないかと思った。調べるとこれは医療現場だけの話ではない。例えば、愛知県のヘリコプターが被災地へ救援に来てみたら、「どこかでヘリコプターが落ちた」という情報があった。そこで仲間のヘリコプターを探して延々とヘリコプターの捜索活動をしたが実はそれは仙台市の方言で、「降りる」のことを「落ちる」と言うということがわかった。汽車から落ちる、というのは降りるという意味。他にも、有名なテレビ局が地元でインタビューをして、地元の方言に共通語の字幕を付けたがそれが明らかに間違っていた。「水がなくて困っていた」という字幕が付いていたが、それは「困っている」という意味。窮状を訴えているのに、過去形の字幕が出たことで、それをみた人は、もう終わったんだな、良かったんだねと思ってしまう。そういう事態が散見されて、なにかしなければという思いもあって、今まで方言のオノマトペを集めていたが、そこに体の調子を表すものもあったので、医療現場向けに私が集めていたオノマトペから体に関わる表現を集めて資料を作り、配布できないかと始めたのが、この本「東北方言オノマトペ用例集」ができた。
というわけで方言研究者の竹田さんが、国立国語研究所の研究者だった当時、2012年に作成したのが「東北方言オノマトペ用例集」。
![](/cms/thumbnails/4d/4d3737c06c795a9f6ed6405e63e500a0.jpg)
オノマトペ・・・いわゆる擬音語・擬態語。鈴虫が「りんりん鳴く」とか、背中が「むずむずする」といった表現のこと。
震災直後、全国から被災地に集まった医療チームが、方言で混乱したことを踏まえ、特に、医者と患者のやりとりで必要な、105のオノマトペを集めた本です。表紙はお医者さんがおばあさんを診察している絵柄となっているのですが、これについて伺いました。
◆患者の「表現」がが分からない
この表紙はお医者さんが患者さんに、どうしたのと聞くと患者が「喉がぜらぜら」と答えている。ぜらぜら、は共通語には存在しないオノマトペ。この表紙のおばあちゃんは「喉に痰がからまって気持ちが悪い」「呼吸がしにくい」と説明するのだと思う。こういう共通語にないオノマトペで説明することが方言の中にはたくさんある。のちのちに伺った話だが、お医者さんが「患者さんが背中がざらっとする」と診察を受けに来た」というので、背中を触ったがなんともないので、全然ざらざらしていませんよと説明して帰ってもらったが、その後、患者さんが熱を出してまた来院した。どうやら「ざらっとする」は土地の方言で悪寒がするという意味らしい。患者さんは大事には至らなかったが、「もしそれが分かっていれば」とその医者はおっしゃっていた。
この用例集、すでに東北各地 およそ2000以上の医療・介護・福祉関係の機関に配布され、役立てられています。
国立国語研究所のウェブサイトでは、この用例集のpdfをダウンロードできます。
また現在は、アップルのiPad用のアプリも配信されています。
明日も東北方言オノマトペ用例集」についてお伝えします。