2016年11月6日

11月2日 開沼博「はじめての福島学」(3)

今週は、福島学のスペシャリスト、立命館大学准教授、開沼博さんのインタビューです。

開沼さんは福島県いわき市出身。2006年から福島第一原発周辺地域の社会学的調査を手掛け、東日本大震災の後は、福島の復興に関する調査・研究を続けてきました。そんな開沼さんが昨年出版したのが「はじめての福島学」という本。福島の現状をデータで読み解く一冊です。

今日のテーマ、まずは「福島の観光」です。

◆修学旅行と、外国人観光客の戻り
いちばんややこしいのが観光。全体でみると8割から9割ぐらいで足踏みしているが、だいぶ回復してきているとも思う。ただ、残りの2割ぐらいがどういう人たちなのかが、だいぶ偏りがあると言われている。一つは外国人観光客。震災前福島には(年間)4万人の外国人韓国客が来ていたが、震災後は3000人台になり、そこから大きく増えていない。10分の1。これだけ日本でインバウンドとか爆買いとか言っている中で、福島は大きく取り残されている、むしろ後退していしまっている。
もう一つは学校の修学旅行。これも震災から5年経とうとしているがまだ半分くらいしか戻ってきていない。福島は関東からも近いから、震災前関東から修学旅行の一環で来て、盛んだった会津若松などは城見学や農業体験などをやっていた。しかし震災後、震災前と同じように福島に行きましょうというと、「それはどうなんだ」という親御さんがある一定数以上いたりして、学校としてはことなかれ主義で、ほかのところでもいいじゃないかということになる。


2020東京五輪に向けて、海外へも情報発信をしていくことが重要です。

◆スポーツの町、希望や新しい姿の発信
希望を持っているのは、2020東京オリンピックの聖火ランナーに国道6号線を走ってもらいたいという話がある。非常に政治的に反発を受けて、地元の方がいやな思いをしているが、「福島の安全PRにオリンピックを使うのか」「危険なんじゃないか」といった意見。やっぱり原発周辺地域には、Jヴィレッジというアジアで一番広いともいわれるサッカーのトレーニング施設があって、日本代表も国際遠征いくときにいつも泊まっていたような場所があって、非常にスポーツも盛ん。その風景をもう一度取り戻したいという思いを、2020東京に関連してぜひ実現してほしいという住民の方の想いもある。
あと震災後の面白い動きとしては、福島のプロスポーツチームがいくつか誕生している。野球の独立チーム「福島ホープス」、バスケットボール「福島ファイヤーボンズ」など。どちらも運営している方にお話を聴いていくと、震災後ネガティブな形で日本そして世界に知られてしまった福島を、ポジティブに発信できるようなものがほしい、また子どもたちが憧れるような選手や文化がほしいということで、こういうチームが生まれたということ。スポーツに重ねるような自分たちの希望や新しい姿の発信の在り方をくみ取って、福島の状況を発信する機会にしてもらればな、と思っている人も多いと思う。


2016年11月6日

11月1日 開沼博「はじめての福島学」(2)

今週は、福島学のスペシャリスト、立命館大学准教授、開沼博さんのインタビューです。

開沼さんは福島県いわき市出身。2006年から福島第一原発周辺地域の社会学的調査を手掛け、東日本大震災の後は、福島の復興に関する調査・研究を続けてきました。そんな開沼さんが昨年出版したのが「はじめての福島学」という本。福島の現状をデータで読み解く一冊です。

今日のテーマは「風評被害」です。

◆6年目の風評被害
風評というのは非常にあいまいな言葉。英語にすると「ハームフル・ルーマー(harmful rumor)=有害な噂」ということになる。ただ現場感覚からすると、単なる噂話ではないので、もうちょっと概念定義を明確にするべきだと思っている。ポイントは2つある。1つは経済的な損失。もう1つがディスクリミネーション(差別、偏見)が根強くあること。経済的な損失について。市場に出回ったときに福島のものがなぜ値段が下がるのか。消費者の中には福島ファンがいるのだから、そういう人たちがもっと買えばいいんじゃないかという話もあるが、例えば流通の段階で「うちの消費者がすごく福島のものを嫌がる人がいるんだよね」とか「これを入れただけでクレームしてくる人がいるんだよね」ということを交渉材料にして、値段を下げる動きが震災直後あって、いまもそれが固定化されてしまっている状況がある。そういう差別や偏見を無意識にもっている方たちの想いが、結果として市場の中で、福島の状況を5年前のままに固定化しているという側面がある。「自分の子や孫に福島のものを食べさせられるか」という方と、全然問題ないという方と、両方いると思う。不安を感じている人に適切で正確な情報が伝わっていないということが、震災から6年目に入っている、いまの状況だと思う。そういう問題を見える化していく、まだ知識が足りていないぶんをちゃんと意識化して、みんなで共有するための議論が必要だと思う。


風評被害に関しては、「なんとなく不安」とか「あえては選ばない」など消費者の「無意識の行動」が、実際の消費行動を左右している場合もあります。

◆福島のお米「全量全袋検査」
確かにこの問題はとても理解が難しいと思う。少なくともどういうスタンスで行くかといったら、ちゃんと事実を見てほしい。例えば福島県では、福島で獲れたお米に関して、市場に流れるものも自分の家で消費するものも、1000万袋くらい「全量全袋検査」を行っている。
2012年から始まって、最初の年は1000万分の71袋が法定基準値に引っかかった。(実はこの法定基準値もヨーロッパアメリカの基準の10倍以上厳しくしている)。2015年はそれがゼロ袋になった。世界で一番厳しい検査をして、そういう結果が出た。それでも気持ち悪いという方は、アンケートをとるとだいたい1割2割出てくる。それはそれで仕方ない。でも8割の方はちゃんとデータを知ることによって、大丈夫なんだなと思っている。まず事実を知ることが重要だと思う。


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パーソナリティ 鈴村健一

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