2016年11月6日

10月31日 開沼博「はじめての福島学」(1)

今週は、福島学のスペシャリスト、立命館大学准教授、開沼博さんのインタビューです。

開沼さんは福島県いわき市出身。2006年から福島第一原発周辺地域の社会学的調査を手掛け、東日本大震災の後は、福島の復興に関する調査・研究を続けてきました。そんな開沼さんが昨年出版したのが「はじめての福島学」という本。福島の現状をデータで読み解く一冊です。

今日のテーマは「風評被害」です。

◆6年目の風評被害
風評というのは非常にあいまいな言葉。英語にすると「ハームフル・ルーマー(harmful rumor)=有害な噂」ということになる。ただ現場感覚からすると、単なる噂話ではないので、もうちょっと概念定義を明確にするべきだと思っている。ポイントは2つある。1つは経済的な損失。もう1つがディスクリミネーション(差別、偏見)が根強くあること。経済的な損失について。市場に出回ったときに福島のものがなぜ値段が下がるのか。消費者の中には福島ファンがいるのだから、そういう人たちがもっと買えばいいんじゃないかという話もあるが、例えば流通の段階で「うちの消費者がすごく福島のものを嫌がる人がいるんだよね」とか「これを入れただけでクレームしてくる人がいるんだよね」ということを交渉材料にして、値段を下げる動きが震災直後あって、いまもそれが固定化されてしまっている状況がある。そういう差別や偏見を無意識にもっている方たちの想いが、結果として市場の中で、福島の状況を5年前のままに固定化しているという側面がある。「自分の子や孫に福島のものを食べさせられるか」という方と、全然問題ないという方と、両方いると思う。不安を感じている人に適切で正確な情報が伝わっていないということが、震災から6年目に入っている、いまの状況だと思う。そういう問題を見える化していく、まだ知識が足りていないぶんをちゃんと意識化して、みんなで共有するための議論が必要だと思う。

風評被害に関しては、「なんとなく不安」とか「あえては選ばない」など消費者の「無意識の行動」が、実際の消費行動を左右している場合もあります。

◆福島のお米「全量全袋検査」
確かにこの問題はとても理解が難しいと思う。少なくともどういうスタンスで行くかといったら、ちゃんと事実を見てほしい。例えば福島県では、福島で獲れたお米に関して、市場に流れるものも自分の家で消費するものも、1000万袋くらい「全量全袋検査」を行っている。
2012年から始まって、最初の年は1000万分の71袋が法定基準値に引っかかった。(実はこの法定基準値もヨーロッパアメリカの基準の10倍以上厳しくしている)。2015年はそれがゼロ袋になった。世界で一番厳しい検査をして、そういう結果が出た。それでも気持ち悪いという方は、アンケートをとるとだいたい1割2割出てくる。それはそれで仕方ない。でも8割の方はちゃんとデータを知ることによって、大丈夫なんだなと思っている。まず事実を知ることが重要だと思う。

2016年11月6日

10月31日 開沼博「はじめての福島学」(1)

今週は福島学のスペシャリスト、立命館大学准教授、開沼博さんのインタビューです。

開沼さんは福島県いわき市出身。2006年から福島第一原発周辺地域の社会学的調査を手掛け、東日本大震災の後は、福島の復興に関する調査・研究を続けてきました。そんな開沼さんが昨年出版したのが「はじめての福島学」という本。福島の現状をデータで読み解く一冊です。

その中から、今日は、福島の第一次産業「農業・漁業・林業」のお話です。

◆福島の農業・漁業・林業の「いま」
福島の状況として気になるのは、やはり食べ物かなと思う。一方では福島フェアなどで福島の産品、例えば東京なら東京駅の近くに福島の物産館があって、福島の漬物やお酒などが売っていて、すごくにぎわっていて、ぜひ食べたいとおっしゃる方もいる。もう一方では、放射線のこととかどうなっているんだろう、不安だなと思っている方もいらっしゃる。数字をみながら福島の状況をみてみたい。まず農業がどうなっているか。例えば米の生産量は、震災前に比べて震災後2割ほど減った。そこから徐々に上昇したなと思ったら、いまは8割5分ぐらいで足踏みをしている。これはどういうことかというと、原発事故の影響があったものの意外と福島では8割ぐらいの人が農業を続けようと思ったというのが、震災直後の状況。それから5年ほどたつ中で、やっぱり福島で農業をやるのはきついな、やめてしまおうかなという人が増えている、だから足踏みしている。8割から8割5分に。この5年間で5分しか伸びなかった。背景にあるのは一言でいうと価格低下。福島のものというと、市場に流れたときに値段が下がってしまう、または流通の過程で下げられてしまうということがある。作物や時期によって一概には言えないが、例えば米であれば、震災前に比べ、3〜4割価格が下がってしまっているところもある。ようは売上は5年間あなたの会社は売上4割減よといわれたら、ちょっとこの会社たたもうかなという方もいると思う。そういう状況が続いている。
漁業も一応ある程度の回復をしている。遠方にとりにいくような、カツオやサンマは徐々に獲れるようになってきているが、これも農業と同じで値段がなかなかつかない、高くは売れないとう状況が続いている。一方でより厳しいのが近海、つまり陸地から近いところで獲れる魚。そこは試験操業といって、週に1回から2回くらい、安全が確認されている魚を獲る、という状況。
林業は、数字上は相当回復してきている。震災前に比べてほぼ100%に近い生産高になっている。しかしながら問題はそれだけではない。特に山林の除染はほとんどできていない。技術的にもかなり不可能に近いともいわれている。すべての山林が汚染されたわけではないが、汚染の濃度が濃いところの除染は、いまだ手つかずのところもある。中山間地域の暮らしはまだまだ厳しいんだなあと思っていただければと思う。


福島の一次産業において、重要な柱が3つあると開沼さんは言います。
それが「モニタリング」、「ブランティング」、「ターゲティング」。
「モニタリング」は、安心安全のための検査体制を確立すること。
「ブランディング」は、一次産品の付加価値を上げて、競争力を持たせること。
最後の「ターゲティング」は、福島の一次産品に漠然とした不安を抱いている層にターゲットを絞って“正確な情報”を発信していくこと。
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パーソナリティ 鈴村健一

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