2015年12月29日
12月28日 浪江町・請戸のお正月と祝酒「磐城壽」
12月の『東北復興グルメシリーズ』でもご紹介した「鈴木酒造店」は、福島県双葉郡浪江町で200年近くに渡って日本酒を作り続けてきた歴史ある酒蔵です。震災と原発事故の影響で避難を余儀なくされ、現在は山形県長井市で酒造りを続けています。代表銘柄は「磐城壽(いわきことぶき)」。浪江町の請戸地区では神事や大漁祈願、お祭りやお祝いの席に必ずこの「磐城寿」があったといいます。
鈴木酒造、鈴木大介さんのお話です。
◆「酒になったか?」は魚獲れたか?という漁師言葉
もともと磐城寿は祝い酒。寿という名前も、漁師さんの場合は海に転落してしまったり網に巻き込まれてしまったり、命に係わる仕事をしているので信心深い漁師さんは自分の船と海には酒を流して漁に出るというひとも大分いたので。それは酒を造っているうえではありがたかったというか、そういった文化も大事にしたいと思っていた。
例えば地元の漁師さんがよく使う言葉で、大量祝いで組合から船主さんにお酒がふるまわれるのだが、水揚げ30万上がったというときに、組合さんが熨斗をつけて船主さんに配るわけだが、漁師さんは「魚獲れたか?」とは聞かず「酒になったか?」と聞く。魚が獲れたか獲れなかったか、漁の具合を聴くのにそんなふうな挨拶の言葉があって、それはうちの地区の独特の挨拶なのかなと。
そして、鈴木さんの故郷、浪江町の請戸地区では、 新年にも「磐城寿」が欠かせませんでした。
◆1月2日の出初式
故郷の浪江町請戸地区は港町で小さな漁船が多い街。年末になると漁師さんたちが年明けの出初式の準備をする。毎年1月2日に船をきれいに飾って、沖の昔神社があった場所に向かって船を出す。漁船が行進するような感じ。子どものころからその出初式が見ていても面白いし、船に乗っても面白い。みかんが飛び交う。船のほうから陸地にいる人にみかんを投げる。それをみんな拾って持って帰って食べるというのが、うちの地区のお正月。ちょうどその飾りつけを年末始める。漁師さんたちも年内の漁が終わってちょっとほっとしたところで、じゃあちょっと飾りつけをしようかということに。それを見ると「今年も終わりなのかな」という気持ちになる。全国でも漁船団でそういった出初式をやるところは珍しいみたいで、かなり遠方からいろんな人がやってきた。それがないとお正月じゃないような感じだった。
街中の人も外の人も船に乗りたいから、船主のところに行くときは皆日本酒を持っていく。だから船主はお正月に一年分のお酒が集まるんじゃないかというぐらい。結局そのお酒をみんなで分け合ってという感じになるが。港町だと縁起担ぎをする人が多いので、年明けのお祝いものに関しては年明けの2日にお酒を用意する。うちのお店も新年2日の朝4時から店を開けていないと間に合わないくらいで、その時間から実際お酒を買いに来る人がいる。うちは新年は2日を乗り切れば休める、みたいな感じだった。
鈴木酒造では地域の「成人の集い」でも、毎年祝い酒をふるまっているそう。来年は、1月10日(日)、浪江町の避難の拠点「福島県二本松市」で行われる「成人の集い」にふるまい酒を持っていく予定とのことです。