2016年12月5日

12月5日 群馬大学・片田敏孝教授(3)


今朝も先週に引き続き、防災のスペシャリスト、岩手県釜石市で長年防災教育に携わり現在は全国各地で防災の取り組みを指導する群馬大学大学院教授、片田敏孝さんのインタビューです。

先々週の福島沖を震源とする地震でもそうだったように、「津波警報」「津波注意報」が発令されても、多くの地域では津波の高さは予測を下回ることが多くあります。そこには、津波予測の「特性」と「限界」があります。

また、たびたび「津波警報」「注意報」が出されることで、次第に「警報慣れ」「注意報慣れ」してかえって逃げなくなる。いわゆる警報・注意報が「オオカミ少年」になることを、片田さんは大きく懸念しています。

◆「オオカミ少年」になるかどうかはあなたの災害にたいする姿勢そのもの
津波の予報区間はおおむね各県1つくらい。岩手県なら岩手県沿岸に、宮城県であれば宮城県沿岸に、というふうになる。どのようにこの警報を出すかというと、例えば岩手県であれば、いろんな点で予測をして、その中の最大値をとって「津波警報」や「津波注意報」を出す。言ってみれば、最大値にあたる地域以外のほかの地域はその予測値以下になる。そうなると、皆さんもおそらく津波注意報、津波警報の数字はおおむね大きく出がちだと思われると思いますが、それはその通りなんです。その区間の中の一番大きい数字をもってして出すわけだし、平均値をとってもしょうがない。そうなると情報の性格として、皆さんにとって「大げさに出がちなもの」という一面がある。でもその可能性があるから出ている。大きい予測値が該当するのはあなたのお住まいの地域かもしれない。でもそれがこなかったら「よかった!」と思ってもらえないと、津波警報は出せないんです。
またこの警報・注意報が「オカミ少年になる」というのは非常に怖いこと。それも含めて自らを律していただきたい。今回も逃げたが津波はそんなに大きくなかった。そこで「なんだよ、逃げて損したよ、気象庁また大げさだよ!」と言ったら、次の津波のときに逃げるでしょうか?逃げなくなりますよね。仮に逃げたとしても、また外れる。「損した!」と。そこで「損した!」と思ったらおしまい。「こなくてよかった、得した!」と思っていただけるあなたでなければいけない。「なんだこんちくしょう、はずれた!」と思ったとすると、「またはずれた!」「またはずれた!」となって、そのうち逃げなくなる。逃げなくなっても、まだ多くの場合は大丈夫だと思う。そうすると「ほら、逃げなくてよかっただろう」になる。こうなるともう逃げない。そして何度も何度も繰り返すうち、概ねずっと大丈夫、でも最後の一回を迎えたときに「しまった、逃げとけばよかった!」となる。そこで津波の出され方の性格をきちんと理解して、「可能性があるから逃げたんだ、でもこなかった、よかった」「また逃げた、今回も来なくてよかった」そうやって逃げ続けて、最後の一回を勝ち取れるのが、「やっぱり逃げていてよかった」ということになる。
こういう情報をわたしたちはどう利用するのか。それを活かせる自分であること。「オオカミ少年」になるかどうかはあなた自身の問題であり、あなた自身の責任であり、その姿が子どもたちや孫たちにも伝わっていく大きな大きな分かれ目だと思う。
津波警報を適切に使えるか、理解できるか、行動に結びつけられるのか。それはあなたの災害にたいする姿勢そのものだと思う。相変わらず逃げなきゃいけないときにはお役所に教えてもらえる、その情報は必ず正確じゃなきゃいけない、というような、情報やお役所に対する「依存度」が高くて、すなわち自分の命を守ることに対して主体性がない。これが最も危ない状態。それを理解してほしい。そうでなくなるようあなた自身に変わってもらいたいし、それが次の津波に対して教訓を生かすことだと理解してほしい。


おさらいです。
◆「津波予測は県単位で一番大きな数値を採用している。
多くの地域では、予測値を下回ることが多いが、もしかしたら最大値の津波があなたの街を襲うかもしれない。」と心得ておくべき。
◆津波避難で津波が来なかったら「逃げて損した!」ではなく「来なくてよかった!」と考える。それを家族や地域で繰り返すことが、東日本大震災の最大の教訓になる。

★関東にお住いの方は放送から1週間、「ラジコ」の「タイムフリー」で放送が聞き返せます。こちらからどうぞ!

2016年12月1日

12月1日 群馬大学・片田敏孝教授(2)


今日は、防災のスペシャリスト、群馬大学大学院教授で広域首都圏防災研究センター長、片田敏孝さんのインタビューです。岩手県釜石市で長年防災教育に携わり、現在は全国各地で防災の取り組みを指導。「命を守る」「人が死なない防災」を旗印に活動を続けています。

先週火曜日の「福島県沖を震源とする地震」で、宮城県仙台港周辺地域には「津波1メートル以下」を示す「津波注意報」が出されました。けれども、実際仙台港に押し寄せた津波は、最大1.4メートル。気象庁は、津波の襲来後に、この地域への「津波注意報」を、よりレベルの高い「津波警報」に切り替える事態となりました。

「津波1メートル以下」を示す「津波注意報」に対して、わたしたちはどのような避難行動とるべきなんでしょうか?片田さんに伺いました。

◆「津波の精度は倍・半分」
津波というのは、潮位変化20センチ以上を「津波」と定義する。20センチ以上1メートル未満のときに「津波注意報」が、1メートルを超えて3メートルぐらいまでのときに「津波警報」が出る。ただ、今回気象台は1メートル以下だろうと予想し、宮城県は津波注意報が出たが、実際1,4メートルの津波が来たということで、慌てて津波警報に切り替えたということもあった。津波というのは非常に不確定な現象でちょっとした海底地形や海岸線の地形で津波の影響は変わる。そして局所的にはものすごく大きくなることも知られている。イメージしていただくとわかると思うが、池の中に石を2つ投げ入れると波紋ができる。2つの波紋は何事もないようにすれ違っていくが、例えば右から5メートル、左から5メートルの津波が来て、出会ったところは「足し算」になる。そこはピンポイントで「10メートル」になる。そして何事もなかったように、また5メートル、5メートルですれ違っていく。そうすると、海岸線の地形が複雑な場合、あちらこちらに跳ね返ったりして、たまたまそのポイントで二つの波が合わさったりすることがあって、そういうところではピンポイントで10メートルなんてこともあり得る。
例えば岩手県の沿岸を思い起こしてほしい。北の端から南の端までリアス式海岸で、奥まったところでは津波が大きくなったり、岬の突端では津波が大きくなりやすい傾向があったり、地形要件によって、すごく変わる。例えば北海道南西沖地震という奥尻島がやられた津波があった。青苗地区はおおむね5メートルくらいの津波だったが、重内というところでは23メートルを超える津波を観測した。ピンポイントでそういう数字が出てくる。
だから注意報の場合も、計算値としては1メートル未満というふうに出たのかもしれないが、その最大値をとっても「注意報」だったのかもしれないが、でも予測が必ずしも全部当てきれるわけでもないし、それほどの解像度があるわけでもない。場所によってはものすごく大きいものがでる可能性があるとういことを考えると、実は津波注意報でも沿岸部の方々は十分に注意して対応する必要があるとわたしは考えている。
「津波の精度は倍・半分」という言葉があって、津波は予測された数値の倍であっても正しいし半分であっても正しい、その程度の精度なんだということを心得て、1メートル以下だから大丈夫と思わずに、やはり大きな地震があって海が荒れるわけだから、やはり万が一を考えて逃げること。本当に来なかったらよかったね、といえば済むこと。そう言える自分であるか。やはり避難の問題は人間側の問題だなと考えて、その日その時の行動を考えてほしい。それが次の世代に、東日本大震災の教訓を引き継いでいくことだと思う。


「津波の精度は倍・半分」と心得よ。予測された津波の高さは倍かもしれないし、半分かもしれない。そのくらいの幅をもって、避難行動をすることが「命を守る」ことにつながる。いざという時のために忘れないでおきたい言葉です。

★関東にお住いの方は放送から1週間、「ラジコ」の「タイムフリー」で放送が聞き返せます。こちらからどうぞ!
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パーソナリティ 鈴村健一

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